子供達と神々の神楽 ～序の章～

臣器の内

　北（ほく）斗（と）が瞼（まぶた）を開（あ）けると、そこは特（とく）殊（しゅ）な空（くう）間（かん）だった。

　足（あし）場（ば）は３メートル程（ほど）の円（えん）状（じょう）の石（いし）床（ゆか）。

　それ以（い）外（がい）が夜（よ）空（ぞら）の様（よう）な空（くう）間（かん）になっていて、足（あし）場（ば）には龍（りゅう）と蛟（みずち）と狼（おおかみ）の姿（すがた）が描（か）かれている。

（コ（・）コ（・）は？）

　不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）っていた北（ほく）斗（と）の目（め）の前（まえ）……と言（い）うか、足（あし）場（ば）の中（ちゅう）心（しん）に金（きん）属（ぞく）製（せい）の水（すい）晶（しょう）の柱（はしら）の様（よう）な物（もの）が隆（りゅう）起（き）して来（き）た。

　そして足（あし）場（ば）は炎（ほのお）に囲（かこ）まれ、柱（はしら）の頭（ず）上（じょう）中（ちゅう）央（おう）から水（みず）が降（ふ）り注（そそ）ぐ。

「うゎ！」

　声（こえ）を出（だ）して驚（おどろ）いた北（ほく）斗（と）だが、ある事（こと）に気（き）付（づ）き思（おも）う。

（あれ、火（ひ）に囲（かこ）まれてるのに熱（あつ）く無（な）い？）

　更（さら）に目（め）の前（まえ）の流（りゅう）水（すい）に手（て）を入（い）れてみても、水（みず）に触（ふ）れている感（かん）覚（かく）は無（な）い。

　次（つぎ）の瞬（しゅん）間（かん）、無（む）風（ふう）だった謎（なぞ）の場（ば）所（しょ）にそよ風（かぜ）が吹（ふ）く。

　そして何所（どこ）からかスセリの声（こえ）が、北（ほく）斗（と）の耳（みみ）に聞（き）こえて来（く）る。

　　★★★★

「北（ほく）斗（と）、聞（き）こえる？」

　スセリが狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に向（む）かってそう言（い）うと、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の中（なか）からエコーの掛（か）かった北（ほく）斗（と）の声（こえ）で返（へん）事（じ）が返（かえ）って来（く）る。

「スセリ？」

「此方（こちら）側（がわ）の事（こと）は確（かく）認（にん）出（で）来（き）てる？」

　スセリがそう聞（き）くと北（ほく）斗（と）が返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「うん、何（なに）か大（おお）きな金（きん）属（ぞく）板（ばん）が出（で）て来（き）て外（そと）が映（うつ）ってる。ねぇコ（・）コ（・）は何処（どこ）なの？」

「其（そ）処（こ）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の中（なか）よ。北（ほく）斗（と）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）を少（すこ）し下（さ）がらせてみて」

　そう言（い）ったスセリに北（ほく）斗（と）は聞（き）き返（かえ）す。

「下（さ）がるって、どうやって？」

「多（た）分（ぶん）、近（ちか）くに核（かく）となる物（もの）が在（あ）る筈（はず）よ。狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の場（ば）合（あい）金（きん）属（ぞく）製（せい）の物（もの）が。それに手（て）を触（ふ）れて念（ねん）じてみて」

「……コレかなぁ?」

　スセリに言（い）われた核（かく）が、目（め）の前（まえ）の金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）だと考（かんが）えた北（ほく）斗（と）は、金（きん）属（ぞく）柱（ちゅう）に手（て）で触（ふ）れ後（うし）ろに下（さ）がる様（よう）念（ねん）じる。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

　すると狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は数（すう）歩（ほ）後（うし）ろに下（さ）がる。

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が動（うご）いた事（こと）を確（かく）認（にん）したスセリは、北（ほく）斗（と）に言（い）う。

