自己流で修行してたら、いつの間にか最強になっていた話

にいな

【第一章】剣士への道

第1話 レイ・ルフェーブル

 大陸の中心部に位置し、五百年の壮大なる歴史と栄華を誇るイルビア王国。


 その王都アオハザールでは、大陸路を通じて商人や旅人達が集い、街では国民が、昼は仕事に汗を流し、夜は娯楽に浸り意気揚々と暮らしている。


 ──眠らないみやこ、アオハザール


 その代名詞と共に、華やかにそびえる王都から五十キロ程南。清き流水の上を爽やかな風が通り、葉の合唱が聴こえるアズール地方。

 こちらも王都には及ばないものの、壮大な自然と安定した気候を味方にし、豊富な資源を武器に繁栄を築いていた。


「西より砂塵発見!あの旗はカルゾ族です!」


 日が傾き始めた頃、久しぶりに敵襲の鐘が鳴り響いた。住民達はざわめきをながら避難を始める。

 そんな恵まれた環境故に、他民族が襲撃する事も度々あるのだが、今回は少し事情が違う。


「よりによって騎士団が居ない時に……!」

「落ち着け!襲撃まで時間がある。弓兵を先に出して、時間を稼がせよ!」

「……了解っ!」


 周囲の動揺を鎮め、冷静で具体的な指示で守備兵を動かす男。この小さな町、コイノミールの守備隊長を務めるラクマ・ジョブソンだ。

 以前は戦場を駆けた武将であり、さらに守備隊長の役職に就いてから七年という経験も豊富だ。

 民や部下から絶大な信頼を得るそんな彼ですら、焦りを禁じえなかった。


 ──独立遊騎士団どくりつゆうきしだん紺翼こんよくの騎士団──


 守備隊とは別に、アズール地方の安全を守るこの騎士団の存在があるのだが、昼過ぎに見回りに出掛けたばかり。この町の守備隊も決して弱くは無い。だが、騎士団が居る居ないとでは戦力が全く違う。


「……くそっ!」


 ラクマの険しい表情と言葉が、夕陽で紅く染められる。敵影が少しずつ確実に近付き、いよいよ防衛戦の幕が開けようとしていた。


 ◇◆


「……なんか、町の方騒がしいな」


 同刻、町から少し離れた山中にて、銀髪の青年がそう呟いた。木漏れ日が彼の汗を照らす。


にい様、どうやらカルゾ族が襲来してきたようで。町は騒然としています」

「騎士団が居ない日を狙ったな。……教えてくれありがとルリラ」


 ルリラと呼ばれた長身の少女。褒められた嬉しさを微かに表情に出しながら、再び銀髪の青年に声を掛けた。


「……私が操縦しますので、お乗り下さい」

「流石、準備が早いね」


 彼女の手際の良さに笑みを零し感嘆しながら、陽の光を弾く刀剣を鞘に収める。首に掛けたネックレスの先、白く小さな結晶が一際輝きを放った。


じい様、行ってきます!」


 誓うように挨拶をすると、二人を乗せた漆黒のサラブレッドが駆け抜ける。紺の髪を靡かせたルリラと銀髪の少年は、急ぎ町の方へと向かった。


 ◇◆


「数が多すぎます……!」

「統率が取れている模様!前線押されています!」

「今度は南方からの攻撃が!」


 カルゾ族による襲撃が開始された、コイノミールの町。想像以上の数の多さと統率力に、守備隊は苦戦を強いられていた。


「……別働隊もあるだと!?総攻撃か!」


 守備隊長ラクマの焦りが、事の重大さを知らせている。西からの襲撃を何とか食い止めてはいるが、その分他方向の守りが薄くなっているのだ。


「一つでも突破されたら不味い!アイズ、指揮を頼む!俺は南へ向かう!」

「ご武運を!」


 拳を掲げ握りしめる副隊長アイズ。指揮のバトンを渡し、全速力で南の方向へ駆けるラクマ。


 間に合ってくれという思いは、数秒にして崩れ去った。


「南方突破されます!ギリギリ耐えている状況ですが、これ以上は……」


 到着した途端に届き、自分の目で見た知らせは最悪だった。


「……やられる!」


 まさに一瞬。守備兵の冷や汗が垂れ、絶望を感じ動きが鈍ったその時だった。


 豪脚で迫る漆黒の輝き。そこから飛び降りた一人の青年が剣を抜いた。


 シュンッ……


 我先にと町内へなだれ込んだカルゾ族数名。彼らの首と胴体が、その静かな音と共に永遠の別れを告げた。


 ――同時に、陽に照らされた鮮血の虹が輝く。


 騒がしかった南の戦場にも静寂が作られ、一筋の光が差し込んだ。それは、絶望では無く、希望の光だった。


「お前らのせいで町は恐怖に堕ち、数人の命が消えたんだ」


 純白の刀身に付着した血を振り払う銀髪の青年。


「……償ってもらうよ?」


 彼の名はレイ・ルフェーブル。王国公認の将でも、守備隊員でも無い。地方の小さな町に暮らす、ただの町民だ。

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