クラス転移した先でクラスメイトたちに裏切られて捨て駒にされたので、『死に戻り』を駆使して皆殺しにしたらどうなるか検証してみた。

式崎識也

第1話 捨てられて



「……はぁ、はぁ!」


 乱れた呼吸を整える間もなく、地面を蹴る。少しでも足を止めたら死ぬという圧倒的な恐怖の前に、僕はただ前へ前へと走り続ける。


「くそっ! くそっ!! くそっ……!!!!」


 必死に足を進めながら、魔力を弾丸に変えるハンドガンを乱射する。しかし駄目だ、当たらない。目と鼻がない『フルグル』と呼ばれる四足歩行の化け物が、凄い速さでこちらに迫ってくる。


「魔獣は弱いんじゃないのかよ! 何でこんな……!」


 1体でも手こずるような魔獣が、ざっと見ただけでも数百体の群れで一斉にこちらに襲いかかってくる。


「……死ぬ。このままだと死ぬ!」


 クラス転移。高校の修学旅行のバスがそのまま、異世界へと転移した。とある事情で戦えないこの世界の住人に変わって戦って欲しいと、綺麗なお姫様に頼まれた。


 武器や魔法を使って、魔族と戦う。こっちの世界で死んでも、元の世界に帰るだけ。もしこの世界を救うことができたら、なんでも願いを叶えてくれる。そんな、まるでゲームやアニメの主人公にでもなったような展開。



 僕はどこかで、浮かれていたのかもしれない。



和泉いずみさん! 銀星ぎんせいくん! 生きてるなら、返事をしてくれ!!」


 僕と一緒に捨て駒にされた2人の名前を呼ぶが、返事がない。やはり、2人はもう……。


 不登校でほんの数回しか顔を見たことがない女の子、和泉いずみ まいさん。不良で学校をよくサボっていた派手な銀髪の男の子、鈴木すずき 銀星ぎんせいくん。そしてこの僕、単なるぼっちの沙霧さぎり さえは、クラスメイトたちに騙され、たった3人で戦場の最前線に立たされていた。


 何の目的で、どうしてそんなことをしたのか。何も分からない。ただ事実として、僕は戦場の最前線で魔獣の群れに殺されそうになっていた。


「……!」


 そこで不意に、スマホが鳴る。この世界には電波は通ってないし、ネット回線もない。なのにどうしてか、電話だけは繋がる。……僕は一縷の望みかけて、電話に出る。


「あ、繋がった。やっぱり電話は、ちゃんと繋がるんだね、ふしぎー。で、そっちの状況はどう? 沙霧くん」


 普段と変わらない気の抜けた幼馴染の声。僕は叫んだ。


「どうもこうもないよ!! どうして僕らが、戦場の最前線にいるんだ! 和泉さんと銀星くんが死んだ! このままだと、僕も死ぬ!! 早く……早く、助けに来てくれ……!」


「ごめんねー、それは無理なんだよ。あたしのスキル『転移の門』って、かなり魔力を使うから、できるだけ無駄遣いはしたくないんだよ」


「ふざ──ふざけるなよ! そんな理屈が通るかよ! どうして僕らを捨て駒にした! 何度も電話をかけたのに、どうして出なかった! なんでこんな、馬鹿な真似をするんだ……!」


「ごめんね? でも、仕方ないんだよ。これはみんなで、決めたことだから」


 スマホの向こうから、クラスメイトたちの声が聴こえてくる。……もしかして、笑っているのか?


「笑ってないで、答えろ! 人が死んでるんだぞ!」


 僕は叫ぶ。それでも、笑い声は止まらない。


「怒らないでよ、怖ないなー。……ってか、狭霧くんなら、分かってるんじゃない? どうしてあたしたちが、君たちを見捨てたのか」


「そんなの、分かるわけ──」


「──足手まといは、いらないんだよ。スキルもなくて、ステータスも低い。そんな落ちこぼれに、余計なリソースを割く必要はない。それがあたしたちの決定」


 当たり前のように告げられた言葉に、思わずスマホを落としてしまいそうになる。たったそれだけの理由で、こいつらは僕らを捨て駒にしたのか……?


「まあ、この世界で死んでも元の世界に戻るだけって話だし、そんな心配しなくても大丈夫だよ。沙霧くんたちは一足先に元の世界に戻って、


「……っ!」


「じゃあね。そろそろ危なそうだから、もう切るよ。生きてたら、また会おうねー」


 そこで、電話が切れる。何度かけ直しても繋がらない。もしかしたら何かの間違いなんじゃないかって思っていたのに、そんな希望は容赦なく打ち砕かれた。


「……どうしろって言うんだ」


 このままだと、僕は死ぬ。あんなクズな連中に笑われたまま、化け物に喰い殺される。そんなのは嫌だ。こんなところで、無様に死んでたまるか。



 僕は、走り出した。



 この場所が、あの国の外壁からどれだけ離れているのかは分からない。それでも僕は、とにかく走る。


「……そうだ。結界の中。結界の中にさえ入ってしまえば、魔族も魔獣も追ってこれない!」


 僕は走る。この世界に来たことで、嘘みたいに向上した身体能力。周りの景色が、凄い速さで流れていく。このまま走れば、きっと逃げられ──


「キシャァァァァ……!」


 瞬間、身体が浮き上がる。足を掴まれた。


「くっ……! 離せ!!」


 ハンドガンを撃ち、必死に抵抗する。しかし駄目だ。囲まれる。逃げられない。


「グラアァァァァァ!」


「やめっ……やめてくれ! ……っ!!」


 痛みで思考が飛ぶ。足の骨が軋む。魔獣はまるでおもちゃで遊ぶ子どもみたいに、何度も何度も僕の頭を地面に叩きつける。


「っあ……!!」


 ……意識が、霞む。弱った僕の周りに、何体ものフルグルが集まってくる。死ぬ。殺される。こんな訳の分からない世界で、関係ない誰かの為に戦わされ、騙されて殺される。


「……嫌だ。来るな。来るなあああああああっ……!!!!」


 死ねば元の世界に戻る。そんな保証はどこにもない。そもそも怖いんだ。痛いんだ。なんで僕が、こんな目に遭わなきゃならない! 


「死にたくない。助けて……。誰か、助け──っ!」


 ゴミのように蹴り飛ばされ、地面を転がる。……骨が折れた音が聴こえた。口の中に血が滲む。


「グキャクキャッ!!」


 目と鼻がない異様な見た目の化け物たちが、弱った獲物を追い詰めるように、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「やめっ……くるな。くるな! くるなああああ!!!」


 最後の力で必死に叫ぶ。でも駄目だ。脚を食いちぎられる。……痛い痛い痛い! 殺すならいっそ一息で殺して欲しいのに、フルグルたちはまるでなぶるように、弄ぶように、陵辱するように、僕の身体を壊していく。



 腕を食われ、脚を食われ、もう痛みも何も感じない。



 涙が流れる。今、自分がどんな姿をしているのか、想像もできない。……したくもない。何も見えない。何も感じない。甲高いフルグルたちの鳴き声と自分の身体が壊されていく音だけが、他人事のようにただ響く。


「絶対に……許さない」


 そんなことを呟いて、僕は死んだ。沙霧 冴という小さな意識は、完全にこの世界から消えてなくなる。



 ──スキル名『死に戻り』を獲得しました。



 最期に、そんな声が聴こえた気がした。



 ────────────────────



 ステータス 狭霧さぎり さえ


 筋力  G

 魔力  F

 敏捷  F

 耐久  G

 知力  F

 変異度 G


 スキル


 獲得→『死に戻り』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る