第15話 ハプニング……そう、これはハプニング。俺は決してロリコンでも変態でもない②

「なんでだよっ!!!」


 そこにあったのはまたしてもブーメランだった。

 違いと言えばせいぜい色が金色なだけ。


 まさかの二連続ブーメランに、俺は思わず叫んでいた。


 おいどうなってんだよ! なんなんだこの店、実はブーメランの専門店なのか??

 あの剣やら槍はただのオブジェで、本当は観光地によくある旅行客を騙して稼ぐお土産屋みたいにブーメランを売りつける店なんじゃないか???


 が、そんな俺をよそに店主ハゲは語り始める。


「【魔法排除マジックリジェクトブーメラン】――略して“MRBエムアールビー”だ」

「……ああ、はい」

 すごい。普通に解説しだした。

 しかもちゃんとした名前まである。鬱陶し。


「フ。それにしても驚いたぜ」

「はい?」

「まさかブーメランをあんな応用のさせ方で使う奴がいるなんてな。俺にはわかる。兄ちゃんにはブーメランを使いこなす才能がある」

「いや才能ってそういうことっ……!?」

 とんだぬか喜びじゃねーか!


「これで名実ともに兄ちゃんは立派なブーメラン使いだ。さあ、勝利をその手に掴んで来い。手から離すのはブーメランだけ……ってな」

「……はい」

 め、めんどくせぇ……! てゆーかその顔でウインクはやめてくれ。


 ま、まあいいさ。

 別に何の武器であるかはそこまで大事ではない。


 要は強いかどうか。それがすべてだ。

 見栄えなんてものは所詮オマケよ。


 実際、効果だけを見ればこいつは間違いなくチート級だ。

 むしろよくぞ提供してくれたまである。


「ちなみに代金は200万だ」

「たっっっっかッ!!!!」


 こうして、俺は人生で初めてローンを組んだ。



 ◇



 そして昼。いつもの草原――。


 対峙したメスガキの視線は、やはり俺の右手に注がれていた。


「またブーメラン持ってる……」

 呆れた表情。ものすごくドン引かれてる。


「え? どうしたの? おじさんブーメラン屋さんになりたいの?」

 うるさいな。俺だって好きでブーメラン使いやってるわけじゃないんだよ……。


「しかも金色とか趣味悪。それじゃ売れないよ? 観賞用にしたってダサすぎるもん」

 ……やばい。なんか泣きそうになってきた。


「あと――」

「うるさい! いいから始めるぞ!」


 ダメだ。これ以上アイツにしゃべらせたら本当に泣いてしまう。

 ここは一気に片を付けるしかない……!


 勝負開始。

 俺は小細工なしに、とにかく全力でブーメランを放り投げた。


「あらら。懲りないね、おじさん。武器は効かないってば」


 弧を描き迫るブーメラン。

 だが、やはりメスガキに避ける気配はない。自分の魔法に絶対の自信があるのだろう。


 大丈夫だ……性能は申し分ない。

 当たれば勝てる。そのはずだ……!


 俺はすべての運命をMRB(200万G)に託した。

 あとはもう、祈るしかない。あのくそダサブーメランが俺に勝利をもたらすことを。


 いけ……いっちまえ!


 そして――ついに“そのとき”はやってきた。


 パリィイン――。


 まるで窓ガラスを野球ボールが壊すように、MRBはメスガキの【対物理障壁アンチマテリアルバリア】を粉砕した。


「なっ……!?」

 まさか絶対の信頼を置くはずの防御魔法が砕かれるなど想像すらしていなかったのだろう。

 驚愕するメスガキ。無論、それは俺も同様だった。


 すごい……! 本当にあのバリアを無効化した……!

 やった……ついにやったぞ。今度こそ俺はついに――。


 だが、そこで事件は起こった。


 勢いそのままに強襲したMRBは、わずかだが直撃コースを外れメスガキの衣服を掠めた。

 場所はちょうど上半身、且つ身体の正面。

 高速で回転する刃に、薄い布地が為す術なく切り裂かれる。


 必然、露出する肌――。


「……ッ!!!!!」


 そのときのことを、俺はたぶん一生忘れないだろう。


 そこにあったのは……だった。


 決して大きいとは言い難い。標高にして数センチ程度。

 けれど、そこにはたしかなマシュマロのような柔らかさを予感させる膨らみが存在していた。


 そうだ、あれはまさしく――


「死ねッッッ!!! この変態ッッッ!!!!!」



 ザシュッ!!!



 その日、彼女の手刀は過去最速を記録した。




☆本日の勝敗

●俺 × 〇メスガキ


敗者の弁:はい、何も考えられませんでしたね。布が破れてはだけた瞬間、思わず頭が真っ白になっちゃって、反撃とかそういうのはとてもとても……。でも、後悔はありません。なんだか明日も頑張れそうな気がします。(吉川)

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