第6話 恋は道連れ
「優磨よ、俺は部活に入るぞ」
「そうかがんばれ、優介ならできると思うぞ(棒)」
僕は優介をスルーして、理科室へ向かう準備をした。
優介が部活に入ろうが僕が部活に入りたくなるわけでもない。
「それでな俺、美術部入るんだ」
俺の名は無辜優介。今ではイケてる金髪クール男子だ。
俺には過去に憧れの人がいた。その名も昼山優磨。彼はここ、藍才高校の生徒だった。
そこで俺は、中学に入ってから決めたのだ、藍才高校に入ってやると。
とりあえず俺の中学生活を簡単に語ろう。
まず勉強をしたな、受験に備えてよくしたものだ。
それから放課後には、よく勉強をした。
ああ、夏休みなんか良い思い出が沢山あった、例えば勉強をしたということとか、沖縄へ家族旅行に行った時、クーラーの効いた部屋で勉強をしたり、花火大会で花火の爆発音を聞き、夏を感じながら勉強したり、
中学には沢山の良い思い出があるのだ。
嘘だ。まったく楽しかった覚えがない。
上記の通り俺は、勉強しかしていないのだ。
藍才高校は国立難関校、そう簡単に入れるわけないのだ。
それと、自分です言うのもあれだが、俺は少しおつむが弱い。
そのため、俺は人一倍ならぬ人三倍、努力しなければいけなかったのである。
そしてついに俺は念願の藍才高校に入学することができた。
俺は決めた中学時代に溜まりに溜まったものをすべて出す(決してエッチな意味ではない)。そう決めた。
"高校デビュー"
とりあえず俺は中学の頃の印象を180度変えるために、髪を金髪に染めた。
すると俺はどこかの戦闘民族が覚醒を遂げた時のような、自信を手に入れた。
そして俺は高校に入学した。
入学して数日も経つと、俺は数人の友達を作ることができた。俺は実はコミュ力があるのだということを知った。
ある日の放課後のこと、俺はいつものように帰宅しようとしていた。美術室を横切るとチラッと中を覗いてみると。
ある女性と目が合った、その瞬間僕の脳内に電撃が走った。
俺の目には黒髪清楚系美人が映っていた。
その女性は優介の好みを全て組み合わせた、優介にとって完全無欠の存在だった。無論、優介がそのような女に惚れないわけがない。優介はその一瞬で、一目惚れをしてしまったのだ。
優介は心に誓った、自分は美術部に入って、必ず彼女を落として見せると。
俺はその日のうちに入部手続きを終わらせて入部した。
職員室に入部するための紙を先生へ渡そうと思ったところに、夏風陽菜がやってきた。彼女は紙を握り締めていて、彼女もまた優介と同じように部活顧問に、入部手続きをしようとしているところだった。
彼女は、部活などにまったく興味が無さそうな優介が部活に、入部しようとしていることに驚き、優介を問い詰めた。
優介は仕方なく、入部したことの経緯を語った。もちろん一目惚れしたことも。
話を聞き終えた陽菜の表情は、イラだちを隠しきれていなかった。
そして陽菜は 「私も入部する‼︎」 っと、職員室前なんてまったく気にしないで大声を張り上げて言った。
優介は陽菜の握っていた紙を取り上げた。その紙には既に陸上部と、枠にデカデカと書かれていた。前にも言っていたとうりだが、陽菜は陸上部に入部すると、言っているのだ。そのため陽菜が美術部に入りたい理由など思い浮かばない。
俺は陽菜に聞いた。陸上部に入ろうとしているのに、なぜ、そしてどのようにして入部するつもりなのかということを。
すると陽菜は兼部すると言った。そういえば忘れていた。部活に入部する気はまったくなかったので、忘れていたがそのような手段がある、ということを。
陽菜が美術部に入部しようが、陽菜の勝手だが。陽菜はなぜか俺に絡んでくることがある、なので俺のラブライフが脅かされてしまう可能性がある。
まあ、そんなことは気にしたら負けだ。そんなこんなで俺の人生初めてのラブコメが始まった。
〜〜〜〜〜〜
「あ、そういえば今日。僕、ぼっち下校だ」
よく思い出してみると、登下校どちらも入学以来、優介と一緒だった、美術部は他の部活に比べて活動頻度が少ないが寂しいものだ。生前はぼっち登下校なんてしょっちゅうのことだった。学校には優樹がいたが家が真逆だったので一緒に登下校したことはない。つまり僕は9年ぶりのぼっち下校なのだ。
