子供達と神々の神楽 ～月の章～

模擬戦の始まり

（「刻（とき）代（よ）ちゃん、本（ほん）当（とう）に出（で）来（き）るの？」）

　虚（こ）蝶（ちょう）が念（ねん）話（わ）でそう刻（とき）代（よ）に聞（き）き返（かえ）すと、刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）で答（こた）える。

（「出（で）来（き）るわよ。まぁ見（み）てなさい」）

　答（こた）えた刻（とき）代（よ）は思（おも）う。

（流石（さすが）に風（かぜ）や光（ひか）りの事（こと）を科（か）学（がく）的（てき）に説（せつ）明（めい）しても、今（いま）のこの子（こ）には理（り）解（かい）し辛（つら）いでしょうね……）

　刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）で、虚（こ）蝶（ちょう）に促（うなが）す。

（「やるわよ。あの子（こ）達（たち）に合（あい）図（ず）を出（だ）して、タイミングは貴女（あなた）に合（あ）わせるから）」

（「分（わ）かった……」）

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）やるよ、せぇぇぇの！」

　少（すこ）し大（おお）声（ごえ）で虚（こ）蝶（ちょう）がそう言（い）うと、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の纏（まと）っている風（かぜ）が半（はん）透（とう）明（めい）の緑（みどり）色（いろ）を帯（お）び、視（し）覚（かく）的（てき）に見（み）える様（よう）に成（な）った。

（「刻（とき）代（よ）ちゃん、どうやったの？」）

　そう念（ねん）話（わ）で聞（き）いて来（き）た虚（こ）蝶（ちょう）に、刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）で返（かえ）す。

（「今（いま）の貴女（あなた）には、説（せつ）明（めい）しても多（た）分（ぶん）理（り）解（かい）出（で）来（き）ないわよ。まぁ強（し）いて言（い）えば、月（つき）は何処（どこ）から来（き）て如何（どう）やって出（で）来（き）たでしょう……かしらね？」）

（「何（なに）それ？」）

　念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）し不（ふ）思（し）議（ぎ）がる虚（こ）蝶（ちょう）に、北（ほく）斗（と）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）後（ご）しに聞（き）く。

「ねぇ虚（こ）蝶（ちょう）、今（いま）のどうやったの？」

「分（わ）かんない？」

　キョトンと反（はん）射（しゃ）的（てき）にそう返（かえ）した虚（こ）蝶（ちょう）に、葉（よう）司（じ）が通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しに言（い）う。

「分（わ）かんないって、お前（まえ）なぁ……」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）い終（お）わると、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）にスセリから念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）良（よ）く出（で）来（き）ましたね。コレなら葉（よう）司（じ）も風（かぜ）の姿（すがた）を認（にん）識（しき）……――」）

（「待（ま）ったスセリ、これをやったのは僕（ぼく）等（ら）じゃない。虚（こ）蝶（ちょう）だ」）

　スセリの念（ねん）話（わ）を遮（さえぎ）って、太（たい）耀（よう）が念（ねん）話（わ）でそう言（い）い返（かえ）す。

　するとスセリは少（すこ）し考（かんが）えた後（あと）、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）に念（ねん）話（わ）で尋（たず）ねる。

（「それについて、虚（こ）蝶（ちょう）は何（なに）か言（い）ってませんか？」）

　その質（しつ）問（もん）に、念（ねん）話（わ）で答（こた）えたのは北（ほく）斗（と）。

（「それが変（へん）なんだ。自（じ）分（ぶん）でやったのに、分（わ）かんないって」）

　北（ほく）斗（と）の念（ねん）話（わ）でスセリは考（かんが）える。

（なら、あの子（こ）以（い）外（がい）が力（ちから）を行（こう）使（し）したと言（い）う事（こと）か……　風（かぜ）を見（み）える様（よう）にするには、風（かぜ）が光（ひか）りを反（はん）射（しゃ）する様（よう）にすれば良（い）い。つまり相（あい）手（て）は光（ひか）りか物（ぶっ）質（しつ）を統（す）べる力（ちから）が有（あ）ると言（い）う事（こと）。でも正（しょう）体（たい）を隠（かく）したい筈（はず）なのに、何（な）故（ぜ）その様（よう）な行（こう）動（どう）をさせたのかしら……）

