第13話 怨霊と本気で戦う

 突如眩しい閃光が僕の真っ暗な視界から現れた。

 と同時に、息ができるようになった。

 フワッと宙に浮かんだ心地がしたかと思えば、腹部に少し温かい感触がした。

 ハァハァと息遣いが聞こえたので、目を開けて確かめてみた。

 ビーラの横顔が目に入った。

「び、ビーラ……さん?」

 僕がかすれ声でそう聞くと、彼女はチラッと僕の方を見た。

「おぉ、気がついたか」

「い、生き返った……ですか?」

「馬鹿を言うな。あんな奴に殺されるほど、アタシは弱くない」

 夢ではないようだ。

 チラッと下を見ると、地面が早送りしているかのように進んでいる。

 どうやらビーラは僕を抱きかかえながら走っているらしい。

 死んだと思っていたビーラが生きてくれていて、とても嬉しい気持ちでいっぱいだったが、状況が状況だけに素直に喜べなかった。

「て、転移魔法……は? ゴホッ、使わないんですか?」

「素直に見逃してくれると思うか? アイツを……」

 ビーラが背後の方をチラッと見ると、背後から奇声が聞こえた。

 すぐにヤツだと直感した。

「あいつがお前が言っていた呪いの魔物か?」

「えぇ、そうです……」

「そっか……確かに厄介だな。あれは」

「どうしたらいいんですか?」

「あぁ、そうだな……閃光の魔法を放った時にあいつは逃げていたから、光魔法が効くかもな」

 光魔法――やはり、そうか。

「少し止まるけど、いいか?」

「大丈夫です」

 ビーラはザッと振り返ると、素早く僕を降ろした。

 予想通り、ヤツが来ていた。

 全速力で僕らの方にダッシュしていた。

「ピカーラ!」

 ビーラはそう唱えると、両手から光の珠が出てきた。

 それがヤツの方に凄まじい速度で飛んでいった。

 それを見たヤツはサッと球体をかわした。

「ピカーラ! ピカーラ!」

 彼女は何度も唱えた。

 間髪を入れず光の球がヤツに襲いかかる。

 が、ヤツは華麗な身のこなしで次々と避けていた。

 ビーラはチッと舌打ちをすると、「だったら、これしかないか」と深呼吸した。

「ピラピカーラ!!」

 彼女がそう唱えるや否や、一瞬で目を開けていられないほど眩しい閃光が現れた。

 巨大な光の塊は、すぐさまヤツの方に向かう。

 ヤツは姿が見えないほど光に覆われてしまった。

 その直後、爆発したかのようにさらに輝いた。

 少しの間瞼を閉じ、ゆっくり開けると、ヤツの姿がいなかった。

「倒したんですか?」

 期待がこもった声で聞くが、ビーラは「いや、まだだ」と睨んでいた。

 すると、背後から寒気がした。

 それはビーラにも感じていたようで、バッと振り向くと、ヤツが「キシャアアア!!!」と叫びながら彼女に掴みかかってきた。

「ビーラさん!」

 僕はヤツを引き剥がそうとしたが、スルリと手が抜けてしまい、全く掴めなかった。

 ヤツは彼女の首を閉めていた。

 ビーラは「グッ、クッ」と苦しそうな顔をして悶えていた。

「ぴ……ら……ぴら」

 微かに何かを言ったかと思えば、チカッとフラッシュし、ヤツが驚いたのか手を離して距離を置いていた。

 さすがのビーラも息を荒くし喉を擦りながらヤツの方を見ていた。

「はぁ……はぁ……本当に頭のくる奴だ」

 すると、ビーラは「ピアーラ!」と叫び、光り輝く弓矢を何もない所から出した。

「これでアイツを射つから、今のうちに逃げるんだ」

「え?!」

 思わず叫んでしまった。

 ビーラは僕のためにヤツの注意をひこうとしているのだ。

「ぼ、僕も……」

「駄目だ! 光魔法の使えないお前がいても足手まといになるだけだ!」

 何も返せなかった。

 確かにその通りだ。

 僕がここにいても、ビーラが集中して戦えない。

「……分かりました」

 僕はキッと正面を見た。

 僕が逃げる道の先に、ヤツがいた。

 ヤツはフラフラと揺れながら行かせまいと立ちはばかっていた。

「今から一発放つ。ピカッと奴を目くらましにするからその隙に行け」

 ビーラは光る矢を出現させ、弓の弦を張った。

 僕はいつでも走れる状態でタイミングを伺っていた。

 ヤツは立ったままジッと僕らを見ていた。

 そして、自分の頬をかきながら首を傾げていた。

「ハッ!」

 ビーラが弦を放した。

 ヒュンと風を切り、ヤツに向かった。

「今だ! 走れ!」

 ビーラがそう叫んだと同時に僕も駆け出した。

 すぐさまひるみたくなるほど眩しい光が僕に襲い掛かってきたが、脚を止めなかった。

 無我夢中で走った。

 後ろを振り返らずに、ただ逃げる事だけを考えた。

「ケハァ、ケハァ、ケハァ」

 だけど、背後から聞こえる不審な鳴き声に、脚を止めざるを得なかった。

 恐る恐る見てみると、ビーラが赤い目な大きくさせていた。

 ヤツはビーラの方を向いていた。

 が、あり得ない角度で首が動き、僕の方を見ていた。

 首だけ180度回転して胴体が逆な姿は、まさに怪物だった。

「ケケケケケケケ!!!!」

 ヤツは舌をチロチロさせながら笑っていた。

「カース! 絶対にそこを動くな! 声も出すな!」

 ビーラがそう叫んだと同時に、またあの奇怪な叫び声が聞こえた。

 いや、ヤツからではない。

 至る所から、森中から、あの声がした。

 森すべてがその声を占拠し、異様な空気がさらに増した。

 ヤツは口を裂けるほどニタァと笑っていた。

 僕は彼女の言う通りに一歩も動かなかった。

 ビーラも弓を降ろして、目だけ機敏に動かしていた。

 まるで何かに怯えているみたいだった。

 そして、この異様な声の正体が姿を現した。

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