第10話「驚愕!黄金原の野望と三代木の逆襲」
ガデンがラストピースと共に散った翌日、目覚めた病院の個室で俺は謹慎処分を言い渡された。
理由は違法な捜査活動を行ったからだという。俺がいつそんなことをしたのかと吠える気力もなく、俺はただ黙ってそれに従うことにした。
違法な捜査活動をしたというのなら懲戒免職にでもすればいいのに、なぜ謹慎処分などという甘ったれた処分にしたのかわからない。首を切るならさっさと切ればいい。現に俺は殺されかけたのだ。もう俺は用済みだとラストピースはいっていた。なのに、なぜ俺は生きているのだろうか?
……いや、今はあまり深く物事が考えられない。それは俺の脳裏に、ガデンが奈落に落ちていく姿だけが焼き付いて離れずにいるからだ。
どうしてあの時、ガデンを止めることが出来なかったのか。ラストピースの異変に気が付かなかったのか。自責の念ばかりが募って、病室のベッドの上で項垂れる。
人を守る仕事がしたくて、この仕事に就いたのに。一番近くにいた大切な人間すら守れずに、何を守れるというのだろう。
「嵐……」
もう何処にもいない男の名前を呼んだ。わがままに俺を振り回しては妙に楽しそうに微笑む彼の姿が浮かび上がっては消える。嵐はもういない。俺が殺したようなものだと思った。俺に力があれば。もっと強ければ。君を守れたかもしれないのに。
どうにもならない悔しさが滲んで、唇を噛む。湧き上がるやるせなさをぶつけるように、包帯の巻かれた手を白い布団に叩きつけたくなった時だった。
コンコン、と控えめに病室のドアがノックされる。俺はゆっくりとドアの方に視線を移した。
「三代木さん、入ってもよろしいですか?」
看護婦かなにかだと思って、俺は「……どうぞ」と低いトーンで声をかけた。きっと今の俺は酷い顔をしている。顔を見られたくなくて、ドアの反対方向にある四角い窓の外を見ているフリで顔を背けた。
ドアが静かに開く音がして、誰かが入ってくる気配がする。
「失礼致します」
透き通った声が病室に響いた。それでも顔を向ける気にならなくて、俺は窓の外を見続ける。四角い窓の外から見える腹立たしいくらい晴れ渡った空は味気なくて、見ているだけで虚しい。
息苦しくなって、行き場なく視線を彷徨わせようとした。だが、視界の端に見えた鮮やかな赤に気づいた時、俺の視線は自然と来訪者の方に向かっていた。
無機質な白いドアの前に、千歳緑の着物を着た三つ編みの女性が立っている。栗色の髪の、すっきりとした嫌味のない美しい顔立ちの女性だ。その手には、何の花かはわからないが、目が覚めるような鮮やかな赤色の花束が抱かれている。
「……え、と…病室を間違えて、いませんか?」
思わずそう言った。きっと別の病室に俺と同じ名前の患者がいるのだとしか思えなかった。俺には彼女のような知り合いはいない。いたら絶対覚えているはずだ。彼女の存在感や佇まいの美しさは、一度見たら忘れることはないだろう。
「いいえ、間違っていませんわ」
髪の合間から見えた特徴的な翡翠色のピアスがキラリと光る。糸目の彼女は口元に笑みを作った。可憐な微笑みに思わずドキリとするが、益々わからなくなる。やっぱり心当たりがないのだ。もしかして、誠子の友人なのだろうか……。にしては大人すぎるというか。高校生のようには見えない。
「三代木信彦さん、私は貴方のお見舞いに来たのです」
女性は俺のベッドの傍まで歩いてくると、そっとこちらに花束を渡した。いくつもの真っ赤なフリルのような小ぶりの花から、甘くて良い香りがする。
「スイートピーです。少しでも気分が明るくなればと思いまして」
「……ありがとうございます。いえ、それより……何処かでお会いしたことがあったでしょうか? 申し訳ないんですが、心当たりがなくて……」