　そうスセリが悩（なや）んでいる時（とき）、姿（すがた）を隠（かく）し様（よう）子（す）を窺（うかが）っていた刻（とき）代（よ）は、恵（え）理（り）花（か）……正（せい）確（かく）にはスセリを見（み）てクスクス笑（わら）いながら思（おも）う。

（「あの子（こ）根（ね）は真（ま）面（じ）目（め）だから。今（いま）頃（ごろ）何（なん）で私（わたし）が、正（しょう）体（たい）バレる様（よう）な事（こと）をしたのか悩（なや）んでいるかしら？」）

　そんな神（かみ）々（がみ）の思（おも）いとは関（かん）係（けい）無（な）く、葉（よう）司（じ）は攻（こう）撃（げき）の目（もく）的（てき）で有（あ）る金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）を、破（は）壊（かい）する方（ほう）法（ほう）を考（かんが）えていた。

「なぁ三（さん）人（にん）共（とも）、あの金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）壊（こわ）す良（い）い方（ほう）法（ほう）ねぇ？」

　通（つう）信（しん）機（き）能（のう）越（ご）しに葉（よう）司（じ）にそう言（い）われ、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）、虚（こ）蝶（ちょう）はそれぞれの考（かんが）えを、通（つう）信（しん）様（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに言（い）う。

「さっきも言（い）ったけど、エアーマンみたいな事（こと）すれば？」

　虚（こ）蝶（ちょう）の言（こと）葉（ば）に、北（ほく）斗（と）が続（つづ）ける。

「風（かぜ）を相（あい）手（て）にぶつけろって事（こと）だよね。でもソレだと、ロボットみたいなのには余（あま）り聞（き）きそうに無（な）いかな、火（カ）流（ル）羅（ラ）ガイストとか阿（あ）蛇（じゃ）鋼（こう）王（おう）には効（こう）果（か）薄（うす）そう」

「それならソニックブームなんてどうだ。確（たし）かストリート何（なん）とかでそんな技（わざ）が……」

　太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）で、葉（よう）司（じ）の頭（あたま）にあるゲームが思（おも）い受（う）かぶ。

「あぁ。そんなの街（まち）のおもちゃ屋（や）の筐（きょう）体（たい）で、お前（まえ）らと遊（あそ）んだな。確（たし）か物（もの）凄（すご）い髪（かみ）型（がた）のアメリカ人（じん）の技（わざ）だっけ？」

　そう聞（き）き返（かえ）した葉（よう）司（じ）に、太（たい）耀（よう）は話（はな）しを続（つづ）ける。

「そう、それ。確（たし）かあぁ言（い）うのを鎌（かま）鼬（いたち）とか言（い）うんじゃなかったっけ？」

　そう言（い）う太（たい）耀（よう）だが、自（じ）分（ぶん）の言（い）っている事（こと）が正（ただ）しいのか自（じ）信（しん）は無（な）い。

　しかし太（たい）耀（よう）は言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「僕（ぼく）の光（ひか）り同（どう）様（よう）に、人（ひと）に当（あ）たったら危（あぶ）ないけど、お前（まえ）の場（ば）合（あい）は力（ちから）の制（せい）御（ぎょ）は僕（ぼく）よりしやすいだろうし。危（あぶ）なければ使（つか）わなければいい。何（なに）より鎌（かま）鼬（いたち）と言（い）う妖（よう）怪（かい）が確（たし）かいるはずだから、適（てき）当（とう）に命（めい）令（れい）しても龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）がソレっぽくしてくれるんじゃないか？」

　言（い）われて葉（よう）司（じ）は少（すこ）し考（かんが）え、納（なっ）得（とく）して龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に命（めい）令（れい）をする。

「……とにかくやってみっか、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）。周（まわ）りにある風（かぜ）を鎌（かま）鼬（いたち）にして、的（まと）の金（きん）属（ぞく）の柱（はしら）に攻（こう）撃（げき）してみてくれ」