「北（ほく）斗（と）、悪（わる）いけどそのまま結（けっ）界（かい）の端（はし）まで行（い）って待（ま）っててくれない？」

「分（わ）かった」

　北（ほく）斗（と）がそう返（へん）事（じ）をすると、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は向（む）きを変（か）え、結（けっ）界（かい）の端（はし）へ駆（か）けて行（い）く。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「すげぇなアイツ！」

　北（ほく）斗（と）の行（こう）動（どう）を見（み）て、無（む）意（い）識（しき）に葉（よう）司（じ）がそう口（くち）にすると、太（たい）耀（よう）が葉（よう）司（じ）に向（む）かって言（い）う。

　少（すこ）し意（い）地（じ）悪（わる）そうに。

「何（なん）だ自（じ）信（しん）が無（な）いのか葉（よう）司（じ）、情（なさ）けない」

「うっせぇ、お前（まえ）はどうなんだよ！」

　葉（よう）司（じ）が少（すこ）し怒（おこ）りっぽくそう言（い）い返（かえ）すと、太（たい）耀（よう）は自（じ）信（しん）満（まん）々（まん）に更（さら）に言（い）い返（かえ）す。

「見（み）てろ、僕（ぼく）が見（み）本（ほん）を見（み）せてやる」

（葉（よう）司（じ）に大（おお）見（み）栄（え）切（き）ったんだ。僕（ぼく）は出（で）来（き）る……僕（ぼく）は出（で）来（き）る！）

　太（たい）耀（よう）はそう自（じ）分（ぶん）に言（い）い聞（き）かせると、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の方（ほう）を向（む）いて言（い）う。

「鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、僕（ぼく）を君（きみ）の中（なか）へ！」

　すると天（てん）空（くう）から一（いち）陣（じん）の光（ひか）りが太（たい）耀（よう）へ降（ふ）り注（そそ）ぎ、光（ひか）りが消（き）えると共（とも）に、その中（なか）に居（い）た太（たい）耀（よう）の姿（すがた）も消（き）える。

　　★★★★

「コ（・）コ（・）は……」

　瞼（まぶた）を開（あ）けた太（たい）耀（よう）は、直（ちょっ）径（けい）５メートル程（ほど）の神楽（かぐら）の屋（や）根（ね）付（つ）き舞（ぶ）台（たい）の様（よう）な場（ば）所（しょ）に居（い）た。

　辺（あた）りを見（み）回（まわ）すと、快（かい）晴（せい）の下（した）の神（じん）社（じゃ）の境（けい）内（だい）の様（よう）な場（ば）所（しょ）だと判（わか）る。

　太（たい）耀（よう）の居（い）る神楽（かぐら）舞（ぶ）台（たい）は、屋（や）根（ね）の縁（ふち）に無（む）数（すう）の半（はん）透（とう）明（めい）の白（しろ）に布（ぬの）が結（むす）ばれており、それが日（ひ）の光（ひかり）の様（よう）に見（み）え、舞（ぶ）台（たい）の中（ちゅう）心（しん）には１メートル程（ほど）の台（だい）の上（うえ）に、直（ちょっ）径（けい）46センチ程（ほど）の金（こん）色（じき）の青（せい）銅（どう）鏡（きょう）が備（そな）え付（つ）けて在（あ）った。

「スセリ、聞（き）こえているか？」

　太（たい）耀（よう）が姿（すがた）の確（かく）認（にん）出（で）来（き）ないスセリにそう言（い）うと、何所（どこ）からかスセリの声（こえ）が聞（き）こえて来（く）る。

「えぇ聞（き）こえているわ。その子（こ）は言（こと）葉（ば）に反（はん）応（のう）する筈（はず）よ？　核（かく）は鏡（かがみ）の筈（はず）だから、鏡（かがみ）に向（む）かって命（めい）令（れい）してみて」

「分（わ）かった。鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、外（そと）が見（み）たい」

　そう目（め）の前（まえ）の鏡（かがみ）に太（たい）耀（よう）が命（めい）令（れい）すると、眼（がん）前（ぜん）の空（そら）に鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が見（み）ている景色（けしき）が映（うつ）し出（だ）された。