失礼を承知で俺は彼女に言う。もしかしたら気分を害してしまったかもしれないと様子を窺うが、彼女は笑顔のままだ。
「三代木さんは、赤いスイートピーの花言葉をご存知でしょうか?」
質問しているのはこっちだというのに、逆に質問をされて戸惑いを覚える。俺に自分の存在を思い出させようとしているのか否か。意図が読めないまま、俺は彼女の質問に「……いいえ」とだけ答えた。
「赤いスイートピーの花言葉は、優しい思い出……それから、門出、別離などの意味もあるのです。今の貴方に、ピッタリなのではないかと」
「……どういう、意味ですか?」
何か引っかかる言葉選びに、俺は眉根を寄せる。
「昨日、あなたは永遠の別れを体験したはずですわ。驚飆という言葉を操る彼との別れを」
「……誰なんだ、貴女は」
嫌な予感。身体に緊張が走った。彼女は変わらず笑顔だが、その笑顔を今は不気味に感じた。何を企んでいるのか読めない……読ませない顔だ。俺はそっと、布団の中に片手を忍ばせる。
「私の名前は……黄金原桜華と申します。どうぞ、宜しくお願い致します。」
彼女の丁寧なお辞儀を見ながら、俺は目を見開いた。
黄金原桜華。齢22歳にして黄金原財閥のトップに立つ若き秀才。つい数年前に父親である黄金原修司が財閥のトップを辞任した後、彼女が財閥の統括をするようになったというのは蘇芳でもかなりニュースになった。だが彼女は殆ど表舞台に姿を現さず、その正体は謎に包まれたままだったのだ。
黄金原財閥の頂点に君臨する彼女が、何故ここに? 俺が顔を強張らせると、彼女は言う。
「まずは、私の愚弟が三代木さんにとてもご迷惑をおかけしたことを謝罪致します。大変申し訳ございませんでした」
「……愚弟?」
「ええ。……今は嵐と名乗っているのでしたっけ? 彼は、私の弟ですわ」
言い放たれた衝撃の事実に、俺は呆然とした。嵐が、黄金原桜華の弟? ケイから貰った資料はガデンに関する事しか載っていなかったので、嵐の素性については全く書かれていなかった。だがまさか、黄金原桜華の弟……つまり、黄金原財閥の一人息子であるだなんて想定外が過ぎる。
「で、でも……一人息子がいるなんて話、今までに一度も聞いた事がありません。噂にもニュースにもなったことがない。もしかして、嵐は隠し子か何か……なのですか?」
「いいえ、彼は正真正銘黄金原財閥の血縁者です。しかし……そうですね、確かに彼の存在は隠され続けてきましたから、隠し子と言われるとそうなのかもしれませんわね」
「何故、嵐の存在を隠す必要があったんですか」
「それが父と母の教育方針だったからです」
教育方針? 俺は眉を顰めた。黄金原桜華はすぐ近くにあったパイプ椅子に座ると「少しだけ弟の話をさせて頂きますわね」と微笑んだ。
「弟は父と母に特別に可愛がられていました。欲しがるモノは全て与えられ、何をするにも父と母が見守っておりました。ここまでは、少し過保護なくらいですわね。ですがそのうち、父と母は彼を外の世界に出すことを嫌がり始めました。醜い争いやこの世の全ての悲しみから彼を遠ざけたいと本気で考えたのです」
俺は黙って黄金原桜華の話を聞いていたが、少しだけ嫌な予感がしていた。だが、話を途中で止めることは出来ない。
「そこで父と母は、弟をとある部屋の中に閉じ込めることにしました。部屋の中に閉じ込めてしまえば、世の汚れから弟は守られ美しいままでいられると考えたのです。それからというもの、二人は自分達が許可したもの以外の知識を弟に与えず、一般的とされる教養すら殆ど受けさせませんでした。気づけば二人は徹底的に弟を管理し、監視する事に必死になっていた。……父と母は弟を『人間』にするのではなく、物言わぬ花や美しく輝く宝石にしたかったのです」