　葉（よう）司（じ）の命（めい）令（れい）で、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は周（まわ）りに集（あつ）めた風（かぜ）を、尻尾（しっぽ）に集（あつ）め思（おも）い切（き）り尻尾（しっぽ）を振（ふ）った。

　すると集（あつ）まった風（かぜ）は尻尾（しっぽ）を離（はな）れ、風（かぜ）の刃（やいば）と成（な）って金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）を上（じょう）下（げ）真（ま）っ二（ぷた）つに切（き）り裂（さ）く。

　　ブゥオン　

　　ッカシャン

　　　スーゥ　ドガシャン

　金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）の上（うえ）半（はん）分（ぶん）が地（ち）上（じょう）に落（お）ちると同（どう）時（じ）に、風（かぜ）の刃（やいば）を形（かたち）作（づく）っていた風（かぜ）は霧（む）散（さん）する。

「キュゥゥー」

　鳴（な）いた龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の姿（すがた）は、「どんなもんだ！」と言（い）っている様（よう）。

　ソレを見（み）ていたスセリは、葉（よう）司（じ）に念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「凄（すご）い事（こと）思（おも）い付（つ）いたわね葉（よう）司（じ）、少（すこ）し危（あぶ）ない気（き）もするけど……」）

（「使（つか）う場（ば）所（しょ）はキチンと考（かんが）える、それと考（かんが）えたのは太（たい）耀（よう）。それより鎌（かま）鼬（いたち）ってこんなんで良（い）いのか？」）

（「アレは鎌（かま）鼬（いたち）なんで生（なま）易（やさ）しいモノじゃないわ。陰（いん）気（き）を打（う）ち払（はら）う剣（けん）そのもの、強（し）いて言（い）えば払（ふつ）の御（み）霊（たま）の剣（つるぎ）」）

（「そんじゃ、この技（わざ）の名（な）前（まえ）はフツノツルギだな」）

　葉（よう）司（じ）が念（ねん）話（わ）でそう言（い）ったので、スセリは心（こころ）の中（なか）で苦（にが）笑（わらい）をしながら考（かんが）える。

（……まぁいいでしょう。あの子（タケミナカタ）やあの軍（ぐん）神（しん）がどんな反（はん）応（のう）するか気（き）になるけど）

　心（こころ）の中（なか）で二（に）神（しん）の顔（かお）を思（おも）い浮（う）かべたスセリは、少（すこ）し真（ま）を置（お）いて葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）、恵（え）理（り）花（か）に念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「さて四（よ）人（にん）共（とも）、そろそろキチンと練（れん）習（しゅう）を始（はじ）めましょうか。内（ない）容（よう）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を他（ほか）の臣（おみ）器（き）三（さん）器（き）が地（ち）上（じょう）に落（お）とす事（こと）」）

（「ちょっと待（ま）ったスセリ……――」）

　葉（よう）司（じ）が念（ねん）話（わ）でそう文（もん）句（く）を言（い）おうとするが、スセリはそれを無（む）視（し）して四（よ）人（にん）に念（ねん）話（わ）を続（つづ）ける。

（「ただし龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は流（る）鱗（りん）纏（てん）の状（じょう）態（たい）を維（い）持（じ）。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が地（じ）面（めん）に落（お）とされるか、他（た）の三（さん）器（き）が龍（りゅう）蛇（じゃ）丸（まる）に吹（ふ）き飛（と）ばされた場（ば）合（あい）、終（しゅう）了（りょう）とします。恵（え）理（り）花（か）はどんな事（こと）があっても四（よ）人（にん）を助（たす）けてはいけません、見（み）守（まも）る事（こと）も必（ひつ）要（よう）な時（とき）が有（あ）るのですから……　良（い）いですね？」）