「太（たい）耀（よう）、私（わたし）が今（いま）何（なに）をしているか分（わ）かる？」

　そう言（い）いながらスセリは、片（かた）手（て）を上（あ）げ腕（うで）を左右（さゆう）に振（ふ）る。

　スセリの様（よう）子（す）を確（かく）認（にん）した太（たい）耀（よう）は言（い）う。

「美（び）人（じん）の女（め）神（がみ）様（さま）が、僕（ぼく）に向（む）かって手（て）を振（ふ）ってくれています」

「あら、口説（くど）いているのかしら？」

　スセリがクスクス笑（わら）ってからそう返（かえ）すと、葉（よう）司（じ）は少（すこ）しムッとして太（たい）耀（よう）に野（や）次（じ）を飛（と）ばす。

「おい太（たい）耀（よう）、真（ま）面（じ）目（め）にやれ！」

　葉（よう）司（じ）の野（や）次（じ）にスセリはクスクス笑（わら）い、葉（よう）司（じ）に向（む）かって教（おし）える。

「アレは彼（かれ）の強（つよ）がりだから、虐（いじ）めちゃダメよ」

「はいはい、そう言（い）う事（こと）に……――」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）おうとすると、不（ふ）意（い）に鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の核（かく）の鏡（かがみ）に北（ほく）斗（と）の姿（すがた）が映（うつ）る。

「太（たい）耀（よう）君（くん）、ボクの事（こと）見（み）えてる？」

　しかも声（こえ）まで聞（き）こえて来（き）た為（ため）、太（たい）耀（よう）は鏡（かがみ）越（ご）しに北（ほく）斗（と）に尋（たず）ねる。

「北（ほく）斗（と）。お前（まえ）コレ、どうやったんだ？」

「分（わ）かんない。出（で）来（き）ないかなぁと思（おも）ったら出（で）来（き）たんだけど」

　北（ほく）斗（と）と会（かい）話（わ）している太（たい）耀（よう）の声（こえ）を聞（き）き、不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）ったスセリは太（たい）耀（よう）に聞（き）く。

「太（たい）耀（よう）、いったい何（なに）を話（はな）しているの？」

「北（ほく）斗（と）の姿（すがた）が、備（そな）え付（つ）けの鏡（かがみ）に映（うつ）って声（こえ）がするんだよ。スセリには聞（き）こえない？」

　太（たい）耀（よう）の話（はな）しを聞（き）いたスセリは悩（なや）む。

（如何（どう）言（い）う事（こと）かしら？　そんな機（き）能（のう）の話（はな）し、聞（き）いた記（き）憶（おく）は……）

　スセリが鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）を見（み）ながら悩（なや）んでいると、薫（かおる）がスセリの異（い）変（へん）に気付（きづ）き話（はな）しかける。

「何（なに）か問（もん）題（だい）でも？」

「……いぇ、心（しん）配（ぱい）を掛（か）けてごめんなさい。私（わたし）の知（し）らない機（き）能（のう）が有（あ）ったものだから……」

　そう言（い）ったスセリに、紫（し）織（おり）は本（ほん）当（とう）に少（すこ）し驚（おどろ）いて聞（き）く。　

「ちょっとスセリ、臣器（おみき）作（つく）ったのアンタ等（ら）じゃないのかい？　知（し）らないって如何（どう）言（い）う事（こと）だい？」

「確（たし）かに生（う）み出（だ）したのは私（わたし）達（たち）ですが、私（わたし）は使（つか）った事（こと）が無（な）いのです。もしかしたら北（ほく）斗（と）が、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の力（ちから）で何（なに）かをしたか、私（わたし）の知（し）らない能（のう）力（りょく）が有（あ）るのかもしれません……」

　スセリは紫（し）織（おり）に向（む）かってそう言（い）うと、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に向（む）き直（なお）る。

