第8話 二人きりの放課後(ギャルside)

「あー、じゃあ、そろそろ行く?」


 私が声をかけると、委員長は数学の問題集から顔を上げた。


 今日は、第一回の文化祭実行委員会議だ。

 授業が終わってすぐ始まるわけではなく、遅刻者が出ないように30分ほど時間に余裕があった。


 そのせいで、委員長と二人きりになっちゃったんだよね。


 クラスメートが一人、また一人と教室を出ていって、私たちは二人きりになった。

 とはいえ、会話があるわけじゃない。


 成績いいのに、こんな隙間時間にも勉強するんだ。

 っていうか、そういう習慣があるから頭いいのかな?


 私だって課題をした方がいいのは分かっていたけれど、なんとなくやる気が出なくて、ぼーっとスマホをいじってしまう。


 いつもならこの時間の投稿は、すぐいいねしてくれるのにな。


 スマホを見ながら、顔も知らないストロベリーナイトさんのことを考える。

 今日も疲れた! という投稿にまだ反応はない。


「天野さん、行かないの?」


 いつの間にか、委員長は机の上を片付けてしまっていた。

 慌ててスマホを鞄にしまい、立ち上がる。


 別に同じクラスだからって、一緒に行かなきゃいけないわけじゃないだろうけど。

 でもなんか、先に行っちゃうのも悪い気がする。


 委員長って絶対私と性格合わないし、シンプルに苦手だけど、別に悪い子じゃないだろうし。


「行こっか」

「……ええ」


 相変わらず、目は合わない。

 私たちは並んで教室を出た。





「それにしてもさあ、委員長も大変だよね。忙しいのに、文化祭実行委員にまでなっちゃって」


 委員長が有名な進学塾に通っている、という話は有名だ。

 学校にも何人かその塾に通っている人がいて、委員長のことを噂していた。


 成績優秀で、その上努力家だと。

 本当に、アニメや漫画に出てくるような委員長みたいだ。


 私みたいな子のことが嫌いでも、しょうがないよね。

 私は真面目とは言い難いし、見た目だって委員長とは真逆だもん。


「ええ。正直、きついわね。その分、他の時間が減ってしまうわけだから」

「だよね」

「天野さんも、災難だったわね」

「……え?」


 びっくりして、つい立ち止まってしまう。


 なんで、そんな風に言うの?

 どうせ私なんか暇だって、委員長は思わないの?


「実行委員、嫌だったんでしょ?」

「……そりゃ、嫌だったけど」

 

 委員長は不思議そうな顔をしている。

 でもこんな風に二人で話している時ですら、まともに目は合わない。


「……どうせ暇なくせに、って思わないの?」


 私、なんでこんなこと聞いてるんだろう。

 どうせ暇だろ、なんて言われたら、笑って酷い!と返す。

 それが、天野翼っていう私のキャラ。


 相手の言葉を真剣に受け止めてうじうじ悩んじゃうなんて、私らしくない。

 それは、他人に見せる私じゃない。

 なのに……。


 なんで委員長相手に、こんなこと聞いてるの?


「思わないけど。だって私、天野さんか暇か暇じゃないかなんて、知らないから」

「知らない……」

「ええ。それに、暇じゃないから、嫌だったんじゃないの?」

「……うん、そう、そうなの」


 委員長の言う通りだ。

 でも、こんな風に言われると調子が狂う。


「お互い、大変ね」


 委員長はそう言って軽くため息を吐いた。


「……ありがとう、委員長」

「なにが?」


 その問いには上手く答えられない。だけど、お互い、という言葉を自然に使ってくれたことが嬉しかったのだ。


 ってか、やっぱり、目合わないな。

 まあ歩いてるし、しょうがないのかもしれないけど。


 委員長、こっち見ないかな?


 結局、一度も目が合わないまま、私たちは会議の教室へ到着してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る