愛犬を愛しすぎたら、人間になって愛を伝えに来ました
鳶雫
一章 僕が変人ですか…?
(1)
僕、麻木寄人(あさぎよりひと)は昔から人見知りで友達と遊ぶ機会なんてあまり無かった。高校二年生の今、友達に囲まれて学校生活を楽しく送れているのは、愛犬のひまわりのおかげだ。ひまわりを家族として迎えてから、散歩で出会う人と会話をしたり、犬の触れ合いをさせてもらったりして、人見知りを克服出来た。友達の会話も、愛犬のことを話したりすれば仲良くなれることを知った。
ある日、両親の友美(ともみ)と明人(あきひと)に連れられてきたゴールデンレトリーバーの子犬を、まだ幼かった僕は覚えている。とても衝撃的だったから。金色の綺麗な毛並みにぱっちりした黒い瞳、ぽてっとした丸みを帯びたフォルム。正直、とてもかわいくて驚いた。広角を上げてこちらを見ている姿はまるで、絵本で見た向日葵のような感じがした。だから名前はひまわりだ。
夏休みに入る前、最後のホームルーム中に僕のスマホが振動する。母から連絡が入っていた。買い物のメモか何かだろうな。スマホを開いて見ると、「ひまわりが動かない」と書いてあった。最近ひまわりの年齢は13歳になったし、あんまり動かないのはいつものこと。でも心配だ、一応早めに帰ることにしようか。
「じゃあね、また夏休みに」
「あれ、寄人先に帰るのか?」
「うん、ちょっと心配ごとがあって」
「本当に親ばかだな!」
僕はクラスメイトに手を振った。ひまわりは最近別に元気だったし、急に死ぬことなんてないだろう。別に何かあるわけじゃないし、まさか、死ぬなんてことはない…よね?だめだ、変な事を考えたら。
「はぁ…」
時計を見ると15分程で家に到着していた。いつもより15分も早く着いた。扉を開けようとする手が震えている。やめろ、考えるな。死んでなんかいない、ちょっと調子が悪いだけだから。
「ただいま」
声を掛けてリビングに入ると、母さんの膝の上でぐったりしているひまわりが居た。嘘だ、死んでない、こんなに簡単に死んじゃうわけないだろう!そうだ、寝ているに違いない。
「ひまわり、ただいま」
ひまわりは一瞬だけこっちを見て「くーん」と鳴いた。ひまわりに寄り添ってわしゃわしゃ撫でまわす。嘘だ、こんなに弱ってなかった。朝はしっかり自分の足で立ててたじゃないか。
「ひまわり?」
「……」
「ねぇ…返事してよ?ひまわり!」
「……」
いくら呼びかけても応えてくれない、ひまわりはどんどん冷たくなっていく。嫌だ、死なないでくれ!頼む…目を開けてくれよ…。
「お願いだから……目を開けてよ!」
「……」
「お前が居ないと…僕はどうすればいいんだよ…」
涙が止めどなく溢れ出す。初めて、声を出して泣いた。こんなに急じゃなくてもよかったじゃないか。いや、分かってる。予知できるものじゃないことぐらい…。予知できたってしょうがない、防げないのだから。
母さんがひまわりを抱き上げる。何をするつもりだ、どこに連れていくつもりだ!僕は頭を搔きむしる。何に怒ってる?何に…何がしたい…?自分は何がしたいんだ?
「ひまわりちゃんは火葬しましょうか」
「なんで…冷静でいられるの?」
「ひまわりちゃんは、元気で賢い子だったでしょ?」
「だから…何?」
「笑顔で見送られる方が喜ぶと思うの」
「……」
分かってる、そんなことは。涙を流すことが正義とかそんな話じゃない。分かってるけど、悲しんでるかどうか、分からないじゃないか!同じ血が流れているのか?家族の死だぞ。
僕が苦しんでいる間に母さんはテキパキと準備を進めていった。気づけば火葬されて骨の粉になったひまわりが壺に収まっていた。ひまわり…ごめんな。お前を幸せにできたかどうか、僕には判断できないや。もっと、色々なことをしてあげられたと思う。もっと散歩に行けたよな、もっと遊んであげられたよな、もっともっと…できたよな。ごめんね。
玄関が音を立てる。父さんが入ってきて「間に合わなかったか」と呟いた。丁度定時の17時半だ。父さんも早めに帰ってきたのか。それだけでも少しだけ、救われた気持ちになった。
「骨、どこに置くんだ?」
「そうよね、どこがいいかしら?」
「庭に…撒こうよ」
窓から外を覗く。ひまわりが大好きだった庭。よく走り回って、泥を鼻につけて、遊んでいた。あの時も、ひまわりはニコニコしているように見えた。泥だらけで遊ぶのは楽しかったのかな…。
庭に出て、花壇のところに小さく穴を掘る。そこに粉になった骨を埋めた。安らかに眠ってね。ひまわり。みんなで手を合わせて、リビングに戻った。
朝、8時に目が覚める。ひまわりが来ないな、あぁそうか。死んじゃったんだっけ。リビングでトーストを齧る。何…しようかな?何もすることがないな?一点だけを見つめる遊びでもするか?さすがにつまらないか。
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