第10話 世界樹と話そう!

「僕たちを……待っていた?」


 僕の言葉にイルミアと名乗った彼女はこくりと頷く。

 ちなみに彼女の体は僅かに透けていて、ふわふわと浮いている。実体はないのかな? 触ることはできなさそうだ。


『瘴気に侵され、私の力は前よりも大幅に弱くなってしまいました。そのせいで私の声は届かなくなってしまいました。貴方がたが声を聞くことができるのは、強い神力を宿しているからです』


 女神様からギフトを貰っている僕には、どうやら神力が宿っているみたいだ。そして神狼フェンリルであるルーナさんは当然のごとく神力を持っている。


「エルフの子どもが貴女の声を聞いたと言っていたのですが、それはどうしてですか?」

『生まれたばかりの生物は、僅かながら神力を有しているのです。ほとんどの者は大人になるに連れてその力を失ってしまいますが』


 子供の頃は妖怪や幽霊などの不思議なものが見えたという話は、前の世界でも聞いたことがある。

 それは神力を持っていたせいなのかもしれないね。


「しかしなぜ樹の上にいるのですか?」

『根の方は既に瘴気に侵されてしまっています。姿を表せるのは樹上ここくらいしか残っていないのです』

「なるほど……」

『聖樹の巫女であれば今の私の声を聞くこともできると思いますが、二人は樹上ここに来ることなどありませんからね。貴方がたが来てくれて助かりました』

「聖樹の巫女?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 巫女さんみたいな人って里にいたっけ。そう考えているとルーナさんが口を開く。


「アンナとエレナのことだ。二人は聖樹の力を宿して生まれた双子なのだ。ゆえにあやつらは若くして里長と戦士長という座に就いておる」

「なるほど。そうだったんですね」


 里には二人より年上のエルフがたくさんいた。それなのになんで二人が偉い地位についているのかなと思うことはあったけど、そういう理由があったんだ。


「そうだイルミアさん。瘴気に侵されている中心部を教えてください。僕たちは貴女を治そうとしているんです」

『……ありがとうございます。その気持ちは嬉しいですが、それは困難だと思います』


 イルミアさんは悲しげに目を伏せる。

 どうやら事態は思ったよりも悪いようだ。


『瘴気は既に私の体の中心部を食い荒らしています。外見こそあまり変わっていませんが、その中身はほとんど瘴気に侵されてしまっているのです』

「そんな……!」


 イルミアさんの言葉に、僕は驚く。

 まさかそこまで事態が悪化していたなんて。


◇ ◇ ◇


「――――ということです」

「なんと……そのようなことになっていましたか」


 僕の話を聞いた里長のアンナローゼさんは、悲しそうに目を伏せる。

 イルミアさんの話を聞いた僕は、まずアンナローゼさんにその話を伝えた。妹のエレオノーラさんも同席しているけど、他のエルフの人たちには席を外してもらっている。


 あまりこの話が広がりすぎると、里に混乱が広がると思ったからだ。部外者の僕が簡単に広げていい話ではないだろう。


「まさか瘴気が世界樹の内側を既に侵食していたなんて。私たちが世界樹を傷つけられないことを逆手に取られましたね……」

「クソ! 許せん……!」


 エレオノーラさんは悔しげに壁を殴りつける。

 その衝撃で家がぐらぐらと揺れて、殴った場所にヒビが入る。あんなに力強かったんだ……おっかない。


「世界樹を治すためには、幹の表面を切って中に入るしかありません。その許可をいただけますか?」

「本来であればそのようなことを許可するわけにはいきませんが、今はそのようなことを言ってはられませんね。里長の権利で特例を認めます」


 アンナローゼさんは僕のお願いを聞き入れてくれた。

 よし、後は世界樹の中に入って瘴気を消すだけだ。そう思っているとアンナローゼさんは「ですが」と付け足す。


「貴方だけを行かせるわけには行きません。エルフを代表し我ら姉妹も同行します」

「え? アンナローゼさんもですか?」


 戦士長であるエレオノーラさんなら分かるけど、里長のアンナローゼさんまで来るなんて。

 大丈夫かなと心配していると、彼女は立てかけてあった杖を手に取り、その先端に光を灯す。


「こう見えて魔法の腕には自信があるんですよ? 聖樹の巫女の力、お見せいたします」


 アンナローゼさんはそう言って微笑む。

 こうして僕たちは共に世界樹に向かうことになるのだった。

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