3-06.再結成! グレイ・キャンバス!
わたくしは十二歳になりました。
すっかりお子様体型を卒業しましたが、髪はまだ金色のままです。
白魔法は使えるから何も困らないのですが、少し気になります。
まさか盗賊に襲われることが必要だった? そう思ってキングに適当な盗賊を用意させたのですが、残念ながら何も起きませんでした。
そうそう、キングは忠実な僕になりました。
王都の民も良い感じに教育が進みまして、私が歩けば道が開きます。
「……ふふ、これならば」
イーロンさま、道を掃除しておきました。
流石ノエル。ここまで尽くしてくれた君に、今日はたっぷりお礼しないとね。
ああ、いけませんイーロンさま。民草の目がありますわ。
おっと、それは失礼した。すまない。今の僕には、君しか見えないんだ。
まぁ、イーロンさまったら。うふふ。
「……完璧ですわ」
約束された未来絵図。
これを実現するためには、まだまだやるべきことが残っています。
例えばそれは──楽園。
やっと、この日を迎えることができました。
イーロンさまのお世話係を独占できた七年間。
感無量です。わたくしは、この日々を一生涯忘れません。
しかしながら、彼の望みは、わたくしと二人で生きることではありません。
極めて不本意ではありますが……愉快な仲間達を迎えに行く必要があります。
イーロンさまが望む世界を作る為には、絶対に避けては通れない道です。
「まずは、グレンを見つけましょう」
楽園の方々からの信頼を得る為にはスカーレットと会話する必要があります。その際、わたくしが単独で乗り込むよりも、彼が一緒に居た方が何かと都合が良い。
わたくしが十二歳になるまで行動しなかったことには理由があります。
イロハ様が出会ったのは、独立した後の彼女達です。わたくしは、彼女達の独立に伴うゴタゴタが、ちょうど今頃の時期に解消すると知っています。
だから、七年も待ちました。決して、イーロン様と二人でイチャイチャする時間を引き延ばしたかったわけではありません。
「行ってきます」
わたくしは寝ているイーロンさまに挨拶をして、旅立ちました。
「グレンの拠点は、確か……」
見つけた。
「一緒に来て頂きます」
「なっ、なんだおまうわああああああああ!」
わたくしはグレンの首根っこを摑み、そのまま全力ダッシュを始めました。魔力を上手に制御すれば、海の上を走ることも容易い。そのまま三時間ほど走り続け、まだ明るいうちにウリナテキゴ大陸に辿り着きました。
「到着ですね」
グレンを降ろします。
「……あら?」
彼は泡を吹いて気絶していました。
「……相変わらず、抜けたところがあるのですね」
やれやれと溜息ひとつ。
わたくしは彼の魔力を操作して、強制的に意識を覚醒させます。
「ぐぉぇっ!?」
意識が戻ったグレンは嘔吐しました。
嫌ですわ。レディの前で。はしたない人。
「……お、お前は、何者なんだ?」
彼は息を乱しながら言いました。
わたくしは、お手本を見せるような気持ちで会釈をします。
「初めまして。わたくしはノエルと申します」
「……ノエル? 聞いたことがない」
「わたくしは、楽園の秘密を知っています」
「なにぃ!?」
食いつきましたわ。
「それだけではありません。この世界の真実。あなたが探しているフローパ・バーグの手記に記された内容。それ以上のことも全て。何もかも、知っています」
……反応が薄いですわね。
まさか、この時点の彼は手記のことを知らない?
「……大変、失礼いたしました」
ああ、大丈夫そうですわね。
わたくしは跪いたグレンを見て、ほっと胸をなでおろします。
「早速、わたくしを楽園までエスコートして頂きたいのですが、よろしくて?」
「……有難き幸せ」
なんだか懐かしいですわね。
彼の態度、イロハ様に向けられていたモノと似ていますわ。
……あら? わたくし、何か間違えたかも?
まあいいでしょう。些末なことです。切り替えましょう。
その後。
「消し炭にしてあげる!」
と言ったスカーレットを負かし、
「……ようこそ、いらっしゃいましたぁ」
なんだか最初から好意的だったアクアを手懐け、
「……アァッ!? アァァッ!?」
ライムにご褒美を与えたところで楽園の掌握が完了しました。
もちろん、イーロンさまを主と認めさせる教育も怠りません。
当時はイロハさまのお力で成し遂げられたこと。
その輝かしい歴史を変えてしまうのは心苦しいですが、彼が望む未来を掴み取る為には必要なことです。
ともあれ、わたくしは成し遂げました。
そして、総勢87名の魔族達の前で宣言したのです。
「グレイ・キャンバス。再結成ですわ!」
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