間違いなく、この世界で生きている君

久石あまね

間違いなく、この世界にいる君

 間違いなく、この世界にいる君。


 閉鎖病棟で出会った君はまだ女子高生だった。


 長い黒髪を胸まで下ろした君が階段を登ってきたとき、僕は階段の踊り場で主治医と談笑していた。オリックスの弱さを面白おかしく僕が主治医に披露してしたのだ。そのオリックスがその6年後、三連覇を達成しているとは夢にも思わなかった。そんな小話を君はどう思っていただろうか。いや、いちいち聞き耳なんかたてて聞いていないだろう。あたりまえだ。君と僕の関係なんか、まだ始まってもいないのに。同じ病棟の他人の話なんか、君は興味はないだろう。すまん。僕、自意識過剰やねん。


 君と初めて話したときを覚えている。


 閉鎖病棟の洗濯機の前で、君が洗濯をしているときだった。君は膝を腕で抱くようにしゃがんでいた。僕は勇気を出して君に話しかけた。


 「ディズニー好きなん?」


 君はディズニーのキャラがプリントされたロンTを着ていた。


 「どちらかというと、はい…」


 君は無愛想だった。当時、僕は大学を中退したばかりで、それなりに若かったが、女子高生の君から見たら、僕はただのおっさんだろう。


 いかなり話しかけられてびっくりしたに違いない。


 しばらく話すと、真由子という名前だということがわかった。


 真由子か。

  

 「ええ名前やな」


 真由子は初めて笑った。


 それから毎日僕たちは、お昼ご飯を食べたあと、ナース詰所の前で、いろいろ話した。


 真由子は阪神ファンで、ADHDなこと。学校でイジメられていること。味噌汁にさつまいもが入っているとイライラすること。


 僕は真由子といると心臓がドキドキした。


 でも真由子との別れは突然やってきた。

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