（「分（わ）かった」）

　念（ねん）話（わ）で恵（え）理（り）花（か）がそう返（へん）事（じ）をすると、スセリは葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）に……いや多（た）分（ぶん）、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）に向（む）かって念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「虚（こ）蝶（ちょう）の事（こと）もあるし、開（かい）始（し）の合（あい）図（ず）は貴方（あなた）達（たち）に任（まか）せるわ。それじゃあやる気（き）を出（だ）して頑（がん）張（ば）ってね、私（わたし）も恵（え）理（り）花（か）も見（み）て居（い）てあげるから」）

　★★★★

「えっ、葉（よう）司（じ）お兄（にい）ちゃんと戦（たたか）うの？」

　葉（よう）司（じ）から、練（れん）習（しゅう）内（ない）容（よう）を通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに聞（き）いた虚（こ）蝶（ちょう）は、少（すこ）し不（ふ）安（あん）そうな顔（かお）をしてそう言（い）い返（かえ）した。

　すると葉（よう）司（じ）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに言（い）う。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、お前（まえ）は手（て）加（か）減（げん）してやるからさ。それより、そのお兄（にい）ちゃんっての止（や）めてくんねぇか？　何（なん）かお前（まえ）に言（い）われると、不（ふ）思（し）議（ぎ）な感（かん）じがすんだよ｣

　北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）も、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「それ、ボクもお願（ねが）い出（で）来（き）る？」

「僕（ぼく）も呼（よ）び捨（す）てで呼（よ）んでくれ！」

「分（わ）かった……いや、やっぱり恥（は）ずかしいから君（くん）付（つ）けて良（い）い？」

　虚（こ）蝶（ちょう）がそう返（かえ）したので、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに他（た）の三（さん）人（にん）は頷（うなず）く。

「確（たし）かに、呼（よ）び捨（す）ては年（とし）下（した）の女（おんな）の子（こ）には恥（は）ずかしいか。悪（わる）かった虚（こ）蝶（ちょう）｣

　太（たい）耀（よう）に通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しにそう言（い）われ、虚（こ）蝶（ちょう）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）った。

　そんな虚（こ）蝶（ちょう）に、刻（とき）代（よ）が念（ねん）話（わ）で話（はな）しかけて来（く）る。

（「君（くん）ねぇ、何（なに）を感（かん）がえてるのかしら？」）

（「何（なん）でもないよ……　それより僕（ぼく）等（ら）の声（こえ）聞（き）こえるの？」）

（「埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を通（とお）してね。ほら、練（れん）習（しゅう）始（はじ）めなさい」）

　刻（とき）代（よ）にそう念（ねん）話（わ）で言（い）われ、虚（こ）蝶（ちょう）は通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに、恥（は）ずかしそうに葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「それじゃお願（ねが）い……葉（よう）司（じ）君（くん）」

「そんじゃ始（はじ）めるか。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、流（る）鱗（りん）纏（てん）はさっきと同（おな）じモノが基（き）本（ほん）で。行（い）くぞ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、流（る）鱗（りん）纏（てん）！｣

　　ブオォォォォン

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は半（はん）透（とう）明（めい）な緑（みどり）色（いろ）の風（かぜ）を纏（まと）った、

　そして葉（よう）司（じ）は言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「お前（まえ）等（ら）、簡（かん）単（たん）にぶつかんなよ！」

　そう言（い）いながら葉（よう）司（じ）は、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）と鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の方（ほう）に向（む）かって、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で向（む）かって行（い）く。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）を！」

「鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の真（ま）上（うえ）に向（む）かえ！」

　　ガコン　ガコン　ガコン

　向（む）かって来（く）る龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に、北（ほく）斗（と）は武（ぶ）器（き）を生（せい）成（せい）し、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で向（む）かって行（い）き。太（たい）耀（よう）はある考（かんが）えから、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の真（ま）上（うえ）に鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）で移（い）動（どう）する。

　それを見（み）ている虚（こ）蝶（ちょう）に、刻（とき）代（よ）が念（ねん）話（わ）で言（い）う。

　しかし虚（こ）蝶（ちょう）は埜（ヌ）依（エ）丸（マル）を動（うご）かさない。

　刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）で虚（こ）蝶（ちょう）に聞（き）く。

（「あら、貴女（あなた）は行（い）かないの？」）

（「邪（じゃ）魔（ま）にならないかなぁ？」）

（「ほら、一（いち）応（おう）貴女（あなた）から練（れん）習（しゅう）に誘（さそ）ったのよ。臣（おみ）器（き）での戦（たたか）いに、操（そう）縦（じゅう）者（しゃ）の体（からだ）は関（かん）係（けい）無（な）い」）

