第 17 話 首相官邸奪還作戦 ―考案―
首相官邸奪還作戦。
リハナはその仰々しい作戦名を初めて聞いた。
彼女が初耳ならば、当然ながら他の面子もそうだろう。「首相官邸奪還?」
「それに関しては私が説明する」と挙手したのはクレハだった。「リハナは覚えてる? 私達と無線で話した最後の会話」
「はい。私が別行動を報告したときのやつですね」
喋る『
「実はその後、私達は国会議事堂に向かったんだよ。『
「情報の交換」
「私達は『
「包囲を突破されたとなれば、他の施設に『
「なので、未だに連絡を取れない首相官邸の状況を伺いに行ってもらったんです」
二人の声が順番に発せられ、デュエットで歌を歌っているかのようだった。
「見て驚いたよぉ。まさに魔窟だったねぇ」ミデアが驚いているようには聞こえない声で言った。
「ああ、そうか。クレハさんが見に行ったということは、マーダー小隊の皆さんももちろん同行したんですね」リハナはミデアが話したことに面食らったが、すぐにそれが道理であることに気が付く。
「オレは行ってねえよ」アイーシャが言った。「オレは一人残って議事堂の護衛についた。今は無事だが、いつ『
「それから議事堂に戻った私達は、首相官邸の奪還する計画を考案していたんだけど――その途中で絶大な
言い分から察するに、絶大な
「なるほどな」神宮寺が興味深そうに呟いた。「俺の居場所を特定できたから、一時的に会議を中断させたわけだ。俺を作戦に参加させたほうが成功も確実だから」
「いえ、神宮寺さんは待機です」
「あぁ!?」
欝河未月空の冷ややかな否定に、神宮寺は顔を歪ませながら返事した。
「あーあー解ってねえなー」とややオーバーな声量で両手を広げた。「もう『
「確実性を取るために他のものを蔑ろにしては元も子もありませんでしょうが。いい加減、神宮寺さんは自分の立場をお自覚になってはでしょう?」
「なるべく被弾を抑えるからさあ」
「
ちぇー、と唇を尖らせながら不貞腐れて座っている神宮寺を、
そんな突っ込むのも疲れる二人を
「はい」それは何がなんでも行く気だった。
「ちょっと待てよ」そこで、待ったをかけたのがアイーシャだった。「オレらを総動員する腹積もりは解るけどよ、リハナは有陣大学で大怪我を負ったんだろ。そんな状態で計画に参加させても、足を引っ張られるだけだろ」
乱暴で着飾りのない言葉だった。しかし、それが彼女なりの優しさであることを、リハナは知っていた。
「いやー、それなんだけどねぇ」ミデアがアイーシャの懸念に複雑そうな表情を浮かべた。
「んだよ、なんか言いたいことでもあんのか」
「いやね、私もアイーシャの言い分には
「は?」
アイーシャが信じれないといった風に、見開いた眼をリハナに向けた。
「あはは」と笑う他ない。
「でも、車椅子……」
「ここに来る前に、車椅子から立ち上がってるよ」
「頭部から血ィ流して、足も骨折してんだろ?」
「さっきも言ったけど、問題なく立ててるし、頭部の血も止まってるらしいんだよねぇ」
病室から眼が覚めて、医師の一回目の検診では、まだ骨も折れたままで頭部も頭蓋骨損傷一歩手前、といった状態だったという。二度目の検診が来るまでにクレハに連れてこられたので、まだ包帯やギプスが巻かれたままだったが、数時間前に感じていた痛みも今ではすっかり引いていた。
「痛みも全く感じてないんだよねぇ」
「はい。全くです」
「
身体に回路のように張り巡らされた
「けどよ、リハナの魔力量って……」アイーシャが言いづらそうながら、マーダー小隊の面々はその言わんとしていることが解った。
リハナは生まれ持ってから
「言ってる意味がよく解らねえけどよ」愕然としているマーダー小隊の面々に、神宮寺は口が開いた。「リハナの魔力量なら、普通に人並み以上にあるだろ」
突然変異体。ましてや『
「そんなに驚くべきことか?」
「いや、これは人並み以上っていうか……」ただ、そんな彼らよりも深く詳細に聞き分けることができるのが『
「やっぱり、アイーシャもそう思う?」ミデアも気難しそうに言った。「そうなんだよねぇ。妙なんだよ」
「ああ。濃いとも薄いとも言えねえし、質が良いとも悪いとも言えねえ」
「だからって、平均とも言えない」
「そ、そうなんですか……?」リハナは二人のはっきりしない見立てに当惑を見せていた。
もしかしたら、だ。
もしかしたら、普通の『
「まあ、確かに、以前よりも多少は身体の重さがなくなっているような気がしますが」
「どうしてそんなことが……」
「よく解んねえけど、魔力量が急に上がるのって、そんな不思議なことなのか」
「そりゃそうですよ」神宮寺の疑問に答えたのは、自覚のないはずのリハナ本人だった。「
「へえ、そういうもんなのか」
解っているのか解っていないのか、どちらとも言えない軽さで納得する神宮寺。地球人には馴染みのない理論なのだろう。しかし、子供の頃からそう知らされていたリハナからすれば、自分に成長性がないことが最初から解っていたことになり、無知な神宮寺を理解させるのに熱が入るのは仕方のないことだった。
「リハナは変化があった自覚はないの?」クレハは訊ねた。「いえ、全く」と答える他なかった。
いや、全くと言えば嘘になる。彼女の記憶の片隅に、ある光景が広がっていた。
それは、有陣大学で戦った『
――全く覚えてないけど、あいつを倒したのは私だったということ?
