65.お絵描き準備=彼女は少女の規格外っぷりに驚く。
注文した料理が届くまで魂が抜けたようにだらだら無気力に過ごす私達。
デザインの詳細を詰める事に全ての力を注いだせいか、喋る事すら億劫で、しばらくの間、静かな空気が場に流れる。
「………………そういえば、ここまでやっておいてあれですけど、きちんと事務所?企業?とかに話は通してあるんですか?」
ぼーっとしたまま、私はふと、湧いてきた懸念を口にしてみる。
あれ?今、なんとなく思いついた事だけど、これって万が一、話を通してないって事になってたら相当まずいんじゃ……
これが個人なら特に問題ないが、わざわざレッスンスタジオで何か練習していたという事は十中八九、裏に企業なり、事務所なりがあるはずだ。
だとしたらまだデビューもしていない彼女がこうして直接、デザインを依頼しにくるのは少しおかしい。
正直、ここまでの彼女の行動は部外者である私の目から見ても我儘の一言に尽きる。要望ならともかく、デビュー前の一新人がこんな勝手を事務所が容認してくれるのだろうか。
「んー……ああ、それなら大丈夫ですよー。ミリアさんのデザインじゃないと絶対にデビューしない、したくないって言ったら、じゃあ、それまで待つから依頼を受けてくれるよう説得してきなさいって言ってましたし……」
「んなっ!?」
気の抜けた返事ではあったものの、その内容はぼーっとした頭を一気に目覚めさせるほど、衝撃的なものだ。
まさか彼女が私のデザインじゃないとデビューしないとまで言い切っているのは完全に予想外。
普通に考えてデビュー前の新人がそんな事を言い出したら最悪、デビュー自体をなかったことにされてもなんら不思議はない。
それでもなお、彼女が意見を通していられるのはその事務所が寛容なのか、それとも白崎朝陽という少女にそこまでさせる魅力があるのか、どちらにしても裏でそんな事になっているなんて思いもしてなかった。
「…………私からも一つ聞いていいですか?」
「……うぇ?あ、はい、どうぞ?」
驚く私を他所に彼女は腕を枕にしたまま顔をこちらに向け、覗き込むように尋ねてくる。
「……その、えっと、答えづらかったらいいんですけど、ミリアさんはどうして私のためにイラストを描いてくれたんですか?最初はあんなに嫌がってたのに」
様子を窺うような彼女の口から出てきたのは当然の疑問。たぶん、答えないで良いという選択肢を残してくれているのは私を気遣っての事だろう。
「……別に白崎さんのためってわけじゃないですよ。私が描きたくなったから描いた、それだけ……って言っても納得してくれそうにないですね」
答えなくて良いという選択肢を提示された上で、曖昧に濁したまま回答しようとした私に対して彼女はそれ許さないといわんばかりの視線を向けてくる。
「…………そんなに面白い話じゃないですよ?」
「……構いません。どんな理由だとしても知っておきたいんです。ミリアさんのファンとして……なにより大切なお友達して」
最終確認という意味合いを含めた問いに真っ直ぐ答え返す彼女。
きっと、話したところで何が変わるでもないと分かっていながらも、私はイラストを描けなくなったきっかけと共に、その理由を口にした。
☆ ☆ ☆
65.お絵描き準備をご覧くださり、誠にありがとうございます。
少女に請われ、自らの過去を打ち明けようとする彼女……果たしてトラウマを乗り越える事はできるのか……?
今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録……もとい、フォローの方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「なるほど……ゆうぐれ様は最初から規格外だったというわけですわね」
「それ、色々な人に言われるのだけど、私には何がどう凄いのか分からないのよね……」
「……普通、デビューさせてもらおうっていう新人があそこまで我儘を通す事はできないからね?最悪、契約を切られる事だってあるだろうし」
「?ただ要望を言っただけなのだからそれくらい問題ないのではないかしら」
「……こういうところが本当にゆうぐれ様って感じですわ」
「だね、流石は最強Vtuberって感じだよ」
「?」
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