第37話 花祭り。②
街の賑わいは想像以上だった。
少しでも気を抜くと人混みで逸れてしまいそうになる。
こんな時は公爵令嬢だろうと平民だろうと関係ない。
前に進めない!せっかくの可愛い髪型も半分ボロボロ。
パトリックやジェーンは年下なのにさすが男の子、背が高くわたしと違い息がしやすそう。
わたしは……少し、ちょっとだけ小柄で、特に今日は歩きやすいように踵の低い皮の靴を履いているのでさらにいつもより背が低い。
「ふー、花祭りって楽しむ前に根性がいるのね」
わたしがボソッと呟くと隣で護衛をしてくれていたヴィーが、プッと笑い出した。
「クリスティーナ様、お疲れなら抱っこして歩きましょうか?少しは背が高くなるので息もしやすくなりますよ?」
「いいわよ!要らないわ!」
わたしの反応を楽しむヴィー、以前だったらこんな冗談なんて言わなかった。
公爵令嬢になって、少し親しみを込めて話してくれる。それだけでも今はいいと思わなきゃ。
「せっかく可愛くしていた髪もぐちゃぐちゃになりましたね。後で俺が綺麗にし直しましょう」
「えっ、いいわよ」
「子供の頃はいつも俺が髪は整えていたでしょう?」
「そうだったわ、いつもヴィーがしてくれた。お母様と違って下手くそだったわ」
「…………思い出し、てます………?」
「たぶん……ほとんど、かな」
「だから最近元気がなかったんですね?」
「わからないの、自分でも……お母様がお幸せならわたしのこんな醜い感情なんて捨てて仕舞えばいいと思っているの。だけど……陛下のことを父親なんて絶対に思えない……」
「俺はクリスティーナ様の感情のままでいいと思います。そばで見て来た俺だから言えるんです」
「ありがとう、少しだけ気持ちが軽くなったかも」
たくさんの人混みの中でヴィーはわたしを守るように肩を抱き歩いてくれた。
彼の顔が近くにあって彼の整った唇の形がとても綺麗で思わずその口にキスをしたくなる。
今ここで彼にキスをしたら……なんて……はしたないことを考えてしまう。
だけど彼の体温がわたしに触れるたびにドキドキしてしまい顔が赤らめてしまう。
人混みのせいだと誤魔化せるからよかったけど、他の場所だったらどうすることもできなくてわたしの気持ちが彼にバレてしまいそう。
ヴィーの優しさはわたしを妹のようにそして守る者だから、それだけなの。
何度も心の中で自分に言い聞かせた。
そして気がつけばやはりわたし達は逸れてしまった。
わたしとヴィー。
あと残りの三人。
「こんなに人が居たら探すのは難しいと思います。それぞれで楽しんだほうがいいと思います、何かしたいことはありますか?」
ーーヴィーとならどこに行っても何をしてもいい。そう言いたいけど言えなくて……
「せっかくだから屋台に行ってみたいわ」
屋台はとても楽しみにしていた。
果実水を売っているお店、飴細工を売っているお店、肉の串焼き、チキン包み、パイのお店やクッキーのお店、それに古物を売っているお店もあればリサイクルの服屋さん、手作りの小物雑貨屋さん、絵画を売っているところもあった。
いろんなところを周りしっかり楽しませてもらった。
ヴィーとの思い出ができたことも嬉しかった。
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