だが、それならば、見に覚えのないハンドガンの弾の消費や知らない間についた傷にも納得がいく。
全く自覚のない成長。
――私の身体、どうなっているんだろう。
『
「詳しい事情をお訊きするつもりはありませんが」欝河未月空は咳払いをし、話題を本題のほうに戻そうとした。「とにかく、そちらのリハナさんも作戦に参加できるというわけですね」
「はい」それでも、大事を取って安静すべきなのが医師の判断だろう。しかし、リハナは、例えそう言われようとも参加を拒否するつもりはなかった。
「マーダー小隊再起動、ってわけだな」アイーシャは力強い笑みを浮かべた。
「でも、やっぱり戦力不足は否めないけどなぁ」ミデアは腕を組んでうーんと唸っていた。
「そうだね」クレハは無表情に頷いた。
「そんなに敵の数が多いんですか」リハナは、マーダー小隊の先輩方の強さを知っているからこそ、三人が渋面にしていることが信じられなかった。
「もう、『
「『
「いや、それにしては侵入経路が少なすぎる。巣を張って、そこに獲物を誘き寄せる奴のやり方じゃねえ」
「あの警備の多さから推測するに、多分あそこには――『
「『
リハナはその呼称を聞くと、車椅子に乗っていることも忘れて机を叩きながら立ち上がった。
「ブレイン……ってなんだ?」神宮寺は小首を傾げた。
「あれ?
「『
「ふーん。じゃあ、研究に携わることもある分、ボクのほうが詳しいね」としたり顔だった。「ブレイン、ってのは『頭脳』と書いてブレインって呼ぶんだけど、その名の通り、『
「脳みそを担ってる? つまりアレか、『
「正確には指揮官だね。どういった原理かは解らないけど、『
「それって、『
「最大の利点としては、互いに協調性が強く生まれることだね。『
イメージとしては、『
「特に厄介なのが、『
『
「でも、弱点もあるよ? その筆頭が、『
「全滅?」神宮寺は眼を丸くした。
「人間で言うところの、脳みその役割を果たしているからね、それがなくなったら機能しなくなる、ってことじゃない?」
「『
「そういう記録があるね」
「それなら、『
『
しかし、その単純さに辿り着くまでの障害が非常に難行。彼らの要である『
「幸いにして、『
「というか、他の場所でも『
「だからこそ、地球の軍事でもギリギリいけそうなんだが、それでも懸念は残るよな」
うーん、とマーダー小隊の四人が腕を組んで喉を唸らせる。戦力の割合は彼女達四人が七割を占めている、といったところ。もちろん、装備の内容にもよるが、人の手で扱う銃器ではどうしても限界が来てしまう。その値が人の手の強度を凌駕できないからだ。そうなると、銃器では突破できない装甲を持つ高ランクの『
実質的に戦力となるのは自分達だけ、という考えが彼女達にはあった。
そんなときだった。「その話、オレにも詳しく聞かせてくれないか?」
対策支部もとい生徒指導室の外から男の威勢のいい声が響いてきた。
バタン、と勢いよく扉が開かれた。
押し開いたときに前に出していた手の平をそのままにした姿勢で、
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