第8話 道だと思っていたら他人の庭先だった...って事ありませんか? 4
グルム砦でフリッツと別れてから2日が過ぎていた。僕たちはグルム砦から東方に約半日分の距離を移動し、グローブリーズ帝国軍の侵攻部隊を待ち構えていた。
予想ではこれから、この街道上で戦闘前の最後の野営を行うはずだ。此処は狭い街道沿いに開けた湖畔で水の補給も行えるし砦方向への警戒もしやすい。
「やっぱりグルム砦の駐屯部隊は籠城か...まぁそれ以外に手はないか」
戦力差が単純に10倍だ、砦を盾に援軍の到着を待つ以外の戦術は採りようがない。侵攻部隊の動向を確認する為に斥候位は出しているかも知れないが、侵攻位置を遠方から確認するだけで到着時間の予測は出来る。見つかる心配は無用だろう。
「ミネルヴァ、最終確認だ。これからの予定を実行した時、この次元に無用な干渉を及ぼす事は無いんだな?」
「はい問題ありません。この程度の局地戦に介入しても、人類の進化や文明の進歩、環境の推移に大きな影響は有りません」
「しかし僕が歴史に無用な改変を与える可能性は残るぞ」
「私の使命は、主殿のサポートを“次元への過干渉を出来るだけ避ける形で実現する事”であり、人類の歴史に“主殿が関わらなかった状態を担保する”事ではありません。そもそも未来はあらゆる事象の収束した結果に過ぎず、改変されない未来こそが“本来の未来”だった事を証明する事は誰にも出来ません」
「...もし僕が過干渉する事に対してサポートを求めたら?」
「その様な事態は主殿の求めるものでは無いと信じております」
「...信頼を裏切らない様に努力しよう」
「宜しくお願い致します。...条件指定した座標範囲内に先行部隊がやって来ました。此方の仕掛けに対して介入された形跡は現在の所確認出来ません」
先日から“スキルの発動条件と範囲”を確定する為に、魔法陣(プログラムのサブルーチン)を予測される野営地一帯を囲む様に設置してある。
それらの魔法陣には入念に隠蔽が施されていたが凄腕の魔法使い(=精神感応エネルギー粒子に対して感受性の鋭敏な人間)や特殊な索敵魔法の使い手には察知される可能性が無いわけではない。
今の所は発覚した様子もないが油断は出来ない。少なくとも見張り以外の大部分が睡眠を取るまでは慎重に警戒するとしよう。
「グルム砦側の方は大丈夫か?」
「駐屯部隊が集合する広場の座標を指定してあります。あちらには魔法陣を設置する必要がありませんので...」
「スキルを使用する為のエネルギーは問題ないか?」
「この程度であれば周囲の〔
「スキルの効果は意図した形で発動出来るか?」
「私はインストール済みの一般的な魔法に関しては、組み合わせや応用も含めてかなりの自由度で行使出来ます。ですが“主殿のスキル”はかなり特殊ですのでネットワークの一部を共有して行使する形になります。私が設定を構築し主殿がトリガーを担当すると認識して下さい」
「了解した。それでは僕も決行時間まで休息する。周囲の警戒を頼む」
「お任せ下さい」
準備は済んだ。後はリラックスして決行の時間を待とう...
――――――――――
その頃、更に東の街道上で二人の男が馬車の中で軍議を行っていた。
「グルム砦側の返答は?」
地図に目を落としながら帝国軍侵攻部隊隊長ゲオルク・フォン・メッテルニヒ子爵が副官に短く報告を促す。
「予想通り徹底抗戦の構えです。まあ抗戦を宣言して他の戦術を採る可能性も排除出来ませんが...」
副官のヘルベルトも年下の上官が決して機嫌を損ねているのではなく、単に無愛想な事を心得ている為、何ら萎縮する事も無く飄々と答えた。
「撤退の可能性は?」
「それこそ取り返しがつきませんでしょうな」
確かにこの砦を失った場合、王都まで防衛拠点に使用可能な町や、野戦可能な平原はない。砦を橋頭堡にして侵攻すれば、さすがに王都までは無理でも相当の領土を実行支配出来るだろう。
「こちらとしては今夜の野営が一番危険だと考えています。駐屯部隊の規模から考えて大規模な夜襲は不可能でしょうが...隠蔽魔法の得意な者が少数精鋭で、総指揮官や他の幹部士官の暗殺を謀るかもしれません。」
「対策は?」
短い問いかけ。この30代半ばの上司は極端に口数が少ない。
「指揮官、幹部士官のテント周辺に探知系の結界魔法を設置して対処可能と考えています。結界内に侵入すれば隠蔽魔法を使っていても探知可能ですし、結界構築中の魔法使い一人に対して数名を護衛に付ける予定です」
「明日の攻勢の準備は?」
「其方は予定通り...特に変更すべき事はありません」
副官からの報告を吟味しながら、思索にふける。
(あらゆる可能性を思索したつもりでも神ならぬ者に全てを見通すことは不可能だ。向こうの司令官は若い女性と聞くが砦の司令官を務める以上侮る事は出来ない。残念ながらその人となりを調べる時間はなかったが...しからば一つ二つの策はあっても無駄とは言い切れまい)
「ヘルベルト、今すぐ追加で命令と伝令を出してくれ。内容は...」
内容を聞いた時、ヘルベルトは久しく無かった上官の長広舌と内容に驚きながら...
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
じろりと視線が注がれる。だが決して不快な訳ではない。単に普段から目つきが良くないだけなのだ...
「...敵に“優秀な人間がいない”と考える理由があるのか?」
ぶっきらぼうな返答を聞きながら、上官の持つ“
「直ちに御命令の通りに...」
ヘルベルトが退出した後も地図から視線をあげずに思索にふけるゲオルクだった。
――――――――――
その日の夜半...
「主殿、歩哨やまだ覚醒していた者、睡眠中の者も含めて、効果範囲内の全ての人間に認識誤認の魔法が発動しました。彼らは今から起こる変化に対して明朝の日の出を見る迄認識できません」
「ありがとう。では最後の仕上げといこうか...」
「了解です。“
ミネルヴァがスキルの設定を整えて僕に伝えた瞬間、少し緊張しながら起動ワードを呟いた。
「エクスチェンジ!」
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