第35話 出張ってヤツは…だいたい突然決まる物ですよね? 7
翌朝、エンター1の中で目を覚ます。
既にミネルヴァが戻って待機していた。彼女は睡眠を必要としないので徹夜も問題ないのだがこき使っている様な気がしてしまう。
「おはようございます、主殿」
「おはようミネルヴァ、いつも警戒させてわるいな」
「ありがとうございます。私は睡眠や休息を必要としないのでお気になさる事はありません。幾つか報告がございます」
早速何か掴んで来たらしい、仕事の早さは流石だ。着替えてから水を一杯用意して椅子に座る。
「報告頼むよ」
「まず、帝都西側のマッピングが終了しました。また、外の監視の内、一組は帝国の諜報機関だと確認出来ました。主殿以外の商人にも監視が付いている様です。」
確かに帝国側からの監視なら当然他にも付いていて然るべきだ。
「順当な所だな。もう一組についてはどうなんだ?」
「もう一組の監視者は交代後に一般の家屋に入って行きました。こちらについては外部からの魔力探査を阻む結界が構築されおりました」
「そいつは怪しいな」
「エコーロケーションにて探査した所、内部には男2人女1人がいました。集音分析によるとこちらがアレディング商会と繋がっていた組織の様です」
「見つけたか...奴らの組織についての情報は拾えたかい?」
「いえ大した情報は得られませんでした。ただ会話の内容から、こちらの伝言はやはり罠だと判断しています。同じく会話から内部にいた人物は監視者よりかなり上位者の様です」
「
「はい。現在まで人の出入りはありません」
「うーん...ソイツらの目的が分かればなぁ。悪いが引き続き監視してくれ。対応を考えてみるよ」
「承知致しました。監視と分析を続行します」
まず間違いなく彼等は帝国と敵対関係か、それに準じる集団の筈だ。でなければ武器の密輸等する意味がない。
こちらとしては帝国が国内の勢力と争うのをわざわざ止めてやる義理はないのだ...余計な火の粉さえ飛んで来なければ...
問題は彼等が自分たちの都合を通す為なら
「まったく...」
理由が何であれ鍛治師にも警備の人間にも死ぬ程の罪はなかった筈だ。
カナタは基本的に攻撃的な性格ではないし、アレディング商会の鍛治師や傭兵にも義理はない。だが“自分勝手な理由で他人を省みない輩”が猛烈に嫌いだ。
殆ど本能レベルで嫌悪している。両親を失った時の事がトラウマになっているのは自分でも分かっているがどうしようもない。
穏便に事を納める為に我慢しているが、正直関わった者全員を
「物騒な事を考えてしまったな...いや...」
あるアイデアが浮かぶ。多少物騒だが示威行動が、ある程度有効な事は砦での一件からも分かる。嫌な話だがこの世界では対等のテーブルに座るには“力の証明”が必要不可欠だ。
「それにしても相手の出方次第か...ミネルヴァ、中の人間に奴らの首魁らしき人物はいるかい?」
「現時点の情報からは判断出来かねています。明確に上位者からの連絡やそれらについての会話等は確認されて居ません」
「そうか...」
上位者がいるならその存在にたどり着けないといけないが...
「シドーニエ様が起床された様です。現在スィートのリビングにいらっしゃいます」
「ありがとう。僕もリビングに行くよ」
歩きながら改めて考えをまとめる。こちらの世界に来て1ヶ月半、元の地球でも同じく時が流れていると考えれば大騒ぎになっているだろう。焦っても仕方ないとはいえ...あまりこちらの世界のもめ事に手一杯になる訳にはいかない。
こちらの世界で世話になった人達をないがしろには出来ないが、やはり次元連結を探したり、
リビングに出るとシドーニエが朝食を運んできた宿の人間に対応していた。
「おはようございます、シドーニエさん」
「おはようございます、コーサカ様。今、朝食が届いた所です」
「なかなか美味しそうなメニューですね」
{ミネルヴァ、薬物検査を頼む。スキルを使って構わない}
{了解致しました。“エクスチェンジ”}
この世界に来てから飲食物の薬物検査には色々と気を使っている。単純に魔物等は何が食べられるかも分からないからだ。同様に警戒すべき食事にも検査は欠かさない。最初の頃はミネルヴァが直接ついばんでいたが今はスキルで極少量を直接体内に摂取して検査している。
{検査完了。問題ありません}
「本当に豪華ですね。任務とはいえ気が引けます」
「気にしない方がいいと思いますよ。薬物検査は済んでいます。存分に頂きましょう。今日は忙しくなりますからね」
「いつの間にそんな事を...いえ、それよりも何か分かったのですか?」
昨夜の内にある程度の調査を行う事は話してある。ミネルヴァの事を優秀な使い魔と認識しているシドーニエは特に疑問には思わなかったようだ。
「幾らかの事は分かりました。後程ヒルデガルド様に報告してからになりますが...今日の仕事は殴り込みです」
「は?」
聞いた事の意味が分からない...そんな顔で固まったシドーニエだった。
――――――――――
食事を終えた僕らはスキルでヒルデガルドの元を訪れていた。昨晩の事を報告する。
「なる程...それでコーサカ殿、これからどうするおつもりか?」
「...そうですね。実は先程シドーニエさんにもお話ししたのですが、“殴り込み”をかけようと思っております」
「...これはまた随分物騒な話だな」
流石にヒルデガルドも驚いた様だが、なんとか冷静さを保って話の続きを聞いてくれた。
「まあ、字面にすると物騒ですが要は直接対話と交渉に持ち込んでみようかと。必要なら実力行使も厭いませんが...」
「その辺りのさじ加減はコーサカ殿にお任せするしかなかろうな」
「彼等の目的がどの辺にあるか解らない現状では、いたずらに調査で時間を取られるよりも良いかと...勿論、周囲の街やヒルデガルド様の立場には十分に配慮いたします」
「...分かった。そもそもこの一件はこちらからコーサカ殿に依頼した事だ。それにコーサカ殿が配慮すると言うならめったな事にはならんだろう。宜しくお願いする」
「ありがとうございます。ご期待に添える様に努力いたします」
これでお墨付きは得た。あとはさっさと片付けよう。
――――――――――
「例の奴等に動きは?」
「監視からの報告によりますと、彼等は宿の部屋で朝食を取った後、部屋に留まったまま何ら動きを見せません」
「ふむ。妙だな、カムフラージュ代わりに商談にでも出ると思っていたが...室内にいるのは確かなのか?」
「間違いありません」
「分かった。動きがあり次第連絡せよ。下がれ」
「は!」
部下が下がってからも、書類をこなしながらウォルター・アレディングの事が頭をよぎる。こちらに来てから奴等は、我らに渡りをつける為の伝言以外なんら動きを見せない。
こちらからしたら罠だと丸わかりだし、向こうにしてもこんな事で釣れるとは考えられないだろう。
「まったく何を考えているのか...」
書類に目を落としながら呟いた時...
「それはこちらのセリフですよ。まったく面倒な...」
驚いて視線を上げると来客用のソファーで、肩にフクロウを載せたモノクルの青年がくつろいでいた。
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