俺はただ、その異常な愛情表現に血の気が引いていた。嵐がまさかそんな異様な環境で育っていたのかと言葉が出ない。だが、嵐がやけに世間一般の物事に疎い理由が分かった気がする。
「父は財閥のトップを辞任して、弟の管理と育成に集中しようとしていました。しかしその矢先に母が病気になり……呆気なく死んでしまってからは、父はすっかり廃人同然になってしまいましたのよ。今は身分を隠したまま、隔離病棟で暮らしております」
「そんな……」
確かに、黄金原修司はトップを辞任してから全く姿を現さなくなったのだ。隠居しているだけだと思っていたが、まさかそんな事があったとは思いもしなかった。黄金原財閥の情報統制の凄まじさを改めて感じてゾッとする。隠すものは徹底的に隠し、なかったことにする。自分の一人息子の存在すらも。
「弟は監視が緩んだ隙に、部屋から逃げ出しました。開発中だったガデンの装備と共に。私は全てを見ておりましたけど、放っておきました」
「それは一体どうしてですか」
「これは弟も知らないとは思いますが、ガデンの装備には戦闘データを記録して発信する機能がついていたのですわ。その機能を使ってガデンの戦闘を記録し、データから新たな兵器
開発をする気でいましたから……彼がガデンを持って逃げてくれたのは逆に好都合でした」
「まさか、ガデンの戦闘データを取るために、怪物を蘇芳に放ったのですか?」
俺の問いに、彼女は素直に「そうですわね」と頷いた。
「とはいえ、怪物……もとい人工生命体は兵器開発事業の一部でしたから、蘇芳での稼働実験は何度か行われていましたわ。しかし、人工生命体をわざと暴れさせることによってガデンとの戦闘を記録し、新たな新兵器を開発する手はずになってからは、それまでより多くの人工生命体を蘇芳に放つことになりました。その方がガデンの戦闘データが取れるチャンスが多くなりますからね」
確かに、嵐と出会ってから妙に怪事件が多くなったのは確かだ。それがまさか……ガデンの戦闘記録のためだったなんて。
「最初は弟が人工生命体の活動をちゃんと嗅ぎつけられるか心配でしたが……三代木さん、貴方がいてくれたことでその心配は払拭されました。貴方がガデンを戦いに導いてくださったことで、私達の計画は滞りなく進んだのです」
「……」
俺は苦々しい気持ちで彼女を見つめる。俺が……俺と嵐がやってきたことは、正義だと思ってやってきた事は、全部が黄金原財閥の作った計画のうちに過ぎなかった。そんな事を伝えられて、絶望しないわけがない。
「ガデンは死にましたが、既にデータは十分記録できました。弟の死は無駄ではありません。まあ……私個人としては、死んでくれて嬉しい限りですが」
「……ッ! どうして家族に対してそんな事が言えるんだッ!」
零された言葉にカッとなって叫んだ。いくらなんでも、言っていい事と悪い事があるんじゃないのか。家族が死んで嬉しいなんて、そんな事絶対言っていいわけがない。
俺の激昂に、彼女は驚く素振りも見せず、それまでの笑顔を消して言った。
「家族なんて、幻想ですわ。私達は家族なんかじゃありませんでした。父も母も、弟の事ばかりで私に見向きもしなかった。財閥のトップに私がなったのも、父が弟の世話をしたいがために押しつけられただけ。全部……全部弟の所為。私が不幸なのは全部弟の所為。だから死んでよかった。死んで当然です、あんな男」
それまで平坦だった彼女の声や言葉の端々に、強い憎しみが込められている。きっと彼女も……とても苦労したのだろう。彼女が服の上で握り締めている手が震えている事にも気づいている。だけど……。
「……貴女がした事は、決して許されることじゃない。都市を巻き込んだ兵器開発も……嵐のことも」
「ふふ、敵討ちでもしますか? 受けて立ちますわよ」
黄金原桜華が不敵に笑う。しかし、俺はその挑発に乗るつもりはなかった。
