第29話 託される想い

「それじゃあ!剣持の全国大会優勝を祝して乾杯~!!」


「乾杯!!」


数日後。剣持先輩の全国大会優勝を祝う席をおばさんが用意し音頭を取った。


「すげー俺初めて食べるよ北京ダック!」


「俺もだよ!!」


剣道部の先輩達はホテルの会場を借りて並ぶ豪勢な料理に目を輝かせる。


「雪子も張り切ったわね・・・・・」


「母さん・・・・・」


ノリノリなおばさんを遠くから見守る母さん。


「優太。お疲れ様」


「うん。ありがとう」


「どうだった、初めての大会は?」


「油断したつもりはなかったけど、全国に出てくる人はやっぱり凄いね」


「そうだね・・・・・それより私って参加してよかったのかしら?」


「おばさんが親御さん含めて関係者全ての人って言ってたからいいんじゃない?」


「わっ私もよかったのかな?」


恐る恐る優美ちゃんが声をかけてくれた。


「いいんじゃないかな?おばさんが関係者って認めたんでしょ?」


「そうみたいなんだけど・・・・・私大会に応援に行っただけだし」


「気に病むことはない。私は来てくれて嬉しいぞ」


主役が俺達が話す場所に現れる。


「先輩。おめでとうございます」


「優太。そなたに感謝を」


「俺はなにも・・・・・」


「優太が来てくれたから今があると私は思っているよ」


様子を見て母さんが挨拶する。


「あなたが剣持さんね。今回はおめでとう」


「優太くんのお母様ですね。お初にお目にかかります。剣持薫と申します以後お見知りおきを。そして祝言ありがとうございます」


「今時珍しい挨拶ね」


「申し訳ありません。家柄の影響がどうにも抜けないのです」


「あっ、ごめんね気にしないで。優太を鍛えてくれてありがとう」


「いえ、優太くんが己を律し磨いた結果です。私が感謝されることなど」


「あなたとの出会いが優太をまた成長させたと思うの。だからありがとう」


「もったいない御言葉ですが、ここは素直に受け取りましょう」


母さんと話し終えた剣持先輩は優美ちゃんの方を向いた。


「あの、あの時はありがとうございました」


「気にすることはない。あの日があったから今がある」


「優勝おめでとうございます」


「うむ。ありがとう」


「・・・・・・」


「・・・・・・そう心配するな。優太は優太のままだ」


「!?」


剣持先輩の言葉の意味が俺にはわからなかったが、優美ちゃんは嬉しそうだった。


「ちょっと~。あに、あたしをなかまはずれにして~もりあがってるのよ~」


「ちょっと雪子!貴女もう出来上がってるじゃない!?」


「あに~?こんにゃめでてゃいときに、あんであんたはシラフなのよ~」


出来上がったおばさんに危機感を感じ取る。


「おばさん!母さんに呑ませないで!?先輩!優美ちゃん!!離れて!!!」


「うっ、うむ」


「?」


「あ~」


強引に呑まされる母さん。果たして・・・・・・



祝賀会も終わり解散する一同。


「本当にいいのか?神谷」


「はい。母もいますし」


「じゃあ先帰るな。先輩、3年間お疲れ様でした」


「ありがとう。貴様も精進するのだぞ」


人々が会場をあ後にするなか、優美ちゃんは2人の介抱をしてくれていた。


「優美ちゃんも帰っていいんだよ?」


「この状態のお2人をここには置いてけないよ」


「でも、お母さん心配すると思うし・・・・・」


「まあよいではないか優太。成人女性を2人抱えて帰るのも大変であろう。私も手伝う。3人で優太の家まで送り届けようではないか」


「確かにそれは助かりますけど…………」


2人の視線に耐えられず、俺は助けてもらうことにした。


特に話すわけでなく、ゆっくりした足取りで帰路につく。


「先輩。わざわざありがとうございました。優美ちゃんもありがとう」


「しかし高野先生がここまで酒癖が悪い方だったとわな」


「…………こういう集まり事になるといつもこんな感じですよ」


「そうなのか…………」


見慣れているような俺の言動に剣持先輩は驚いていた。


「優太くんのお母さんも楽しそうだったね」


「そう見えた?」


「少なくとも酒を呑まれる前のお母様からは想像出来ない姿だったな」


「アハハハ……··…そうですよね」


改めて指摘を受けると何故だが俺も恥ずかしくなった。


「…………良い3年間であった」


「先輩?」


「最後にこれ以上無い結果を残すことが出来たのは、優太のお陰だ。感謝する」


「そんな、先輩のこれまでの鍛錬が身を結んだんですよ」


「こうして己を高めることが出来たのは優太という鎬を削る存在があったからだ」


「……………」


「剣道部を頼んだ」


「!?」


「優太の思う剣道をこの部に残してくれ」


「そんな………俺がなんて」


「優太なら出来る」


「……………」


「私の1年の時の成績知っているか?」


「?」


「全国大会初戦敗退だ」


「!?」


「少なくとも今の優太は1年の私より優れた剣道をしているんだ。優太の思う剣道をやり続ければいい」


「先輩…………」


「優太のこれからを楽しみにしているよ」


「ッッ!先輩!!短い間でしたが、ありがとうございました!!」


こうして先輩の大切な居場所を引き継ぎ。俺は新しい1歩を踏み出した。

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