季節もポカポカしてきた。僕はため息を吐き、下駄箱に手を伸ばした。手を伸ばすと僕の腕と細い腕が重なった、それは君塚さんのものだった。君塚さんも僕と同じように部活に未所属なのだ帰宅部ってやつだ。そのため僕と下校時間が被るというわけだ。
できれば一緒に帰りたいが、家の方向は同じなのだろうか。そう思っているのは決して好きだからではない。
君塚さんに話しかけてみると、まさかの家への道なりがほぼ同じだった。正直驚いた、今まで登下校で一度も会ったことがなかった。
「もしよければ、僕と一緒に帰らない?」
「いいよ」
心の中でガッツポーズ。これは決して嬉しい訳ではない、ぼっち下校が回避することにただ喜んでいるだけだ。
そう心に言い聞かせながらアスファルトの上を歩き出した。
しかしいざ一緒に歩いてみると、会話に困った。忘れていた僕はコミュ力がめっちゃある優介なんかじゃない。中身はただの陰キャなのだ。
話すことを考えていると、ふと一つだけ共通の話題が頭によぎった。それは君塚さんのお兄さんの話題だ。
他人の話じゃないと会話ができない、というのは少し屈辱的なことだがこの際、この空間を乗り越えることができればそれで良い。
「前に話していた、君塚さんのお兄さんってどんな人なの?」
「お兄ちゃん? お兄ちゃんわね……」
「父が再婚して連れてこられた義理の兄なんだ、お兄ちゃんは格好良くて、運動も勉強も私なんかより、ずっとずっとできて、特に運動なんかはサッカーの全国大会に出場してその部のエースだったんだ」
君塚さんのお兄さんを語る様子は、まるで小さな子が夢を語る様子だった。君塚さんもこんな表情をするなんてお兄さんも羨ましい限りだ。
すると雨が降ってきた。空は青く太陽の光が雨粒を通し薄く虹色の光が目に映った。天気雨というやつだ。
僕の衣服はあっという間に濡れてしまった。君塚さんも同じような状況に陥っていた。
「あそこで雨宿りしよっか」
僕は屋根のある今は閉業している商店街のお店を指差していった。そして僕らはそちらへ駆け込んで行った。
屋根のしたに着くと僕は君塚さんの方を見た。君塚さんはびしょびしょになってしまっていた。心なしかシャツから下着が見えていた。なんというかエッチだ、僕は25年間生きているが心も体もふつうの高校生なのだ。高校生でこのような場面で興奮しない奴なんて1人もいないだろう。
君塚さんはこのままでは風邪をひいてしまう可能性がある(優磨が欲情してしまう可能性もあり)。僕は鞄の中にしまって置いたブレザーを取り出した。
「君塚さんこれ着て、少しでも体を温めて」
僕は君塚さんにブレザーを手渡した。
「そんなの川窪くんに悪いよ」
「僕は全然平気、なんたって男だし。明日返してくれればいいよ」
「ありがとう」
君塚さんは僕のブレザーを被った。
「……川窪くんの匂い」
「なんか言った?」
「なんでもない」
「私ね川窪くんといるとなんか心が落ち着くな」
「え、え、ほんと?」
優磨は顔を赤くした。
雨が止んでいた。なんて都合の良い雨なんだ。
僕たちはまた同じように家へ向かった。
家の前に着き君塚さんに別れの挨拶を言おうと思ったら、君塚さんは驚いた表情をしていた。
どうしたの、と尋ねてみると。まさかの君塚さんは僕の隣の家に住んでいるらしい。
「き、君塚さんが僕の隣の家に! なんで今まで会わなかったんだ?」
「私ここに越してきたばかりで、」
「そうなんだ、だから」
「でもよかった、川窪くんが隣で」
君塚さんの笑顔は僕の胸を貫いた。
「じゃあ、また明日」
僕が家に入ろうとした時、君塚さんは僕の裾を掴んだ。僕が振り返ると君塚さんは、
「また今日みたいに一緒に下校してくれない?」
僕の心臓はバクバク鼓動を鳴らして今にも死んでしまいそうだ。
「いいよ……」
その言葉を聞くとすぐに君塚さんは走って家へ帰って行った。
(こんな青春ムーブがあって良いのか!)
これから始まる、僕の人生2度目のラブコメが。
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