「そんなことしたって、嵐は帰ってこない。俺は、俺なりの戦い方をするだけです」
「貴方なりの戦い……では、そこに隠しているボイスレコーダーが貴方の武器なのですね?」
「っ!」
ギクリと肩を震わせてしまう。まさか、布団の中に隠していたボイスレコーダーのことがバレていたなんて。一瞬の動揺を悟られまいと俺は黄金原桜華を睨むが、彼女は怯むことなく静かに微笑む。
「隠し武器としては優秀ですが……バレてしまっては意味がありませんわ。それで、次の一手はもうお考えになっていて?」
何もかもがお見通しとでもいうかのような態度に、歯向かいたくなる。次の一手なんて考えちゃいない。だけど考えていない事を読ませたくなかった。
「あるに決まってます」
「では、教えていただけますでしょうか」
俺は彼女の静かな微笑みに険しい顔をしたまま言う。
「勝負、して下さい。俺が勝ったら、このボイスレコーダーは新聞社の所に持っていきます。……もし俺が負けたら、このボイスレコーダーと俺を好きにしたらいい」
正直、一か八かの発想だった。これに彼女が乗るかどうかで全てが決まる。問答無用で俺がこの場でボイスレコーダーごと消去される可能性もある大きな賭けだ。
「勝負ですか。ふふ、構いませんわ。では一度場所を変えましょう」
ほっとしたのも束の間。場所を変えるって何処に? と疑問の視線を投げかけると、彼女が言った。
「何処に行くかはお楽しみということで。では、服を着替えてから病院の入り口までおいで下さい」
彼女が静かに立ち上がり、俺のベッドから離れていく。
「ああ、逃げても構いませんが……その場合は容赦なく貴方を処分させて頂きますので、そのつもりでお願いしますね」
ドアに手を掛けた彼女が振り返り、俺に釘をさす。はなから逃げるつもりなんかない、と吠える気もなく俺は黙って彼女が病室から出て行くのを見ていた。
****
いつものスーツに着替えて病室を出た俺は、言われた通り病院の入り口まで向かった。
入り口に辿り着くと黒いセダンが止められており、ドアの前に黒いスーツを身にまとった男が立っている。男は俺と目が合うと、セダンの後方のドアを開けた。
後部座席には、黄金原桜華が乗っており「乗って下さいませ」と俺に呼びかける。意を決して車に乗り込むと、ドアが閉まってすぐに車が動き出した。
車が何処かへ向かう間、俺の勝負に乗ったのは彼女のハッタリで俺はこのまま人知れず処分されるのではないかと緊張していた。俺から勝負を持ち掛けたが、それを彼女が守るかどうかは分からない。俺を始末しようと思えば、いつだって出来てしまう。俺は敵の陣のど真ん中にいるのだ。
「三代木さん、そんなに心配なさらなくても貴方を今すぐ始末なんて致しませんわ」
俺の緊張を読んだのか、隣で彼女が笑う。彼女は心を読む能力でも持っているんだろうかと不気味な気持ちになりながら「……何故、俺をすぐに殺さないのですか」と尋ねた。
「貴方を知りたいから」
すんなりと返ってきた言葉に、面食らう。知りたいって、俺を? 少し困惑していると、彼女はそのまま言葉を続ける。
「勿体ないではないですか。折角仲良くなったのに、すぐにお別れだなんて。私、もっと三代木さんとお話したいのですわ」
「……俺は貴女と仲良くなった覚えはありません」
「貴女ではなく、桜華と呼んで下さいませ。私、三代木さんより年下ですし……敬語も使わなくていいです」
そう言って微笑む顔こそ優しいが、俺は気を許す気はなかった。仲良くなる気なんて一切ない。隙を見せれば、きっと彼女は容赦なく俺を殺すだろうから。俺は険しい顔のまま「俺は慣れ合うつもりはありません」ときっぱり言った。
「うふふ、まあ、そうですわよね。私は弟の仇のようなものですし。仲良く、なんて無理がありますわね」
