第三章 ~『猫カフェオープン』~
オルレアン公爵家は専属の商人を大勢抱えている。その内の一人、以前シャーロットからドレスをプレゼントしてもらった際に訪れた商店の店主――マーニャに相談すると、トントン拍子に猫カフェの開業は進んだ。
街道に面した好立地にオープンした猫カフェは、デート目的の客ですぐに賑わうことになった。
二号店、三号店が続けてオープンしたが、客足が途絶えることはない。野良猫たちを養っていけるだけの盛況をみせていた。
「エリス様の発想は素晴らしいですね」
早朝、まだお客のいない開店前の猫カフェを、エリスとアルフレッドが訪れていた。
店主のマーニャはエリスと顔を合わせると真っ先に称賛を送った。その行動と口元のニヤニヤから、儲かっているのだと察せられた。
「保護した猫を集めてカフェを開こうなんて、よく思いつきましたね。さすがエリス様です」
「私はアイデアを出しただけですから……」
「そのアイデアが画期的なのです! この街を野良猫被害から救いながら、かつ収益に繋げる。猫カフェ目当てに他の領地から観光客まで訪れるほどですから。エリス様のアイデアは領地に大きな利益をもたらしたんですよ」
褒められて悪い気はしない。特に領地への貢献は、回り回ってアルフレッドのためになるため、役に立つことで充足感も得られた。
「では、エリス様。開店までの時間はお二人の貸し切りですから。楽しんでいってください」
それだけ言い残して、マーニャはその場を後にする。二人と猫たちだけになった空間で中央の座椅子に腰掛けると、ゆっくりと猫たちが近づいてきた。
「人馴れしてきましたね」
「醍醐味の一つとして、お客からの餌やりがあるからだろうな」
アルフレッドはジャーキーを猫の前に差し出すと、一匹の黒猫が齧りつく。美味しそうにジャーキーを味わいながら、機嫌良く尻尾を振っていた。
「ふふ、可愛いですね」
「猫カフェが人気なのも納得だな」
「シロ様にも楽しんで頂かないといけませんね」
猫カフェが成立したのは、シロが野良猫たちを従えたからだ。
最大の功労者に報いるべく、キャリーバッグを開けると、シロが飛び出してエリスの胸元へ飛び込む。甘えるように猫撫で声を漏らしながら、顔を擦り寄せていた。
「いつもより甘えん坊さんですね♪」
「もしかしたら、他の猫に嫉妬しているのかもしれないな」
「ふふ、なら安心してください。私の一番はシロ様ですから」
頭を撫でてあげると、愛情が伝わったのかシロは尻尾を振る。その様子を見守っていたアルフレッドは優しげに微笑む。
「もし子供ができたら、エリスは良い母親になりそうだな」
「お世話するのが好きですからね。アルフレッド様も素敵なパパになりそうです」
「そうだろうか?」
「絶対にそうですよ。私が保証します」
アルフレッドの人格については太鼓判を押せる。彼の子供に生まれたならきっと幸せな人生を過ごせるだろう。
(私のお父様は……良くも悪くも領主としての立場を優先する人でしたからね)
オルレアン公爵家に嫁ぐ前に父から伝えられた計画を思い出す。アルフレッドとの間に子供を設け、呪いで亡き後のオルレアン公爵領を乗っ取るという話だ。
(ですが、その計画はもう崩れたに等しいですからね)
呪いは黒魔術師の気まぐれのおかげか出力が落ちている。回復魔術の治療も順調なため、すぐに命を落とすような心配はない。
(アルフレッド様との間に子供を作り、家族みんなで幸せな人生を送るんですから。お父様の思惑通りにはさせません!)
そう決意した時、アルフレッドの顔色が急に悪くなる。額に玉の汗が浮かび、呼吸が荒くなっていた。
「アルフレッド様?」
「うぐ……っ……」
アルフレッドは心臓を押さえて、その場に倒れ込む。只事ではない反応に、エリスにも焦りが生まれる。
「アルフレッド様!」
彼を抱きしめ、エリスは回復魔術で癒やしの輝きを浴びせる。だが目を覚まさない。今できることは、精一杯、治療することと、回復を祈ることだけだった。
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