（「分（わ）かってるけど……」）

　虚（こ）蝶（ちょう）と刻（とき）代（よ）がそんな念（ねん）話（わ）をしている一（いっ）方（ぽう）で、北（ほく）斗（と）は艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）の刀（とう）身（しん）を伸（の）ばし、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を逆（さか）刃（ば）で振（ふ）り叩（たた）こうとする。

　が、流（る）鱗（りん）纏（てん）によって龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の周（まわ）りを吹（ふ）き荒（すさ）ぶ風（かぜ）の影（えい）響（きょう）と、流（る）鱗（りん）纏（てん）とは逆（ぎゃく）向（む）きに刀（かたな）を振（ふ）った為（ため）、攻（こう）撃（げき）速（そく）度（ど）が著（いちじる）しく落（お）ち、更（さら）に風（かぜ）に煽（あお）られる所為（せい）で上手（うま）く、刀（かたな）を龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に当（あ）てる事（こと）が出（で）来（き）ない。

「北（ほく）斗（と）。お前（まえ）が面（めん）と向（む）かって来（く）るなんて、珍（めずら）しいじゃねぇか」

　通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）からの葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）を無（む）視（し）し、北（ほく）斗（と）は艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）の刀（とう）身（しん）を伸（の）ばし、今（こん）度（ど）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で突（つ）き攻（こう）撃（げき）を繰（く）り出（だ）した。

　　ブォン

　　　ガコン

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に当（あ）ったものの、風（かぜ）の壁（かべ）と間（ま）合（あ）いを取（と）っている所為（せい）で、威（い）力（りょく）がある程（てい）度（ど）潰（つぶ）され思（おも）ったより威（い）力（りょく）が出（で）ない。

「やっぱり風（かぜ）が邪（じゃ）魔（ま）で威（い）力（りょく）が落（お）ちる……　だったら！」

　そう言（い）った北（ほく）斗（と）は、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）を逆（さか）刃（ば）に咥（くわ）えさせ、風（かぜ）が巻（ま）き起（お）こっているのと同（おな）じ方（ほう）向（こう）に刀（かたな）を振（ふ）る為（ため）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の体（からだ）を、流（る）鱗（りん）纏（てん）の風（かぜ）の巻（ま）き起（お）こっている方（ほう）向（こう）に回（かい）転（てん）させる。

　　ブオン

　それに伴（ともな）い艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）の刀（とう）身（しん）は、伸（の）びながら左（ひだり）下（した）から右（みぎ）上（うえ）に右（みぎ）切（き）り上（あ）げの軌（き）道（どう）を取（と）り、北（ほく）斗（と）の考（かんが）えた通（とお）り刀（かたな）の振（ふ）る速（そく）度（ど）は落（お）ちなかった。

　しかし今（こん）度（ど）は、攻（こう）撃（げき）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に届（とど）かない……

　いや正（せい）確（かく）に言（い）うと、艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）がピクリとも動（うご）か成（な）くなった。

「刀（かたな）が動（うご）かない！」

　驚（おどろ）いていそう言（い）う北（ほく）斗（と）に、葉（よう）司（じ）が通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに言（い）う。

「北（ほく）斗（と）。お前（まえ）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が人（じん）工（こう）物（ぶつ）操（あやつ）れるの忘（わす）れてねぇか」

　刀（かたな）を受（う）け止（と）めているポーズをしている葉（よう）司（じ）が、自（じ）信（しん）満（まん）々（まん）にそう言（い）うと、通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）越（ご）しに太（たい）耀（よう）が話（はな）しかけて来（く）る。

「北（ほく）斗（と）、葉（よう）司（じ）の動（うご）きをそのまま止（と）めてろ

！　鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、フォールダウンキック」