第3話 強さを求め
ユーチア学園の修練場。
己を磨く学生がチラホラ見える中にレグロス達はいた。
「悪いな、付き合ってもらって」
「いえ、構いませんよ。ジィルさん」
今レグロスはとある男子生徒と共にいる。
彼の名はジィル・スミーク。
レグロスと同じ一年生だ。
そんな彼と何故一緒に修練場へ来たのかと言われれば――。
「急に誘われたから若干驚きましたけどね」
「だろうな」
いつものように教室でぐてーっとしていたところに向こうから声をかけられたのだ。
話すのは初めてで正直わざわざ付き合う義理もない。
だがジィルの眼は真剣で、その中には強い意思が感じられた――ような気がした。
だからこそレグロスは言われたとおり共に修練場に来たのである。
「でも何故僕を誘ったんです?」
「深い理由は特にない、ただこの間のお前が凄かったからな」
「この間……あぁ」
思い出すはヴァルクとの模擬戦。
いや、模擬戦というには双方熱が入りすぎてた感はあるが。
終わってみれば互いの武器はボロボロ。
オマケにレグロスもヴァルクは中々に負傷したものだからあの後ティアハに涙目で心配されたのを思い出す。
(泣かれると流石に罪悪感凄かったな……)
流石に申し訳ないから今後は出来るだけ気を付けよう。
レグロスはひっそりとそんな決意を固めていた。
「しかし……ここまで来てなんですけど何をするんです?」
気になるのはそこだ。
付いてきてほしいと言われたから来た。
だがジィルの目的も、ここで何をするかも何も把握してない。
「あぁ……俺は強くなりたいんだ」
「あ、はい」
それは大なり小なりあれど当たり前の感情では?この学園にいるなら特に――と思ったが空気を読んで声には出さない。
「……」
「……? 続きは?」
「いや、終わりだけど」
「あれぇ……?」
この間のヴァルクもそうだがシンプルすぎる。
というか答えてくれてはいるがなんか釈然としない。
もっとこう長い話が待ってるのではないかと身構えていたというのに。
別に特訓に付き合えというならそれでも構わないのだが。
「まぁよく分かりませんけど強くなりたいってのは分かりました」
「よし、頼む」
「なにを!?」
レグロスは理解した、目の前の男はきっととんでもないマイペースだと。
というかもう少しこう――少しでいいから言葉を増やしてほしい。
それにおかしいのだ、こういうツッコミをするのはティアハの役割のはず。
決して自分じゃないはずなのに。
レグロスは思わず頭を抱えた。
脳内のイマジナリーなティアハがそんな役割押し付けないでくださいと怒ってる気がしたがそこはスルーである。
「強くなるためには特訓あるのみだろ?」
「まぁその通りですけども」
これは特訓に付き合うという事でいいんだろうか?まぁいいか。
今この時においてレグロスはアレコレと考えるのをやめた。
「本来なら僕も偉そうに言える身じゃないですけど……折角ですし得意技とか見せてもらっても?」
「実力の確認だな、分かった」
了承すると同時にジィルが取り出した武器は二本の短刀。
どうやらそれを両手に持つのが彼の戦闘スタイルのようだった。
先ほどよりも目つきと雰囲気の鋭さが増す。
これは間違いなく出来る相手、そう判断しながらレグロスも剣を抜く。
(ヴァルクの時と違ってどっちかが倒れるまでやり合う必要はないのは幸いですかね)
昨日の今日でまた怒られたり泣かれるのは勘弁だ。
そう思っているうちにジィルが動く。
「
振るわれる右の短刀、それを難なく受け止める。
パワーはそれほどじゃない。
しかし確実に何かがおかしいと感じる。
その答えはすぐに分かった。
(これは――!)
ギャリギャリと凄い音を立てて剣の刀身が徐々に削れていく。
目を凝らせば短刀の刀身に纏わりついているのはスピリット。
そのスピリットが凄まじい早さで横回転してレグロスの剣を削っているのだ。
「っと!」
これはまずい、そう判断して刀身を傾ける。
受け流すような形にする事で刀身へのダメージを避けるという選択。
だが忘れてはならないのがジィルのスタイルが二刀流であるという事だ。
「
案の定、まだ振るわれていない左の短剣の切っ先がレグロスへと向けられる。
当然だが真っ先に警戒するのは刺突だ。
しかし実際に飛んできたのは刺突ではなく短剣に纏わせていた回転するスピリット――それの射出による遠距離攻撃!
「いっ!?」
迫る回転するスピリット。
ふと先ほど少しずつとは言え剣の刀身を削っていた事を思い出す。
これを体でまともにくらえばどうなるかなど想像もしたくない。
「うおあっ!?」
咄嗟だった、そうとしか言いようがない。
レグロスはかなり無茶な体勢になりつつも体を大きく傾けて捻る。
その捻りを利用して勢いをつけた一振りでそのスピリットを弾いてみせた。
――危なかった。
これは素直に認めるしかない。
「流石だな、じゃあもっと……」
「ストーップ! 十分、十分です!」
「そうか?」
ここで止めないと絶対怪我する。
そう確信したレグロスは戦いを止めて剣を収めた。
「とりあえずジィルさんの大よその実力は分かりましたが……一つどうしても気になる事が」
「なんだ?」
「どうして強くなろうと? 僕はその理由を知りたい」
戦ってみたからこそ分かる。
目の前のジィルという男の実力は相当なものだ。
それでもなお上を目指す向上心は個人的に好印象を抱くがその理由がどうしても気になる。
単純に上を目指す、とはなにか違う――そんな印象を受けたから。
「……超えたい奴がいて叶えたい夢があるんだ」
「超えたい人と叶えたい夢、ですか」
「あぁ……まずは超えるところから始めたい、力がなきゃ理想は叶えられない」
世界は優しくない。
師と旅をして生きてきた人生の中でレグロスは自然とそう学んだ。
優しい世界だったなら自分が物心つく前から独りになるはずもないし、苦しむ人が出るはずもない。
力のない人が苦しみ倒れる姿も嫌になるくらい見てきた。
だからこそ――夢を
「……分かりました、そういう事なら今後もいくらでも付き合いますよ」
「恩に着る」
「構いません、僕も叶えたい夢があるから気持ちは分かりますしそれに貴方との特訓は良い経験になりそうだ」
「ありがたい、よし。どんどんやろう」
「まず特訓内容聞いてからにしてくださいよ……まずは――」
その日からレグロスはジィルと共に特訓を始めるのだった。
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