Sランクパーティーを追放された無能、実は最強でした

一本橋

第1話 エドはいらない子

「エドワード、君はこのパーティーにふさわしくない。よって、リーダの権限により追放する」


 物静かな夜。

 ソファでくつろいでいた僕は、予想外の言葉に戸惑う。


「勇者である俺や、その仲間が常に命を張って戦っているというのに、君はどうだ? いつも安全なところから眺めているだけで、ろくに戦闘に加わろうとしないじゃないか」


 声の方を振り向くと、そこには厳しい視線を向けた勇者エヴァンが立っていた。


 確かに、一理ある。僕は顎に手を当てて考える人のポーズをとる。


 だが、好きでそうしている訳ではない。エヴァンは馬鹿みたいに、後先考えず先走る。その奇行には何度、悩まされたことか。


 そのため、エヴァンを死なせないよう、補助や援護に徹していたのだから仕方がない。

 おもだってすれば、プライドが許さないのか邪魔だと拒むという面倒くさい奴。


 だから、陰ながら支えていた。という訳で、本人には微塵も守られていたという事実に気付いていないのだ。


 それに、パーティーには王都でも屈指の剣士のフィオナ。魔法使いのリリアがいるので、わざわざ僕が戦わずとも並大抵の相手なら問題ないというのもある。

 まあ、サボってるってのも、一概には否定はできないけど。


「確かに、そう思われても仕方がない。だけど、ただ棒立ちしているワケじゃ──」

「言い訳など聞きたくない!」


 僕の言葉は、エヴァンの怒声によって遮られる。


「魔法の才能がないにも関わらず、Sランクパーティーにまで上り詰めたという噂を聞いたときは感心したが、所詮は噂。けれど、実際はどうだ? 仲間に恵まれていただけで、そのおこぼれにあづかる寄生虫にすぎないではないか」


 侮蔑の目が向けられる。


 いくら武術や、魔力にたけていても魔法が使えなければ弱者。それが世界の常識だ。

 確かに僕には魔法の才能がない。端から見れば、か弱い子にすぎない。


 ……が、長年の経験と鍛えた魔力。そして、独自の戦闘スタイルにより魔法が使えないというハンデを克服している。


 とはいえ、肝心の本人の前では一度も力を使ったことがないため、言ったところで信じてもらえないだろうけどね。


「はっきり言おう、役立たずでしかない君の存在はパーティーにおいて不要でしかない」


 断言するエヴァンを前に、内心ため息しか出ない。


「……一応、聞くけど。本当にいいんだね?」

「ああ、そうだと言っているだろう。……それと、二人の心配もする必要はない。この僕と聖剣がある限り、彼女達に指一本触れさせるような事は起こり得ないのだから」


 そう自信満々な面持ちで、腰に掛けている剣の持ち手に手を添えるエヴァン。


 僕にはそれが何とも滑稽に見えて仕方がなかった。

 なぜなら、その剣は補助の一環として僕の付与した魔力により、通常の何十倍も大幅に強化されているのだから。


 そんなことを、エヴァンは知るよしもないそれどころか、聖剣と己の実力だと勘違いしている痛い子なのだ。

 自分自身の強さを過信していれば、そのうち身を滅ぼすのは明白。


 ちなみに、魔力の付与は定期的に行わなければならない。僕が追放されれば、いずれは魔力が底をつき元の能力値に戻ってしまう。

 だけど、僕の言うことに聞く耳を持たないだろうから、わざわざ教える気にもならない。


  剣が使い物にならなくなったとしても、二人がいれば大方やられることはないだろう。

 しかし、魔王軍と戦うとなれば話は別だ。間違いなく勇者が二人の足を引っ張る枷となるのは易々と想像に付く。


「最後にひとつ。二人はこの事を知ってるの?」

「……まだだ。だけど、問題ない。話せばきっと納得してくれるさ」


 バツが悪そうに顔をそらすエヴァン。


「ならいいけど」


 様子から察するに、エヴァンの独断とみてよさそうだ。

 それも、わざわざ二人が不在なこの時に見計らったかのように追放するのだから、居たら都合が悪いのだろう。


 それもそのはず、二人とは長い付き合いで俺を慕ってくれているからだ。


 最初は驚きはしたものの、パーティー追放に関しては、別に構わない。

 むしろ、面倒なお守りから解放されて気が軽くなったとさえ思える。

 とはいえ、ムカついていない訳ではない。


 唯一、未練があるとするならば、エヴァンの女癖が悪い噂が絶えない事だ。実際に、そういった所を何度も見たことがある。

 だからこそ、二人にまで手が及ばないかと心配だが、彼女達は気が強く実力も遥か上なので大丈夫そうだろう。


「それと、二人には金輪際近寄るな」


 去り際にそう告げると、エヴァンはホームの戸を閉めた。


 最低限の荷物を片手に追い出された僕。


 長年お世話になったホームをしばらく眺めたのち、僕は王都を後にした。

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