蒼狼のミコト ~ラスボスが倒されたVRMMOで最強を目指します~
じょん兵衛
ep1 ゲームクリア
おそらくこのゲームのラスボスであろう、魔王・サタン。12本あったHPバーのうちすでに11本は消滅し、最後の1本にもその1割もHPは残されていない。だがサタンの動きは衰えない。むしろ最初より強くなっている。RPGあるあるだろう。
「”地獄の炎”くるぞ!!」
「「了解!!」」
レイドリーダーの男がサタンの攻撃の予備動作を正確に把握し、レイドメンバーに伝達する。その指示に従いスキル”絶対防御”を持つ女のもとへみんなが集まる。
「”絶対防御”!!」
”絶対防御”が発動した直後、紫の爆炎がステージを包む。この炎で何人やられたことやら。だがもうこの攻撃の対応など慣れたものだった。
「今だッ!! 攻めろ!!」
レイドリーダーの指示で各々が各々のスキルを発動させる。
「”神化の光”!!」
「”神化の光”!!」
「”絶対停止”!!」
「”究極毒麻”!!」
「”絶対融解”!!」
「”究極風断”!!」
何重にもかけられたバフ。さらにボスへのデバフ。その直後に攻撃系最高峰のスキルが次々と発動される。ちなみに俺のは5番目の”絶対融解”。
このまま決めてやろうと思い、飛び出そうとすると肩に手をかけられる。
「っ!? なんだよ!! ザイン!!」
思わず肩をかけた男・ザインに怒鳴りつける。
「落ち着け、ナギ。この最後を飾るのは、あいつだ」
ザインが指差した先には金髪のイケ男。レイドリーダー・フォルド。このレイドを組織し、まとめ上げた、おそらく魔王討伐の立役者になるだろう男。最後を飾るのにあいつよりふさわしい奴はいない。
「ああ、わかったよ!!」
そんなことを言っている間にもフォルドは飛び上がり大剣を振り上げる。
「”絶対切断”ッッ!!!!」
その基本スキル”剣技”の最高奥義は赤かったボスのHPバーの最後の数ミリを残さず削り取る。ボスの体が床に落ち、崩れる。
直後、パンパカパーンという軽快な音とともにcongratulationの文字がボスの上に浮かび上がる。
《ゲームはクリアされました。おめでとうございます。魔王サタンを倒した立役者の方を紹介します。剣士・フォルド、防御魔法使い・アイネ、強化魔法使い・ステラ……》
魔王討伐レイドの生き残りの名前が次々と呼ばれていく。周りを見渡すと100人強で挑んだレイドパーティーは今や30人ほどにまで減っている。
《……炎刀使い・ナギ、風魔法使い・ザイン》
「そう、だな」
”the earth in 1400”。日本開発のVRMMORPG。世界観が1400年ごろ、つまり銃ができる直前の地球。魔法やスキルなどを使って敵を倒していくゲーム性。この二つの要因により世界中で大ブームを巻き起こした。
このゲームの他のVRMMORPGと違う点は死んだ場合、初期スポーン地点からゲーム開始時点と同様のステータス、アイテムから始めないといけないところ。蘇生アイテムは非常に希少。この鬼畜な仕様によりプレイヤーは一回も死なないでボスなどを倒すことを要求されるため、プレイヤーの多くは自分のレベルをボスの適正レベルの二回りほど上げてからボスに挑む。いわゆる安全マージンを多めにとる。
それでも負ける可能性も当然ある。プレイヤーはどんな相手でも緊張感を持って戦わなくてはならない。その緊張感もこのゲームが流行った理由の一つなのだが。
他にこのゲームがその他のゲームと違う点といえば戦闘スキルが一つしか取れないところにあるだろう。俺の場合は”炎刀”。なんかかっこいいから選んだのだがこのスキル、最終進化は何とびっくり”絶対融解”だった。その名の通り、何でも溶かせる。
このラスボス討伐レイドはほとんどの人が一回死亡、もしくは死んだことなしという精鋭中の精鋭が集まっている。しかも各スキルの最高奥義、もしくはその次点を習得している人限定だったため集めるのが超大変だったらしい。実は最高奥義習得者だけを集めようとしていたが、さすがに無理だったらしい。
そんなこんなで大変だったこのゲームもついにラスボスが倒された。発売から約7年後のことである。このころには既にこのゲームをやめた人も多かったが、ここにいるのは7年間ずっと励み続けた、このゲーム屈指の猛者たちである。そんなゲーム廃人の猛者たちはこのゲームがクリアされやることも、理由もなくなったらどうするのだろうか。
そんなことを考えているとさっきまで戦っていたボス部屋の中心に豪華な食事が並べられている。ゲーム運営からのプレゼントらしい。すでにみんなは鎧を脱ぎ、食卓に立っていた。俺も急いで合流する。
レイドリーダーのフォルドがワイングラスを持ち上げる。
「みんなのおかげで、ついに、ついに!!このゲームのラスボスを倒すことができた!!いろいろ言いたいことはあるけど……とにかく、お疲れ!! この7年間の集大成に!!」
「「「カンパーイ!!!!」」」
宴会は大いに盛り上がった。酒を掛け合い、猪の丸焼きにかぶりついた。しかし斧戦士・アンドレアの一言で会場に不穏な空気が流れ始める。
「今後どうするかな~。生きがいを失った気分だぜ」
「おい、アンドレア~。ボスを倒したのが嬉しくないのかよ?」
槍使いのブルースが突っかかる。
「いやいや!! そういうわけじゃねえ!! でも、なんていうかさ」
「ああ、わかるぜぇ~!! なんというか……虚無感つーかなぁ~」
「わかってくれるか!! ブルース!!」
でかい髭面のおっさんと細いおっさんの二人が抱き合ってる画を見て飲んだ酒を戻しそうになる俺。いや、ただの食べすぎか。
「それでよー、お前らは今後どうするんだ? 別のゲームに行くとか?」
「いや、それはないな!! そんなきっぱりやめらんねえよ!!」
「でもボスがいないんじゃな~!!」
「じゃあ、こういうのはどうだ?」
「お? なんかいい案があんのか? 勇者のフォルドくーん!!」
「この世界で最強を決めるんだ。各々が勢力を作って、土地、プレイヤーを支配して、それで他の勢力と戦うんだ。それを最後の1人になるまで続ける」
「……ほう」
「へえ、なかなか面白そうなんじゃない?」
「いいな!! 熱いぜ!!」
確かに面白そうだ。要はこの世界で戦争とかして最強の国の盟主になった奴がこのゲーム最強になるってことだろ?
この酒の場で決まったこの世界の最強を決める、という試みは翌日に勇者フォルドの名で世界中に発表された。
これがこのゲームの第二幕、ラスボスが倒された後の熱いPvPの始まりである。
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