ソロぼっちS級探索者は早々に引退して一人で好き勝手生きていこうとしたのに、仲間が次から次に集まってくるのだが
世界るい
第1話 ダンジョン最深部にて
十五で探索者になってから早三年。俺は今回も未踏破最難関ダンジョンの一つにソロで潜り、あるドロップアイテムを探していた。この数日を掛けてようやく──。
「おー、あったあった。ボス部屋見っけ」
ダンジョン最深部へと辿り着いた。ご丁寧にどのダンジョンにもいかにもボス部屋ですという扉があり、その手前が安全地帯となっている。俺はそこで無骨な大剣──バスターソードを壁に立てかけ、どさりと地べたに座り込む。
「今回はダンジョンレベルで言えば4000くらいか。期待してもよさそうだな」
ウェストポーチ型のアイテムボックスからシングルバーナーとポットを取り出し、コーヒーを淹れ、飲みながら呟く。
ダンジョンレベルはモンスターの強さで決まるわけだが、モンスターにレベルが表示されているわけではないので結構適当だ。ちなみに1000以上はS級探索者にしか入れない。S級のピンキリのキリからするとここの敵は四倍くらい強い……気がする。
「ま、少なくともダンジョンレベル査定官がクリアできるレベルではないのは間違いないな」
査定官はA級探索者レベルがほとんどだ。いくらS級探索者がサポートしてもA級レベルの探索者では、1フロア目にいた特大ヘルハウンド一匹すら危ういだろう。
「さて、じゃあぼちぼちボスの顔を拝みに行きますか」
コーヒーを飲み終え、立ち上がる。ズボンに着いた砂埃をパンパンと叩き落とし、【エンチャント:不壊】だけが取り柄の切れ味が最悪でバカ重なバスターソードを担ぐ。防具? そんなものは甘えだ。
ギィと重い扉を開く。見慣れた光景──真っ暗だった部屋にロウソクの明かりが灯り始め、その奥でこちらをジッと待ち構えているモンスターの姿が見える。
「まぁ、雑魚モンスから予想はしていたけど、ケルベロスってやつか」
遠目からでも分かる圧倒的に巨大な体躯、象なんかより遥かに大きい。三つ首それぞれの口元からは食べるという用途にはオーバースペックだろという牙が覗いており、その牙の隙間では黒炎がチロチロと踊っている。
「地獄の番犬……。相手にとって不足なし。ここで死ぬならそこまでよ。さぁ、殺り合おうぜ?」
脳内にドーパミンが溢れる。常に地獄への片道切符は握りしめている。
「オラァァァアアア!!」
吠えながらケルベロスへと迫る。雷のごとき速さで駆け、何十メートルを跳躍し、真ん中の首の脳天へと上段からの振り下ろし。
「ガァァ!?」
クリーンヒットだ。切れ味ゼロのバスターソードはもはや斬属性武器というより打属性武器だ。圧倒的速度と質量の乗った一撃でケルベロスの頭が地べたまで叩き落とされる。
「次はお前だ」
人間を舐めていたのか、はたまたエサにしか見えていなかったのか、ケルベロスからは驕りを感じた。真ん中の頭が叩き落とされ動揺したその一瞬を逃すわけもない。俺はバスターソードを右の頭の額に無理やりねじ込む。
「グァッァァアアッ!!」
絶叫。半狂乱になったケルベロスは頭を振り回しながら黒炎を撒き散らす。俺は飛びのき、黒炎を避け続ける。
「ガァァアア!!」
ノーダメージの左の頭がこちらを睨み、吠えた。完全に気を失っている真ん中の首はガクンガクンと垂れ下がりながら揺れ、額にバスターソードの刺さったままの右の首は白目を剥きながら唾液と黒炎を撒き散らし続けている。
「ホラーだな」
異様さが極まったケルベロスがこちらへと突進してきた。左前足で俺を押しつぶそうとスタンプしてくる。
「ほっ」
分厚い爪が音速の壁を越え、空気を破裂させながら迫る。空を切った前足は轟音を響かせ、地面を叩き割る。当たれば多少痛いかも知れない。
「が、当たらなければどうということでもないし、いい加減その口閉じろよ」
前足の連続のスタンプと黒炎を避けながら、まずは半狂乱で無作為に炎を吐き続けているうざったい方の首をどうにかするために顎の下に潜りこむ。軽く膝を曲げてからジャンプして、顎を真上に殴りつける。
牙が無理やり嚙み合わされ、ガギンという音の後に目と耳と鼻から黒炎が溢れる。プスプスという音と焦げ臭い匂いをさせ、真ん中の首と同様にガクリと垂れ下がった。
「あと、これ返してもらうな」
額からバスターソードを引っこ抜き、残った左の首と対峙する。左の首はその獰猛な牙で俺を噛み殺そうと迫ってくる。
「遅ぇよ」
迫ってくる上下の牙、俺は下顎を一閃──横に薙ぐ。ケルベロスの巨体がゴロゴロと横に転がっていく。
「んじゃ、お疲れさん」
顎がだらんと下がり、脳震盪を起こしたのかフラフラと立ち上がろうとするケルベロスに態勢を立て直す隙など与えず、一気に首を叩き斬る。切断はできずとも首の骨や神経などは全て断つくらい容易だ。
「グァァ……」
断末魔を上げ、巨体が沈む。そこでクリア判定となったのだろう。モンスターの死骸は粒子となって消え去り、代わりに宝箱が出現する。
「頼むぜ、頼むぜ?」
俺は二度ほど手を合わせて祈りながら宝箱を開ける。
「お、お、お、お、おぉぉぉおおお!! っしゃあぁああ!!」
宝箱の中には金色に輝く石板が一枚。俺はそれを手に取る。召喚獣を召喚し、契約するためのアイテムだ。等級は銅、銀、金の三種。最上位の金の石板がお目当てだったわけだ。
「さぁ、エクストラボスに行こうか」
俺はノータイムで躊躇することなく石板に剣を立て砕く。
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