（害（がい）は無（な）さそうだし今（いま）は……）

　そう考（かんが）えたスセリは太（たい）耀（よう）に言（い）う。

「とにかく害（がい）は無（な）さそうなので、今（いま）は話（はな）しを先（さき）に進（すす）めましょう。太（たい）耀（よう）も移（い）動（どう）の練（れん）習（しゅう）も兼（か）ねて、結（けっ）界（かい）の端（はし）で待（たい）機（き）していて。鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は言（こと）葉（ば）で言（い）えば従（したが）ってくれるけど、なるべく正（せい）確（かく）に伝（つた）えないと動（うご）いてはくれません」

「分（わ）かった」

　太（たい）耀（よう）はそう返（へん）事（じ）をすると、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）をする。

「……それじゃあ鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、まず僕（ぼく）の腕（うで）以（い）外（がい）の体（からだ）の動（うご）きを真（ま）似（ね）てくれ。それから……」

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

　すると鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は太（たい）耀（よう）の命（めい）令（れい）通（どお）り、少（すこ）しずつ向（む）きを変（か）えながら用（よう）事（じ）達（たち）に背（せ）を向（む）け、歩（ある）いて離（はな）れて行（い）く。

　そんな鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）を見（み）て葉（よう）司（じ）は言（い）う。

「うゎ、だっせぇ！　鳥（とり）なら飛（と）べよ」

　その言（こと）葉（ば）が耳（みみ）に入（はい）った太（たい）陽（よう）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の歩（あゆ）みを止（と）め、葉（よう）司（じ）に背（せ）を向（む）けたまま話（はな）しかける。

「それはこれから練（れん）習（しゅう）するんだよ、それにこんな所（ところ）で羽（は）ばたいたら危（あぶ）ないだろう。そう言（い）う事（こと）は自分がきちんと出来てから言うんだな」

　そう太（たい）耀（よう）が言（い）い終（お）わると、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）はまた歩（ある）き出（だ）した。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「太（たい）耀（よう）の言（い）う通（とお）りよ。友（とも）達（だち）を馬（ば）鹿（か）にしたのなら、自（じ）分（ぶん）は自（じ）信（しん）が有（あ）るのよね」

　更（さら）にスセリに笑（え）顔（がお）でそう言（い）われ、葉（よう）司（じ）は少（すこ）し慌（あわ）てる。

「墓（ぼ）穴（けつ）を掘（ほ）りましたね」

　そんな葉（よう）司（じ）に薫（かおる）がそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）は怒（おこ）って言（い）い返（かえ）す。

「うっせぇ、他人（ひと）事（ごと）だと思（おも）いやがって！」

「だって他人（ひと）事（ごと）ですから」

　再（さい）度（ど）追（お）い討（う）ちを掛（か）ける薫（かおる）に、恵（え）理（り）花（か）が怒（おこ）って言（い）う。

「ちょっと薫（かおる）君（くん）、今（いま）は葉（よう）司（じ）からかってる時（とき）じゃないでしょ！」

「そうだ、そうだ！」

　葉（よう）司（じ）が恵（え）理（り）花（か）の言（こと）葉（ば）に同（どう）意（い）してそう言（い）うと、スセリは三（さん）人（にん）を真（ま）面（じ）目（め）な顔（かお）で窘（たしな）める。

