SS6 成人男性が防犯ブザーに頭を下げている

 皆で映画を観て、一緒に寝て、外の世界が終わってしまっているなんて忘れてしまいそうになるような心地いい時間が過ぎていく。

 でも頭の片隅には拭い去れないものがある。

 見逃してはならない悪がいる。


 ──〝白い雄牛の歪曲者パバード〟。


 奴は何者で、なにが目的で動いているのか。

 掴みどころがなかったが、奴が絶対悪だということは理解した。


「だからお願いだ。知ってることがあるのなら教えて欲しい」


 温泉宿の俺、鷹岩 マコトが使わせてもらっている部屋で頭を下げる。

 人間は他にはいない。

 机の上に置かれた数個の防犯ブザーに向かってお願いする。


 自分でもなにやってるんだ、とも思うけどこの防犯ブザーたちはただの物じゃない。

 師匠やカケルに説明してもらったが、倒した歪曲者パバードから出てくる変身アイテムのようなもの……だそうだ。

 しかも喋るのだとか。


 ヒーロー番組でもしゃべる変身アイテムは珍しくないから、設定としては飲みこめるのだが、やはり原理が分からない。

 そもそも歪曲者パバードによって出来たものであるなら、健全な物とは言い切れない。


 代償があるに決まっている。

 それこそ寿命を奪うとか。


『──……』


 沈黙。

 誰も口を開かない。

 よくおしゃべりしていた緑色の防犯ブザーをガムテープぐるぐる巻きにしたからかもしれない。

 しゃべった奴からこうなる的な。


「白い雄牛の歪曲者パバードだけじゃない。お前たち歪曲者パバードのことをもっと知っておきたいんだ」


 赤、青ふたつ、黄色(は壊れている)、やはり沈黙。

 ……仕方ないから緑色の防犯ブザーの拘束を解く。


『物使いが荒いですぞ。悪いが、白い雄牛のことはさっぱりですな。──ところでショウちゃんからえちえち恩返しはあったのですかな? 命を助けたのだから、それ相応の見返りは』


 こっちは無駄話が多すぎる……。

 俺が無視していると『やれやれ』と呆れため息をついた。


『マコト君。ここにある変身アイテムの半数、君に倒された歪曲者パバードだと聞きましたぞ。そう簡単に口を割るわけありますまい。──ましてや我々は正義の味方ではありませんぞ。見返りがない善行なぞクソ喰らえな連中。それこそ性根が腐っておいでだ』


「なるほど。それは一理ある」


『そう簡単に納得されると少し複雑ですぞ。私はただ親友ショウちゃんのお役に立ちたいだけの紳士ゆえに』


「つまり防犯ブザーに書かれているのは元になった歪曲者パバードの象徴か。蜘蛛クモ(赤)とヘビ(青)は俺のこと恨んでるだろうな。じゃあ蝙蝠コウモリ(青)は──」


 蝙蝠コウモリのイラストが描かれた青色の防犯ブザーを手に取る。


「俺に情報を教えてくれそうなのは君くらいだ。なにか知っていることはないかな?」


『……仕方ない。私を怪人にしたのは奴だ。口ぶりからして歪曲者パバードになれる逸材が捕食者イーターたちに喰われる前に同族にしていってる。仲間を増やしてなにか良からぬことを企んでるんだろう』


「どうしてそう思った?」


『私を怪人にした時、奴は言っていた。『まさにリーチだ』と。少なからず私の前がいたという事だろう』


「リーチ……。コウモリが真ん中なら、じゃないのか?」


『ギクッ!?』


『待て待て、どうしてそうなるのですかな。マコト君』


『この男が理解したということはヒーロー番組ネタなのだろうな』


 ライダーシリーズのあるあるだ。

 初代に登場した怪人の順番がシリーズに引き継がれることが多く。

 『クモ、コウモリ、サソリ』、それらの怪人が序盤に出てくることが定番となってる。


「つまりお前も白い雄牛の歪曲者パバードに会ったことがある。違うか?」


『……ええっと、黙秘もくひしまーす』


 沈黙を貫いていた赤色の防犯ブザーが声を出した。

 それだけで、関係性はある。

 こいつも白い雄牛の歪曲者パバードによって怪人化させられている。


「怪人を増やし続けている怪人。──……でもどうして歪曲者パバードはショタコン(悪)の存在。競争相手が増えるだけじゃないのか」


『マコトさんはバカなんだからー。あまり考えなくて良いと思うなー』


『それは、すまないが私も賛成だ』


『そうですな。ショウちゃんのえっちは部位を語る方が有意義な時間ですぞ』


 ほんとこいつら。

 流石は悪の怪人軍団である。


 確かにこいつらと話していても歪曲者パバードのことが余計に分からなくなりそうだからやめにする。


「じゃあもっと面白い話でもしようか。少年たちを守る大人同士交流を深めよう。ちょっと食堂からお酒持ってくる」


『……な。ほんと君という奴は──て、マコっちゃんは今、未成年の身体なのよネ!? だめヨ、ゼッタイ!!』

 

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