第26話 ユートの決意
夕飯の時間、食堂のテーブルには温かい料理が並び、家族が揃っていた。ココとククも小屋から戻ってきて、いつものようにユーリの足元でちょこんと座っている。
今日はリリーが作ってくれた具沢山スープだ。お客さんには出せないが味や品質に問題のない部分をたくさん入れてあるため、出汁もしっかり出ていて、味付けはあまりしていないがとっても美味しい。
「うーん、やっぱりママのご飯は美味しいなぁ!」
ユーリは、ぱくぱくとスープを口に運びながら満足そうに笑う。
「あら、ユーリありがとう!」
リリーが優しく微笑むと、ダンがどっしりと椅子にもたれかかりながら頷いた。
「腹が減ってる時の飯ほど美味いもんはねぇからな。それに元々リリーの飯ほどうまいもんはない!」
「あら、あなたまで。みんなが褒めてくれるから作り甲斐があるわ」
そんな和やかな雰囲気の中、ユートはずっと黙ったままだった。まるで何かを決心しようとしているように、スプーンをいじりながら視線を落としている。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ユーリが不思議そうに覗き込むと、ユートは息を大きく吸い込んで顔を上げた。
「父さん、母さん、話があるんだ」
突然の真剣な声に、リリーとダンの手が止まる。
「どうした、ユート?」
ユートは少し緊張した面持ちで、言葉を選びながら話し始めた。
「俺、狩人としても活動したい。もちろん、宿屋は継ぐつもりだよ。この宿は大好きだしそれが俺の目標だから。でも、そのために必要なことを考えたんだ。ユーリは自分のジョブでできることを探してる。俺のジョブは家を継ぐには必要ないと決めつけていたけど、家を継ぐなら、お客さんに美味しい料理を出すことが大事だよな。俺にできるなら、美味しい食材を自分の手で集めたいいって思ったんだ。」
「狩人……?」
リリーは少し驚いた。ユートの夢はこの宿屋を継ぐことだ。それはユート本人が昔から言っていた。それと同時に、狩人にはならないと本人が決めて今まではそれをあまり口にもしなかった。
しかし、ユーリの姿を見て、また町で働く人たちの様子を見て、可能性に気づいたのだ。
「父さんと母さんの手伝いをしながら、狩人としても動けるようになりたいんだ」
「……なるほどな」
ダンは腕を組みながら、じっとユートを見つめる。
「狩人になるってのは、生半可な気持ちじゃできねぇぞ。獲物を狩るってのは、命を奪うことでもある。危険もつきものだ」
「分かってる。でも、俺は真剣に考えたんだ。狩人としての力があれば、宿屋のためにもなるし、家計の助けにもなる。それに……ククもいる。こいつと一緒に成長して、立派な狩人になりたい」
———クワッ!
膝の上に座っていたククが元気よく鳴いた。まるで「俺も頑張る!」と言っているかのようだった。
リリーは少し考えた後、優しく微笑んだ。
「ユートがそこまで考えているなら、私たちは反対しないわ。あなたが家のことをしっかり考えてくれているのが伝わってきて今までだって嬉しかったわ。でも、今回家のことだけじゃなく自分のことをしっかり考えてきててくれた方が何より嬉しいわ」
「母さん……!」
「でも、父さんの言う通り、狩人の仕事は甘くないわ。誰かにちゃんと教えてもらう必要があるわね」
「その点なら、俺に考えがある」
ダンがゆっくりと口を開く。
「ライスに頼んでみるつもりだ」
「ライスさんに?」
ユートが驚いて聞き返すと、ダンは頷いた。
「あいつは元冒険者で、狩人としても一流だった。今は食堂をやってるが、自分で食材を狩って調達することもある。狩りの技術だけでなく、獲物をどう扱うかも知ってるはずだ」
「確かに……!ライスさんなら、俺に狩人としての基本を教えてくれるかもしれない!」
「ただし、弟子を取るかどうかはライス次第だ。明日、俺と一緒に頼みに行くぞ」
「……わかった!」
ユートは力強く頷いた。
翌日、ダンとユートはライスの店を訪れた。店は昼の仕込みのため、店の中にはライスだけがいた。
「おう、ダンにユートか。なんだ、今日は客じゃねぇのか?」
「ちょっと頼みがあってな」
ダンは椅子に座りながら、真剣な表情で話し始めた。
「ライス、ユートを狩人として鍛えてやってくれねぇか?」
「……は?」
ライスが思わず眉をひそめる。
「ユートが、宿屋を継ぐために狩人としての力も身につけたいって言ってるんだ。お前なら、狩りの基本を教えられるだろう?」
ライスはユートをじっと見つめた。ユートはライスの視線を真正面から受け止め、拳を握る。
「俺、狩人としての技術を学びたいです!ライスさんの話を聞いて、ご飯を食べて、自分もできるようになりたいって思いました!」
「……ふぅん」
ライスはしばらく考え込むように腕を組んだ。
「狩りってのは、思ってるよりきついぞ?肉を取るためだけじゃねぇ、動物を殺すってのは、そいつの命を奪うってことだ。お前に、その覚悟はあるのか?」
ユートは深く息を吸い込み、しっかりと頷いた。
「あります!俺は、自分の力で宿を支えたい。そのためには、狩人として獲物を仕留めることも、解体することも、全部学ばなきゃいけないって思ってます!」
「……ほぉ」
ライスはユートの目をじっと見た後、ため息をついた。
「……ま、いいだろう」
「えっ!」
「すぐに実戦は無理だが、まずは狩人として必要な基本を教えてやる。冒険者登録の仕方から、罠の設置、獲物の追い方までな」
「本当ですか!?」
「まあな。ただし、俺の言うことはしっかり聞けよ。適当にやるようなら、すぐに叩き出すからな」
「はいっ!ありがとうございます!」
ユートは嬉しそうに頭を下げた。ダンは満足そうに腕を組んで微笑む。
「頼んだぞ、ライス」
「ああ、任せとけ。……ったく、お前の家の子供はどいつもこいつも面白いことばっかりするな」
ライスは苦笑しながら肩をすくめた。
こうして、ユートはライスのもとで狩人としての修行を始めることになった。
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