014
杏介がいつものチャーシュー麺を注文すると、紗良は遠慮気味に、だけど少し前のめりになって言う。
「今日からデザートメニューにソフトクリームが追加されたんです。よかったらどうぞ」
「ソフトクリーム?」
「そうなんです。カップかコーンが選べて。私、くるくる回すの練習しました!」
ジェスチャー付きで目をキラキラさせて訴えてくるので、それはもう頼むしかないんじゃないかと半ば誘導される形で杏介は頷く。
「ありがとうございます。綺麗なのお作りしますね」
「楽しみにしてます」
紗良はニッコリ笑うと、紺色のエプロンを翻して厨房へ戻っていった。
そんな彼女の背を目で追いかけながら、何とも単純な自分に笑いが込み上げてくる。
杏介は普段甘いものなんてそんなに食べない。それなのにどういう風の吹き回しなのだろう。
すっかりと紗良のペースに巻き込まれて、頭の中は彼女のことばかり。
だからいつものルーティンである文庫本を読むのを忘れてしまっていた。
あっという間にラーメンが運ばれてきてしまう。
「ソフトクリームは食後にお持ちしますね」
「どうも」
ラーメンと共にまた可愛らしい笑顔を置いていく紗良。
その後、綺麗に巻かれたソフトクリームのカップを持って杏介の前にそっと置いた紗良は、思い切りドヤ顔をしていて、杏介は思わず吹き出してしまった。
「完璧なソフトクリームができました!」
「確かに。食べるのがもったいないくらい」
「いえ、食べてください。美味しいので」
「はい、いただきます」
「はーい、ごゆっくりどうぞ」
言われるがまま、今日はずいぶんとゆっくりしてしまった気がする。
(ラーメンからのソフトクリームも悪くないな)
紗良の商売上手さに舌を巻きながらも、妙に心が弾んだのは気のせいだということにしておこう。
杏介はいい気分でラーメン店を後にした。
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