何を分かりきったことを言うのだと彼女を睨む。仇であるだけでなく、彼女は嵐が「死んでよかった」などと言ってのけたのだ。例えどんな事情があったにしても、許せる訳がない。
「私を憎んでいますか? 三代木さん」
彼女の問いかけに、俺は暫く黙り込んでから「……ええ」と答えた。この場で憎んでいないと嘘をつけるほど俺は器用じゃないし、今は彼女を許せない気持ちの方が強い。
「それでいいのです。貴方が私を憎み、私の事を考えていてくれる時間が多ければ多いほど良い。もっと……もっと私を憎んでください、三代木さん」
彼女が俺の方に身を乗り出し、俺の手を取って強く握った。いきなりの事に動揺していると、すぐ近くで美しい顔が泣きそうに歪んで笑う。その複雑な表情の生々しさは、演技だとは思えなかった。
「……君は一体、何を望んでいるんだ?」
今度は俺が彼女に問いかけた。彼女が望んでいる事が、段々分からなくなってくる。憎まれて嬉しい奴なんてこの世にいる訳がない。なのに、彼女は自分を憎んで欲しいとせがむ。それが何故なのか、単純に疑問だった。
「……私は、私から何もかもを奪った弟が一番大切にしているものを奪いたい。壊してしまいたい。そうでないと、不公平だから……私だけが奪われ続けているなんておかしいから……だから貴方の心を奪うのです。弟が死んでも守りたかった貴方を、奪って滅茶苦茶に壊す。それが……私の復讐です」
眼前に迫る彼女から放たれる言葉は呪いの言葉そのものだった。それは嵐を呪っているだけではなく……自分さえも呪いにかけている。自分を復讐や憎しみという感情で縛り付けている。それに、彼女は気づいているんだろうか。
「……桜華、君を不幸にしているのは弟の存在なんかじゃない。君自身だ」
俺の言葉に、桜華は表情を失った。やはり、彼女は気づいていなかったのだろう。そして、そのことを彼女に伝える人間が誰もいなかったのだ。ずっと孤独に、財閥の頂点に立ち続けていた。その姿を想像して、今は心苦しい気持ちになる。
「君を愛さなかった家族や弟を許せない気持ちはわかる。だけど、どんなに憎んでも、壊しても……君の過去は変えられない。君が変わらない限り、君は不幸なままだ」
そしてその不幸は、既に多くの犠牲を生み出してしまった。町岡君や嵐……怪物に襲われた都市の人々。沢山の人が悲しい思いをしている。きっと桜華は自分が奪われたものの数しか数えていない。自分が奪ったものの数を……見ていない。
「俺は君にこれ以上過ちを繰り返して欲しくない。もう誰にも悲しんで欲しくないんだ。過去は変えられないけれど、未来なら自分の力で変えられる。だから桜華、君は……」
そこまで言った所で、車が止まった。「到着しました」と平坦な運転手の声。どうやら目的地についてしまったようだ。俺はもう一度桜華の方を向いたが、桜華は俺から手を離しそっと距離を取ってしまう。
「……もう遅いのです。何もかもが」
ひとひら、言葉が呟かれる。
遅いわけがない! そう言おうとしたところでドアが開き、桜華はさっさと車を降りてしまう。俺も慌てて車を降りて、桜華と話をしようとした。
「勝負、するんでしょう? 貴方を負かして、私は黄金原財閥の栄光を守ります」
桜華は突き放すような強い口調で俺に言った。もう俺の話など聞きたくない、そんな態度でもあった。だったらこっちも、それなりの態度でいなければならない。
「……ああ、するさ。勝負して、俺は君に勝つよ。都市の平和を取り戻すために」
そして、君を救うためにも。
真っ直ぐ桜華を見つめても、桜華はにこりともしなかった。俺を一瞥し、ボディーガードに囲まれながら歩いていってしまう。
俺はその後を追いながら辺りを見回す。白い城壁で囲まれているが、かなり広い敷地であることが分かる。ここが黄金原財閥の本拠地なのだろうか?