「ほらほら、ふざけてないで始（はじ）めるわよ」

　葉（よう）司（じ）、薫（かおる）、恵（え）理（り）花（か）はスセリに窘（たしな）められ、軽（かる）い口（くち）ゲンカを止（と）めた。

　薫（かおる）は葉（よう）司（じ）に聞（き）こえない様（よう）、恵（え）理（り）花（か）に小（こ）声（ごえ）で言（い）う。

「恵（え）理（り）花（か）さん、葉（よう）司（じ）君（くん）に頑（がん）張（ば）れとか言（い）わなくて良（い）いんですか？」

「何（なん）の事（こと）？」

　恵（え）理（り）花（か）が小（こ）声（ごえ）で聞（き）き返（かえ）すと、薫（かおる）は小（こ）声（ごえ）で答（こた）えを返（かえ）す。

「いいえ……、きっとその方（ほう）が葉（よう）司（じ）君（くん）は頑（がん）張（ば）れると思（おも）いまして」

　恵（え）理（り）花（か）は薫（かおる）の提（てい）案（あん）に少（すこ）し悩（なや）む。

（そうよ、これは薫（かおる）君（くん）に言（い）われたから……）

　恵（え）理（り）花（か）が葉（よう）司（じ）に目（め）を向（む）けると、葉（よう）司（じ）は少（すこ）しオドオドしている。

　その様（よう）子（す）を見（み）て、恵（え）理（り）花（か）は葉（よう）司（じ）に文（もん）句（く）を言（い）う。

「ほら葉（よう）司（じ）、情（なさ）けないわよ。ちゃっちゃとやりなさいよ」

「何（なん）だよ！　誰（だれ）の為（ため）にやると思（おも）ってんだ、可愛（かわい）げねぇな」

　葉（よう）司（じ）は恵（え）理（り）花（か）の言（こと）葉（ば）に文（もん）句（く）で返（かえ）すが、売（う）り言（こと）葉（ば）に買（か）い言（こと）葉（ば）、葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）に怒（おこ）った恵（え）理（り）花（か）は更（さら）に文（もん）句（く）を言（い）い返（かえ）す。

「怖（こわ）がってるの私（わたし）の所為（せい）にしないでよ、格（かっ）好（こう）悪（わる）い！」

　恵（え）理（り）花（か）に格（かっ）好（こう）悪（わる）いと言（い）われ、葉（よう）司（じ）は落（お）ち込（こ）む。

（格（かっ）好（こう）悪（わる）い……）

　落（お）ち込（こ）んだが……

（………………あぁもう！）

　その所為（せい）で踏（ふ）ん切（ぎ）りが付（つ）いたのか、葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の方（ほう）を向（む）く。

「おい龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、俺（おれ）をお前（まえ）ん中（なか）に入（い）れろ！」

　葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）と共（とも）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が突（とつ）然（ぜん）光（ひか）り出（だ）し、その光（ひか）りが辺（あた）りを包（つつ）む。

　その光（ひか）りが消（き）えると、恵（え）理（り）花（か）達（たち）の前（まえ）から葉（よう）司（じ）の姿（すがた）は消（き）えていた。

　恵（え）理（り）花（か）は肩（かた）を落（お）として思（おも）う。

（……やっちゃった。葉（よう）司（じ）君（くん）、怒（おこ）ってるだろうな）

　孫（まご）の落（らく）胆（たん）している姿（すがた）を見（み）て、紫（し）織（おり）は薫（かおる）にこっそり聞（き）く。

「お前（まえ）さん、恵（え）理（り）花（か）に何（なに）を吹（ふ）き込（こ）んだんだい？」

　すると薫（かおる）は紫（し）織（おり）に小（こ）声（ごえ）で言（い）い返（かえ）す。

「恵（え）理（り）花（か）さんが応（おう）援（えん）した方（ほう）が、葉（よう）司（じ）君（くん）が頑（がん）張（ば）れると思（おも）ったんですが……」

　★★★★

（……コ（・）コ（・）は？）

　葉（よう）司（じ）が瞼（まぶた）を開（あ）けると、そこは森（もり）の中（なか）。

　正（せい）確（かく）には葉（よう）司（じ）の居（い）る付（ふ）近（きん）以（い）外（がい）光（ひか）りの差（さ）さない10メートル程（ほど）の泉（いずみ）の中（ちゅう）心（しん）。

　泉（いずみ）の中（ちゅう）心（しん）には4メートル程（ほど）の緑（みどり）の整（せい）地（ち）が在（あ）り、色（いろ）取（と）り取（ど）りの花（はな）と一（いっ）緒（しょ）に鉄（てつ）製（せい）の剣（けん）が一（ひと）振（ふ）り、地（じ）面（めん）に突（つ）き刺（さ）さり光（ひか）りに照（て）らされていた。

