第236話


『と、いうことである程度で君のところに来るはずだよー』


「そりゃどーも。にしても私の会社の同僚をあんまり虐めないでやってくださいよ」


 どうやらうたねさんで散々遊んでいたようだ。こいつ、人の同僚をなんだと思っているのだ。


『ごめんごめん。にしてもあの子を寄越してくるとはねー』


「寄越すも何も、暇してたらしいので行っていただいたまでですが。まあ先輩の相手をするのは疲れたでしょうけど」


 後で何か差し入れでもしようかなと思ってみたり。


『人のことをなんだと思ってるんだい?』


「さあね」


『うたねちゃん、だっけ。何も見ていないように見えて途轍もなく相手の中身を見てたね。常に相手の踏み込んで良い領域を即座に見分けながら心地良く思える範囲で近づいててさ、凄い頭の回転が速そうなライバーさんだったよ。それに全く言動も読めなかったし』


 この人は心が読める超能力を持ち合わせている訳でも何でもないのだが、何せ人が感じたり思ったりする事を考えたりするのが得意なので相手にする人によっては蹂躙される可能性があったのだ。

 それを説明した上でうたねさんには向かってもらったのだが、どうやら私の人選は間違ってなかったようだ。


「でもそうやって人のレビューするのはよくないと思いますよー」

 

『ごめんよ。だけどやっぱ君のところの会社に居る人間はとっても良い人たちだなーって』


「そーですか。まあ人の事を見抜いて弄んでるような人間よりはよっぽど良い人でしょうね」


『中々言うね君も』

 

 まあ先輩も悪人な訳ではないのだが、こうやって相手のことを考えて楽しませようとする癖がある為に手品や読心術を心得ているので厄介なのである。


「んで、今回はどんなサプライズなんです?どうせ私の使ってた車も無事じゃないんでしょ?」

 

『そうだね、君の予想を聞かせてもらおうか』


大和魂ロータリーエンジンでもぶち込まれてるんじゃないんですか?」


『いや、エンジンは変えてないけど排気量増量ボアアップ済みの血湧き肉躍る鉄塊2JZにギャレット製ターボ突っ込んだ』


_人人人人人人人人人人人人_

> ギ ャ レ ッ ト 製 タ ー ボ <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 世界各地のチューナー達が愛するパーツメーカーである。

 大抵このタービンが装着されている車はとんでもないパワーを持っているというジンクスがあったりなかったり。


「私別にパワー求めてるわけじゃないんですけど」


『ああ、ちゃんとサスペンションやブレーキも変えてあるよ。それにちゃんと内装はそのままだ』


「ねえちょっと待って」


『ん?』


「それにうたねさんを乗せたって事ですか?」





「マヤちゃん......」


「酷い目に遭ったんですね」


「そうだよ。ペーパードライバーになんてもん乗らせるんだ......」

 

 駐車場に停まっていたのは過去に先輩が私に貸してくれたトヨタ A80スープラ......そしてそのすぐ傍で半泣きになっているうたねさんであった。


「最初はさ、マヤちゃんの車と同じでそこまでうるさくないから大丈夫かなって思ってたんだよ。でもさ!?信号待ちではエンストするし!!」


「強化クラッチの弊害ですね」


「車追い越そうと思ってアクセル踏んだらとんでもない速度出るし!!」


「まあ此処まで弄られてたらそうでしょうね」


「メーターはマイル表記だしさあ!!」


「下に小さくキロメートル表記ありませんでした?」


「ウィンカー出そうと思ったらワイパー動くし!!」


「まあ左ハンドル車ですからね」


「なんなんだよこの車っ!!」


 まあ普通の人が運転したらそうなるよな。


 過去に私が借りたときはそこまでの改造は入っていなかったのだが、どうやらここ数年で改造されてたらしい。

 最初は手伝ってくれと私に声をかけてきてくれた先輩に車何がいい?って聞かれたので日本のスポーツカーって答えたのだ。そして適当に中古市場から探してくるねーとのお返事が私に届き、最終的に選ばれたのがスープラだったのだ。しかし先程先輩に聞いてみたところ、結局乗り手が居なくなった為にガレージに放置されることとなり、最終的には友人さんと手元にあったパーツで弄り回してみたのだそう。

 正直何してくれてんだと叫びそうに放ったが、結局私は借りている身なので文句は言えてもそれを撤回させれる権限はなく。


「すみません、流石に此処までとは思っていなくて」


「酷い」


「ちなみに慣れることは出来そうですか?っていうか逆に此処まで持ってこれたことに驚いているんですが」


「......少しだけ運転すれば多分、普通に乗ることは出来ると思う。酷い目には遭ったけどこれでもゲーマーなんだ。ちょっとクセがわかればある程度は何とかなる」


「ちなみに現状はどのくらい把握してるんですか?」


「練習で使った社用車に比べてペダルが滅茶苦茶重い上に判定がシビアで、下手すると簡単にエンストするってこと。後はパワーが滅茶苦茶あるから無理矢理ハンドルを切ると制御が効かなくなること。後限界は知らないっていうか多分事故るから試してない」


「偉い。こういう車は大抵扱えもしない限界を攻めてみようという考えで自分の実力を過信した者から事故を起こすんですよ」


 運動性能があるが故に回避能力が高く、そして多少の無茶をしてもちゃんと応えてくれる為に安全性が高いスポーツカーの事故が多くて保険料が高いのはそういう理由だったりするのだ。


「現実の事故は最悪ゲームオーバーだからな......」


 そう、車の横でしゃがみこんだうたねさんはぐったりとした顔で私にそう言った。

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