第46話 現場の事情は…偉い人には分からん物なんですよね? 4
ロアナの村はエルグラン山脈の麓にほど近い峡谷の手前にある。
ライモンド達とは話し合いのうえで一昨日の内に別れ、僕とロアナは彼女の村に来ていた。当然だが
「やはり最低限の
「親父もいねぇ・・・“幻晶の回廊”で儀式を行うには既に出発してないと駄目って事だろうな。回廊の詳しい場所と道順は親父しか知らねーし・・・」
サブリナも当然連れて行かれただろう。今更この村に残っている兵達に関わっても時間の無駄だ。
「ギドルガモンの巣が火口にあるのは間違いないのですか?」
「ああ、それは間違いない。ただ火口から奴のいる所まで降りていくのはムリなんだ。」
「何故です?」
「エルグラン山脈の標高が高過ぎるのさ。正確な所は分かんねーが、奴と戦う為の人数が登頂するのはどう考えてもムリだよ。」
「なる程。では奴が現れるのを待ち伏せするのは?」
「元々ギドルガモンはものすごく
「・・・分かってはいましたが厄介ですね。只でさえ隔絶した能力を持つうえに神出鬼没とは・・・ギルムガンの連中はどんな勝算が有ってこんな暴挙に出たんでしょうか? 」
「さあな?
ギドルガモンのデータを見る限りロアナの言う事に全面的に賛成だ。
{ミネルヴァ、ギドルガモンのデータは能力に関する物と
{申し訳ありません。残念ながら所在情報はエルグラン山脈の火口内部としか分かっておりません。}
{ありがとう。現時点で
{周辺環境に左右されますが、約半径50km程度です。}
{分かった。ギルムガンの連中を対象にして索敵を頼む。}
{
ミネルヴァはそう言い残すと上空に舞い上がって行く。会話はモノクルにて問題なく可能だ。
{索敵を開始します。エネルギー集積、
ミネルヴァが索敵魔法を行使するとモノクルに円形の波状表示が広がっていく。
{主殿、北北西22km地点に洞窟の入り口らしき物と一個小隊程の武装兵を発見。補給、警戒の為の部隊と思われます。}
「見つけましたよ。」
――――――――――
「???アローナ。今、誰かが大規模な魔力を使って
「?」
幻晶の回廊を進んでいたギルムガンの侵攻部隊は、回廊の半ば迄に既に700人程まで減っていた。村の抑えに2個小隊80人、入り口の警備に一個小隊40人程を置いて来たが、それでも回廊に入ってから既に180人近くが回廊内部のトラップと魔獣によって犠牲になっている。隊を預かっているアローナとしてはどんな些細な事も見逃す訳にはいかない。
「どういう事なの? グラブフット」
「そのままだよ。何者かが、少なくともここから村の間で大規模な魔法を行使した。」
「なんでそんな事が分かるのよ?」
「・・・簡単に言うと、
グラブフットと呼ばれたローブの男が説明した後にすかさず銀髪の獣人男性が口を挟む。
「ふん。誰かは分からんがお前達の暴挙を知った勢力が追って来ておるのだろう。もうここ迄にした方がいい。そもそもギドルガモンに対抗出来るはずが無いだろう。」
「あなたが心配する事では無いわよ村長。それよりもルートは正確なんでしょうね?」
そう言われた村長は苦渋に満ちた表情で、
「村人の命が掛かっておる。間違いないわい。だが幻晶の回廊内部の魔獣が大幅に増えておる。到着時間は予定よりずれるかもしれん。」
「じゃあもっと急いだ方が良いわよ。入り口の警備に使い魔は用意させているけど、満月に間に合わない場合は村人がどうなるかくらい分かってるわよね?」
「ふん!こっちだ。明日の晩迄には間に合わせるわい。そっちこそ約束は守って貰うぞ。」
「ああ、回廊の扉に到着さえすれば村もあんたも解放しよう。逃げるなり何なりとすればいいさ。」
グラブフットの言葉に益々表情を曇らせながら黙々と進む。
「それでさっきの魔力の話は?」
「ああ、何者かが魔法を行使したのは伝えたが、規模が並じゃない。もし何らかの邪魔を考えている勢力なら急いだ方がいいだろうな。」
「・・・分かったわ。どのみち急ぐしか出来る事はないのでしょう? 行くわよ。」
――――――――――
“幻晶の回廊”の入り口は、鬱蒼とした森林の中に埋もれた古代遺跡だった。遺跡の入り口付近で野営と警戒をしている1個小隊から少し離れた場所に、カナタとロアナの二人が音もなく現れる。
「到着しましたよロアナさん。」
「・・・一昨日からずっと感じてたんだが、お前の魔法はどう考えても反則だぞ。」
“オートアクティブ”の影響で青い顔色をしている。
「すいませんね。慣れて頂くしかありません。」
「いや助けて貰っているのに文句を言って悪かった。それでどうする?」
彼等に構っている暇はない。明日は満月だ。ここはスルーすべきだろう。
「入り口の兵達に構っている暇はありません。一刻も早く村長とサブリナさんを取り戻さなければ儀式が始まってしまいます。
「分かった、頼むよ。」
僕らは隠蔽魔法で姿を消して歩いて行く。慎重に兵達を避けて遺跡の入り口に侵入しようとした時、一人の兵がコウモリのような生き物を腕にぶら下げて近くを通り過ぎ、一人の壮年男性に声をかける。
「隊長、グラブフット様から使い魔が到着しました。本隊は既に回廊の半ばを踏破し、予定通り明日儀式を行うとの事です。」
「・・・分かった。
「・・・はい。そう書かれております。」
「・・・任務とは言え・・・女、子供まで全てか・・・詮無き事とは言えお前達には貧乏くじを引かせたな。許せよ・・・」
「いえ、隊長の立場は理解しております・・・使い魔に返信を持たせてグラブフット様の所に送り出しても良いでしょうか?」
「頼む。その後は予定通り村まで戻る。撤収準備を急がせろ。」
少し離れた場所まで移動してから、
「奴らなんだか物騒な事を話してたが・・・まさか村の連中を・・・」
「恐らく村人の口を封じる気です。」
「ヤバい!急いで戻ろう。なんとかみんなを逃がさないと!」
「ですがここで戻ってしまうと回廊の突破が間に合わない可能性があります。奴らがどんな手段を用意しているかは分かりませんが、ギドルガモンに勝てなかった場合は確実に村にも被害が及びます。」
「あーッ、どうしたらいいんだよ。」
「少し待って下さい。考えがあります。」
{ミネルヴァ、急ぎで・・・}
――――――――――
翌日の夕刻、入り口付近にいた1個小隊が村に戻って来た。カナタ達は既に村に戻り、見つからない様に物陰から様子を窺っていた。
「村人たちを集会広場まで集めろ。急げ!」
戻った兵と合流して3個小隊で中央にある広場に村人を集めて行く。
「ヤバい、奴らいよいよ
「そうはさせません。」
{ミネルヴァ、昨日のうちに仕掛けた
{問題ありません。今回は条件指定のみですので魔法陣の処理にも若干の余裕があります。}
{頼もしいな。では村人が全員広場に集まり次第やろうか。}
{了解いたしました。}
「ロアナさん。これから全ての兵を行動不能にします。その後、村人達をまとめてギルムガン兵を武装解除して下さい。」
「どうやってなんて今更聞いても無駄だよな・・・分かったよ。」
{ギルムガン兵が指定可能範囲に全員入りました。}
{やってくれ。}
{了解。
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