木材で出来た立派な門をくぐり抜けると、とても美しい緑の庭園が視界に広がった。その先に見える日本家屋の豪邸はまるで何処かの城のようで、黄金原財閥が巨万の富をなしていることを感じさせられる。
しばらく庭園を歩き建物の中に入った。まるで高級旅館のような内装に圧倒される暇もなく、長い廊下を渡った先の部屋へ通された。
おそらく客間であろうその和室は、俺のアパートの一室より全然広い。
部屋の中央に置かれた高そうな木製の机に向かい合って桜華と俺で座ると、緊張が走った。
「それで、勝負は何になさいますか?」
座ってからすぐ、桜華が言った。
「私は何でも構いませんわ。格闘技でも頭脳を使う勝負でも」
自分がどの分野でも負けるはずがない。彼女はそう思っているようだ。
俺は桜華に「本当に何でも良いんだな?」と再度聞く。桜華は「ええ」と真剣な顔で頷いた。
「そうか……なら、俺が持ちかける勝負はただ一つ。『ドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲーム』だ!」
俺はかなりの大声で叫び、桜華を指さした。指をさされた桜華は「……?」と首を傾げている。何を言ってるのかわからなかったという顔だ。
「聞こえなかったか桜華。俺と君がやるのは、ドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲームだ」
「あの……そんなゲームは聞いたことがないのですが……? なんですの、それは」
「なに、もしかして君はドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲームをやったことがないのか?!」
俺はあからさまに大げさな態度で驚く。この世でありとあらゆる事を知っているはずの秀才の君が、ドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲームを知らないなんて嘘だろ? とでも言うように。
その途端、桜華がちょっとムッとした。俺はやれやれといった態度で桜華を見る。
「仕方がない、なら教えてやろう。ドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲームとは、言葉の通りハレンチな格好で二人でツイスターゲームをやる……それだけだ」
俺の真面目な解説に、桜華が一瞬ぽかんとしてから、俺の説明を理解してダン!と机を殴った。
「し、知るわけ無いでしょう! そんな、いかにも低俗そうな遊び! 貴方ふざけてるんですか!?」
「低俗だと? 君は大きな勘違いをしているぞ桜華。ドキドキ☆ハレンチ・ツイスターゲームは高尚な戦いなんだ。まあ、君はやったことがないからわからないと思うがな」
「くっ……!」
俺の態度に桜華が悔しそうな顔をする。小馬鹿にされて、きっとたまらない気持ちなのだろう。彼女は人に馬鹿にされて生きてきたことなどないから、益々癇に障ると思う。
「わかりましたわ! その、どき、どき……は、はれんち…… ツイスターゲーム! 受けて立ちます!」
「二言はないな? やっぱりやめるとか絶対ナシだぞ、桜華」
「当たり前です!」
ムキになって桜華が叫ぶ。俺はニヤリと笑って「なら準備をするぞ」と立ち上がる。
「ゲームを完璧にこなしたいから、俺が言ったものを全て用意してくれ」
周りで待機していた使用人に言う。桜華も言われた使用人も完全に困惑しきった顔だが、今は構わない。ここからは俺のペースで戦わせてもらうよ。
「それじゃあ……始めよう! この世で最高に破廉恥なゲームをな!!」
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