第27話 未開の地に向けて

「あんた達よくやったわ。このまま全国制覇するわよ〜乾杯!」


夏の長期休みに入り県大会に出場した俺達は、なんとかおばさんの課したノルマの1つを突破した。


「男子団体に剣持、それに神谷もまずはよくやったわ」


「ありがとうございます」


今まで褒めなかったおばさんに褒められた部員達の返事には嬉しさが乗る。


「それに比べて田中、あんたなに脱落してんのよ!代表として個人戦に出場したのに情けないわね」


「面目ないです」


「それとあんた達も勘違いしないことね。あくまでスタートラインに立っただけよ。本番はここからだから」


「……………」


「とまぁ説教はこれくらいにして、さぁパーっと盛り上がりなさい!」


「ハイ!!」


後夜祭のテンションで盛り上がる剣道部員達。おばさんの酒もどんどん進んだ。


盛に盛り上がる打ち上げ。ここまでみっちりシゴかれていた分部員達は弾け、こういうノリが好きなおばさんはそれに乗ってお店を巻き込んで盛り上がった。


「坊主達、頑張れよ」


「応援に行くからな」


「酔いつぶれた先生にゴチになりますって伝えといてくれ」


他のお客さんも帰り剣道部だけになる


「先生・・・・・寝ちまったぞ」


「どうすんだ?」


「先輩達、先に帰ってもらって大丈夫ですよ」


「神谷?」


「先生は俺が起こすんで」


「そうか、悪いな。薫さん帰りましょ」


「あっ、あぁ・・・・・本当にいいのか優太?」


「大丈夫です先輩。ゆっくり休んでください」


「そうか、すまない。また明日な」


「はい!」


剣持先輩達が店を後にする。なんだかんだこんなに羽目を外したおばさんを見るのは久しぶりで、感傷に浸る。


「余程、雪ちゃんも嬉しかったんだね」


お店のおばあちゃんが嬉しそうに声をかけてきた。


「先生とお知り合いなんですか?」


「うん。雪ちゃんが学生の頃からね、雪ちゃんが大物になってからはあんまり来なかったけど、昔から仲の良い友達とよく利用してくれてるよ。ねぇ、お父さん」


「そうだな、学生時代の4人で吞んでた時なんか特に楽しそうだったな」


調理台で包丁を研ぐおじいちゃんも懐かしそうに思い出しているみたいだ。


「あの・・・・・当時の先生ってどんな人だったんですか?」


「あの当時からリーダー気質はあったね。ノリのいい男とよく飲み比べなんかしてたよ」


「へぇ~」


どこにでもいそうな学生のノリをおばさんがしていたと思うと、ちょっと可笑しくてクスっと俺は笑った。


「あとの2人の男女は2人によく振り回されてたけど、女の子の方が曲者だったね」


「女の人が?」


「普段はおっとりとして大人しい娘なんだけど、時々2人のノリに乗せられてお酒が進んだらもう手に負えないくらいの酒乱に様変わりしてね。そうなった日のあとはよく謝りに来たよ」


「あ~あの娘は凄かったな。ある日は店内で暴れ回って、ある日は泣き上戸で、ある時はやたら人に絡みたがってたな」


「そっ、そうなんですね・・・・・」


「でも・・・・・どれだけ大きな人になっても、雪ちゃんは雪ちゃんみたいで安心したよ」


「おばあさん・・・・・」


「生徒さんにこんな話したこと知ったら雪ちゃん怒っちゃうかもね」


「いえ、ありがとうございました」


「雪ちゃんは私達が面倒みるからお帰り」


「えっ!」


「こんな時間だ、君の親御さんもきっと心配している」


「では、お言葉に甘えて。ご馳走様でした美味しかったです!」


「またいらっしゃい」


「はい!」


立とうとした時、腕を思いっきり引っ張られる。


「ッツ!!」


「優太・・・・・よくやった・・・・」


再び寝息をたてるおばさん。その姿に久しぶりに緊張する自分がいた。

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