第12話 正直相手がガキだと思って遠慮してました。もう武器を使います②

「……ブーメラン?」


 店主が持ってきた木箱に入っていたもの。

 それはどこからどう見てもブーメランだった。


 見覚えのある“くの字”の物体。

 たぶん男子であれば一度くらいは触ったことがあるんじゃないだろうか。


「……え? これがおススメ……?」

 いやいやブーメランって。

 素人向けどころかめちゃくちゃ使いづらそうなんだが? なにより弱そうだし……。


 店主の手前言いにくい。

 言いにくくはあるのだが……正直なところ期待外れだった。


「ああいや、こいつは違う。これはいわゆるだ。本命は別に用意してある」

「あ、ああなるほど」

 ほっ、よかった。そりゃそうだよな。さすがにブーメランが本命なわけ――。


「いやお通しっ!? 武器屋でっ!?」

「ああ」

「聞いたことないんですけどっ!? つーかお通しってことは金取るんスか!?」

「お通しだからな」

「ま、マジかよ……」

「いやなら武器は売らんぞ」

「えぇ……」

 この人、さては武器が売れないからって俺で在庫整理しようとしてないか……?


「……ちなみにおいくらですか?」

「1500G」

「ああ……」

 なんだろう。ギリ払ってもいいかと思える金額なのが逆に歯がゆい。


 まあ仕方ない。郷に入っては郷に従えと言うし。

 これがこの店の流儀だと言うなら受け入れるしかない。


「それで肝心の本命だが……」

 店主がゴソゴソとカウンターの下を漁る。

 いやはじめからそこにあったのかよ。大丈夫かこの人……もう若干期待薄なんだが。


 ――しかし、その本命がまさかあんな結果をもたらすなんて……この時の俺はまだ知る由もなかった。


「コイツだ」

「これは……クロスボウ?」

「おう」


 クロスボウ。いわゆる洋弓。

 それが店主の言う本命だった。


 やれやれ、ようやくまともな武器が出てきたか。


「でも、どうしてこれがオススメなんですか?」

「逆に聞くが、待っている間、兄ちゃんはオレが何を持ってくると思った?」

「えっと……槍、とかですかね」

「まあ、わからんでもないな。たぶんリーチも長くて使いやすいと思ったんだろう。あとは鞭とか想像したんじゃないか? あれも女子供でも手ごろに扱えて威力も出せるって意味じゃ初心者向けだ」

「……!」

 あ、当たってる……。


「でだ」と店主は続けた。


「このクロスボウなら、今出た特性のすべてを併せ持ち、且つ一歩先を行く。リーチは言わずもがな、使い方はトリガーを引くだけ。威力は誰が使っても変わりない。オマケに弓は弓でも腕力が必要ないから狙いもつけやすい」

「な、なるほど」

 さすがは武器屋の店主……納得の説明だった。


 たしかに、老若男女誰が使っても一定の成果を出せると言う意味では、このクロスボウは槍や鞭に勝る。

 そもそも槍にしろ剣にしろ、あるいはこん棒のような打撃系にしろ、振り回す時点であのメスガキの手刀相手じゃスピードという点で後手に回るのは目に見えている。


 無論、狙いをつけるための練習は必要だろうが、だとしてもまともに槍術を習うより遥かに時間も労力も少なくて済む。

 そう考えると、手軽な射撃系というのは実に理に適っている。


「どうだ? 悪くないだろう?」

 店主がニヤリと笑う。

 さっきまでのお通しハゲはどこへやら、今は打って変わって頼もしく見えた。


「ありがとうございます。これにします」

 即決だった。他に相応しいものがあるとも思えない。


「おう、毎度あり。んじゃ12000Gだ」

「うっ……」

 結構するな。まあ武器だしこんなもんか。


 それに全然買えない額じゃない。手元には5万ちょいある。

 1個買ったところでまだ十分余って――。


「……ッ!?」


 ――そのとき、俺に電流走る!


 待てよ? もしかしてコレをこうしてこうすれば……。


 でももったいないなあ……いやいや、ここでケチってどうする。

 どうせ全部がうまくいったらこっちの世界のカネなんてもう必要なくなるんだ。残したってしょうがない。


 気づけば、俺は店主に尋ねていた。

「……すいません。もしあればなんですけど、クロスボウこれと同じのって何個かあります?」

「んん? まああるっちゃあるが。4丁ほど」

「じゃあ、全部ください」

 12000×4で48000。謎のお通しと合わせて49500G。

 ほとんど有り金全部だ。我ながら思い切った。


「おいおい、いいのか? オレは売れるからありがたいが……4つもあって何に使うんだ?」

「それはまあ、ちょっと考えがありまして」

「?」

 店主が不思議そうに首を傾げる。


 当然だ。腕なんて2本しかないのに、普通は4丁なんてあっても仕方がない。

 だが、俺だって伊達や酔狂でこんなことをしているわけではない。


 すべては、あのメスガキに勝利するため。


「そうかい。んじゃクロスボウとブーメランで……しめて54000Gだな」

「……あれ?」

 変だな、計算では49500Gじゃ……てか予算オーバーなんだけど。

「あの、クロスボウ4つとブーメランですよね……?」

 もしかして消費税? くそ、それは計算外だった……。


「いや、クロスボウ1つにつきブーメラン1つ。で、1500×4でプラス6000。お通しだからな」

「どんなシステムっ!?」

 お通しってそういうもんじゃねーだろっ!


 結局、ゴネまくったらなんとかブーメランは1個にとどめることができた。


「なんだったんだ最後の不毛なやり取り……」

 若干疲れ気味に店を出る。


 まあいい。これで武器は手に入った。

 あとは“アレ”さえ手に入れれば……。



 クク、見てろよメスガキ。

 この完璧な策で、今度こそ絶対に俺が勝つ……!!

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