第56話 外国には…外国の事情がある物ですよね? 3
その日の深夜・・・
王都ソルディーユのほぼ中央、難攻不落で名高い王宮、その更に中央に位置する高い城郭の一室にその人物は居た。
事前の説明では40歳を過ぎたばかりと聞いていたが・・・事前に聞いていなければ70は過ぎていると判断しただろう。
痩せて生命力の感じられない体、張りを失いシミだらけの皮膚、落ち窪んだ眼窩を見れば、だれもが死の陰を見るだろう。
豪奢だが無機質な寝台にその身体を預けた、当代国王セルディック・ド・ギルムガン4世がそこに居た。かの王は僕らに気付いたのか、静かにその瞳を開いて、
「・・・・アローナか・・・」
「・・・御意。
セルディック4世はゆっくりと、本当にゆっくりとその体を起こしていった。瞬間アローナが動きかけるが・・・その動きを視線だけで制して自らの力だけで上半身を起こし、こちらに向き直る。枯れ枝の如き身体になりながら、目の光りはまだ衰えてはいない。なるほど・・・荒れきった国を力でまとめ上げたのは伊達では無さそうだ・・・
「よい、今更この死に損ないに何の気遣いが必要か・・・してこの様な時間に何用であるか?」
セルディック4世は僕の事にも当然気づいているが・・・敢えてそこには言及せず、こちらを見据えるにとどめた。
「は!
「それがその方か・・・余の前でも伏さない所を見るに相当の
「お初にお目にかかります陛下。深夜のご無礼を謝罪致します。僕はカナタ・コウサカと申します。本日はお願いがあって参りました。」
「なるほど・・・余に願い事をな・・・その割には不遜な態度よ。」
「お言葉はご
その言葉を聞いて国王が目を丸くする。更に横ではアローナが顔に手を当てて上を向いている・・・様子を見るとやはり僕の言い様は不遜だった様だ。まあ
「クククッ なる程、我らが同朋で無いならば、余に頭を垂れる謂われも無かろうな。だが・・・ならば余が
「・・・やはりご存知無い様ですね。陛下のお命を永らえる為に、そこのアローナさんを含む一党が、現グラム神聖国の南西部、アルバ地方に攻め込みました。狙いは
「何だと? ばかな!なぜその様な無謀な真似を! いや余の
「ええ詳しい話は・・・」
――――――――――
セルディック4世に手短に現況を説明した・・・
「・・・ふうぅぅっー 」
全てを聞き届けた時、セルディック4世は・・・深い深い息を一つ吐き出して・・・改めてこちらに視線を投げかけた。
「事情は分かった。カナタと申したな?そちの願いとはなんだ?」
「率直に申しますと・・・今回の侵攻の大義名分は、陛下の“病の治療”では無く“圧政に喘ぐアルバ地方の解放”だと伺っております。
「アローナ、誠か?」
「は、相違御座いません。」
「そうか・・・不甲斐ない王に仕えたばかりにお前達には苦労をかけた・・・赦せ。そしてカナタと申したな? そちが申す事がどの様な難事であるかを理解しておるのか?」
「・・・例え軍事的に彼の地を奪いとっても
「なる程・・・解しておるならば話は早い。グラム神聖国は
セルディック4世は病に伏せっているが、頭の働きまで鈍っている訳では無さそうだ。
「アローナ達の思惑通りなら“
「陛下!その様な事は御座いません! もし、もし仮に・・・今陛下がお亡くなりになれば・・・この国はまた混迷の時に立ち返ってしまうでしょう。」
「アローナよ、それでは本末転倒という物よ。民を治める王としてそれだけはならぬ。なに、お前を始め、この国を憂える者がおる限りワシ一人居なくなろうと何も心配は無い。」
なる程、考え方はともかく、少なくともセルディック4世は為政者としての矜持は持ち合わせている様だ。ここは一つこちらもカードを切るべきか・・・
「陛下、一つ誤解が御座います。」
「ほう? 誤解とは如何な物か?」
「一つ、私は陛下の命を
「? それはどういう・・・」
{ミネルヴァ、王の病・・・いや
{はい。
{分かった、やってくれ。}
{
「こういう事です。 “エクスチェンジ!”」
スキルを行使する。セルディック4世の身体が淡い光りに包まれ、瞬間的に王の身体を蝕んでいた各種の薬物が、ミネルヴァが魔法で合成した薬剤と置き換わる。同時に変成した体組織を回復魔法“
{ミネルヴァ、取り除いた薬物を土魔法で合成した瓶に詰めてくれ。}
{
新たにミネルヴァが魔法とスキルを行使すると、掌に石で出来た小瓶が現れる。同時に王の身体から光が引いていく。
「こういう事です。今、
「なんと!」
セルディック4世は絶句し・・・その後、思い出した様に自らの身体を確かめている。アローナは少し顔色が戻り、肌の張りも戻った王を見てこれまた絶句している。
「これは・・・確かに。今迄あった身体の不調が消えておる。痩せ衰えてはいるが・・・それ以外は・・・」
「ええ、さすがに、“不調に起因する衰え”は治せませんが・・・それも栄養状態に気を配り安静にしていれば回復するでしょう。」
「なんともはや・・・これでは、そちの“願い”を聞く必要がますます無いではないか? いや・・・アローナの様子を見るに、この場の生殺与奪をそちが握っているのは分かっているが・・・それこそ余を治す必要など無いだろう? そちは何を考えておる?」
「王を治療しましたのは“願い”を聞いて頂く上で、ギルムガン王国に揺るぎない“為政者”が必要と考えたからです。」
「ふむ。」
「そして・・・私の“願い”は・・・単なる要求では無く“政治的なメリット”のある
セルディック4世は神妙な顔でこちらをみて・・・一つ小さく溜め息をついた。
「ならば
「・・・皆さん何故か同じ質問をなさいますね。僕は・・・ただ平穏を望む
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