「何（なん）だ、この剣（けん）？」

　葉（よう）司（じ）が鉄（てつ）製（せい）の剣（けん）に触（ふ）れると同（どう）時（じ）に、森（もり）は光（ひか）りに包（つつ）まれる。

　更（さら）に……

　　バッーシャン

　泉（いずみ）の四（し）方（ほう）に、泉（いずみ）の中（なか）から刃（やいば）の幅（はば）が１メートル程（ほど）の、白（はく）銀（ぎん）色（いろ）の大（たい）剣（けん）が浮（ふ）上（じょう）した。

　葉（よう）司（じ）の周（まわ）りを取（と）り囲（かこ）む様（よう）に軽（かる）く風（かぜ）が吹（ふ）くと、目（め）の前（まえ）の白（はく）銀（ぎん）色（いろ）の大（たい）剣（けん）が外（そと）の景色（けしき）を映（うつ）し出（だ）す。

「おい皆（みんな）、聞（き）こえるか？」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、スセリが答（こた）える。

「聞（き）こえています。その子（こ）は言（こと）葉（ば）でも核（かく）の制（せい）御（ぎょ）でも動（うご）くのだけど、その姿（すがた）だと制（せい）動（どう）と力（ちから）の制（せい）御（ぎょ）に問（もん）題（だい）が有（あ）るから、核（かく）制（せい）――」

「えぇっと、制（せい）動（どう）って何（なに）？」

　スセリの説（せつ）明（めい）の途（と）中（ちゅう）で葉（よう）司（じ）がそう聞（き）くと、薫（かおる）が葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「車（くるま）は急（きゅう）に止（と）まらない、みたいなモノです」

　薫（かおる）の言（こと）葉（ば）に葉（よう）司（じ）は納（なっ）得（とく）し……

「分（わ）かり易（やす）い説（せつ）明（めい）ありがとよ薫（かおる）」

　葉（よう）司（じ）が薫（かおる）にお礼（れい）を言（い）うと、薫（かおる）は嬉（うれ）しそうに返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「どう致（いた）しまして」

（……よし）

　そう思（おも）った葉（よう）司（じ）は、恵（え）理（り）花（か）に向（む）かって言（い）う。

「恵（え）理（り）花（か）。頑（がん）張（ば）って動（うご）かしてやるから、格（かっ）好（こう）悪（わる）いとか言（い）うなよ」

　恵（え）理（り）花（か）からは見（み）えていないが、葉（よう）司（じ）は自（じ）信（しん）満（まん）々（まん）な顔（かお）をしてそう言（い）うと、恵（え）理（り）花（か）は少（すこ）し恥（はず）かしそうに返（へん）事（じ）をする。

「……うん、分（わ）かった。頑（がん）張（ば）って」

「おう、任（まか）せとけ」

　そう葉（よう）司（じ）が言（い）っている最（さい）中（ちゅう）、左（ひだり）と後（うし）ろの大（たい）剣（けん）が、外（そと）を映（うつ）し出（だ）している大（たい）剣（けん）の左右（さゆう）に移動（いどう）し、それぞれが北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）の姿（すがた）を映（うつ）し出（だ）す。

「ボクの姿（すがた）見（み）えてる、葉（よう）司（じ）君（くん）？」

　北（ほく）斗（と）が大（たい）剣（けん）越（ご）しにそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）は少（すこ）し嬉（うれ）しそうに返（へん）事（じ）をする。

「ああ、ついでに声（こえ）もバッチリ聞（き）こえるぜ」

「何（なん）か少（すこ）し嬉（うれ）しそうだね」

「何（なん）でもねぇよ」

　嬉（うれ）しそうな事（こと）を北（ほく）斗（と）に指（し）摘（てき）され、葉（よう）司（じ）は少（すこ）しムッとすると、そんな葉（よう）司（じ）に太（たい）耀（よう）が大（たい）剣（けん）越（ご）しに言（い）う。

「どぉせ恵（え）理（り）花（か）に頑（がん）張（ば）れとか言（い）われたんだろう」

「そんなんじゃねぇ！」

　太（たい）耀（よう）にからかわれ怒（おこ）る葉（よう）司（じ）を、北（ほく）斗（と）と太（たい）耀（よう）はクスクス笑（わら）った。