第27話 もう一度。
アクアの住む世界にあまり長くはいてはダメだとお母様に言われた。
時間の経過が違い過ぎて、元の世界に戻ると周りの環境が変わり過ぎているかららしい。
ここでの1日は向こうでは5日くらいの時間が経っているらしい。
アクアの住む世界に来て一週間以上過ぎている。
「お母様、わたしここで一緒に暮らしたい」
「駄目よ、貴女は人間の世界で暮らさないと。みんなが待っているわ」
「ではお母様も一緒に暮らしましょう」
お母様は悲しそうに微笑んだ。
「それは無理なの……もうわたしは死んだ人間だと思われているわ」
「でも向こうのアニタお母様達は帰ってきてくれたら嬉しいと思う、それにヴィーだって喜ぶわ」
「…………貴女の本当のお父様である陛下が……わたしを嫌っているもの……わたしは弱いの。あの人を愛しているから愛されない日々に戻ることは出来ない……それに貴女を守らないといけない大切な時間に、わたしは貴女のそばにいてあげることができなかった。
こんなわたしが戻ることは出来ないわ」
「お母様は陛下を愛しているのですか?」
わたしは驚いてしまった。
「ずっと愛しているわ。たとえ嫌われていても」
いつも冷たい目でわたしを睨むあの人のことを?
陛下はわたしを嫌っている、だけどお母様のことは?
わからない、あまりにも接してこなかった。
宰相から助けられた時のあの凍るような冷たい視線、わたしのことは嫌っているのだろう。
大切な側妃達と息子を失ってしまったのは全てわたしの所為なのだから。
“ティーナ帰る?ここに居たらいい”
「アクア様、お願いですクリスティーナを人間の世界に帰してください。この子はまだ人を愛したり友達を作ったり大切なことを何も経験していません。
お願いです」
「アクア、わたし……頑張ってみるわ。ヴィーが幸せになるにはわたしが邪魔だと思ったけど本当に二人に愛があればわたしが居ても勝手にくっつくわよね?
わたし……逃げないで一度陛下に体当たりしてみたいの。
あの人と和解は出来なくても話して納得したら前に進める気がする。お母様も一緒に話しませんか?もしその気になったら出てきて下さい」
お母様は困った顔をしながらも言った。
「いつかまた人間の世界でクリスティーナと暮らせる日が来るといいなと思っているわ」
そしてアクアに人間の世界に送ってもらった。
わたしが住み慣れた離れに。
「やっぱりどんな豪華で大きな屋敷よりもここが落ち着く」
久しぶりの我が家は埃もゴミも落ちていなかった。
誰も居なかったはずなのに、さっきまで誰かが住んでいたようで手入れされていた。
キッチンへ行くともちろん食べるものなんて何もない。
「久しぶりに食料探しから始めないといけないわね」
いつもは騎士団の人達が食料を運んできてくれた。
足りないものは庭で作った野菜などを収穫したり庭師のおじさんと仲良くなっていたので分けてもらっていた。
ーーここに住むならお金を稼がなきゃいけないわ。
何か雑用でもするしかないのかしら。
とりあえず庭へ向かい何か食べられそうなものはないか探してみた。
ーーあった。
以前植えていたキューリやトマト、他の野菜もいっぱいあった。ここも誰かが手入れしてくれているようだ。
とりあえず今日の分だけ採って離れへ帰った。
するとキッチンにパンとベーコンなどの食べ物が置いてあった。
ーーわたしがここに帰ってきたこと団長が気がついたのかしら?
周りを伺ったけど人の気配はしない。
ーー誰か知らない人に感謝。
わたしは火を起こし料理を始めた。
いつわたしが帰ってきてもいいように準備されていた。ちょっと不思議に思いながらも素直に受け入れておくことにした。
ーーアクア、お願い。お風呂に入りたい
いつものようにアクアにお願いする。
“いつでも大丈夫”
ーーアクア、お母様は向こうで一人でも寂しくないかな?
“最近やっと体調が良くなったところなんだ。まだもう少しゆっくりとさせてあげて。ずっと寝込んでいたからね”
ーーアクアが助けてくれなかったらお母様は死んでいたわ。ずっとわたしとお母様を守ってくれてありがとう。
“僕の行動が二人を苦しめたんだ”
ーーアクア、人間はとても弱いの。水がないと生きていけない。
悪い人も確かにいるかもしれない、だけどそんな人達よりも優しい人や誠実な人、病気があっても必死で生きている人、頑張っている人がたくさんいるの。
お願いだから人間から水を奪わないで。
“うん、出来るだけしないよ。ティーナが悲しい顔をするのは嫌だもん。だけどティーナを守るためならやるかも。約束はできない”
ーーじゃあわたしが強くなるわ!
“ティーナが?”
ーーうん、ずっと守られてきたけど今度は一人でも頑張って生きられるように強くなる!
“僕はどんなティーナも大好き”
久しぶりの離れで過ごした時間はあっという間で疲れてしまってウトウトしながら気がつけばテーブルに顔を埋めて眠ってしまっていた。
はっ!
ここは?
いつの間にかベッドで眠っていた。
寝巻きにも着替えないでワンピースのままで。
寝ぼけてベッドに行ったのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます