第5話 恐怖と信頼
「ところで今回の任務詳細はどんな感じなんだ?」
「えぇ最近近隣の町や村に現れる二人組の盗賊……彼らを止めるのが今回の任務内容です」
資料を見る限り被害件数は結構なものだ。
守る者が少ないとはいえ二人組でそれをやってのけている。
ともなればその実力は決して侮れるものではない。
「要はぶっ倒せばいいんだろ? 楽しくなりそうじゃねぇか」
「もう、遊びに行くわけじゃないんですから……」
「ティアハさんの言う通り油断は禁物ですよ」
と言ったもののレグロスとしてはヴァルクの心配はそれほどしていない。
彼は刺激を欲してはいるが油断はまずしない。
寧ろ刺激を得るために全力で戦うタイプだ。
「そうだな、あくまでも目撃されてるのが二人ってだけだし」
「わーってるよ、まぁなんとかなんだろ」
「とりあえずはアプラって町で依頼人の方と会いましょう、そこで情報整理後に討伐を開始ってことで」
その言葉に三人が頷く。
こうして一行はその足を近場の町アプラへと進めた。
〇●
アプラはこの近辺の町々の中ではそれなりに大きい。
なので当然施設や建物も結構多い印象を受ける。
恐らく普段はそれなりに栄えて賑やかなのだろう。
ただ今はどことなく町を漂う空気は重いものに感じられた。
この町もこれまでに相当な被害にあっているようだからしょうがないと言えばその通り。
「――以上が私達から渡せる情報の全てとなります」
依頼人である各町村の長達。
彼らから聞けた話のその大半は既に渡されていた情報と同じ。
だが敵側である二人の性格や
「攻撃の兄と防御の弟のコンビか、シンプルだな」
兄の名前はトウ。
対して弟ヌースは強固な防御壁を得意としている。
兄弟揃えば攻防一体、というわけだ。
「面倒そうだが崩しちまえばこっちもんだ」
「そう容易くいけば……ですけどね」
相手の正確な実力まではまだ分からない。
なんにしても油断しては大変な事になる。
だがまだいくつか気がかりがあった。
「……さてとりあえず小休憩です、その間各自準備をしておきましょう」
「おうよ、まぁそんな準備する事もねえけど」
「分かった、また後でな」
ヴァルクとジィルが部屋を出ていく。
そしてそれに続くように慌てて出ていこうとするティアハにレグロスは声をかけた。
「ティアハさん、少し話が」
「……分かりました」
とりあえず丁度よく見つけた喫茶店に足を運び席に着く。
だがどうにも空気が重かった。
多分このままだと無言で時が過ぎる。
だからこそ注文した茶を飲みつつレグロスは早々に問いかけた。
「怖いですか?」
「すいません……」
受けた時は大丈夫だと思った。
少しでも役に立ちたいと思った。
だが戦いが近くへ迫ってくると胸の内にある恐怖がどんどんと膨らむ。
「……怖いっていうのは悪いことじゃないですよ」
「え?」
「人としてあって当然の感情ですし」
寧ろ怖さなんてない、なんて人間の方がよっぽど異常だろう。
少なくともレグロスはそう思っている。
「それでも僕はあなたを信頼しているんです、あなたは誰かのためにその恐怖を乗り越えられる人だから」
脳裏を過ぎったのは初めて出会ったあの時。
自身を一瞬で救ったレグロスの姿はティアハの記憶に強く刻まれている。
だがレグロスの方もまたあの日のティアハの姿は強く心に残っていた。
一人で、勇気を振り絞って守るべき人を守ってみせたその姿は輝いてみえた。
「大丈夫ですよ、あなたなら出来ます。それに今回は一人じゃないですし」
レグロスはそう言って笑ってみせる。
心からの笑み。
油断はなく、ただそこには確かに信頼があった。
「私なら……」
「えぇ少なくとも僕はそう思っていますよ?」
「……やっぱり怖いです、けど……ここで逃げるなんて真似もしたくないです」
俯きがちだったティアハがそっと前を向く。
――思えばこんなに信頼を向けてもらえたのは生まれて初めてだった。
だからこそ信頼に応えたい。
情けないままの自分ではいたくないと奮い立たせられる。
なにより今回の件、苦しめられている人も大勢いるのだ。
そんな人達を守りたいという気持ちもティアハは人一倍強かった。
「……やれるだけの事をやってみせます!」
「ん、頼りにしてます。頑張りましょう」
確かな意思の宿った瞳。
これならティアハはきっと大丈夫だろう。
レグロスは少しだけ安心しつつ思考を切り替える。
(さぁ……これで後は目の前の問題を解決するだけ――だといいんですが)
なんにせよ、とりあえずは目の前に迫る盗賊兄弟との戦いだ。
ティアハにあれこれと言った以上、自分が無様な姿を見せるわけにもいかない。
「さてと、そろそろ行きましょう。準備は怠ってませんよね?」
「はい! 大丈夫です」
密かに気合いを入れて二人は席を立つ。
そうして準備と休憩を終えた四人は合流する。
目的である盗賊を倒し止めるために――その矢先。
『うわああああっ!』
轟音と共に住民達の叫びがアプラの町中に響き渡るのであった。
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