第73話

シュバルツ達は子供が逃げたと思われるスラム街まで来ていた。


だが、子供はいくら探しても見つからない。


「ちょっといいか?」


柄の悪そうな男が話しかけてくる。


「なんですか?」


「お頭がお前さん達に用があるらしくてな。ついてきてくれないか?」


「どうしますか?」


「ここで探していても子供は見つからないでしょう。行ってみましょう」


男の案内でスラム街の奥へ奥へ入り込んでいく。


「ここだ」


男が示したのはそこら辺の家と同じような建物だった。


「見つかったかい?」


「へい。連れてきました」


「貴方は・・・」


シュバルツ達を待っていたのは仮面の貴婦人だった。


「やはり、貴方でしたか。これはお返しします」


そう言って公爵家の一員の証であるメダルを渡される。


「貴方は、こんな子供にスリをさせているのですか?」


「悪く思わないでください。ここでは自分の食い扶持を自分で稼がなければいけません。この子も生きていくために必死なのです」


「はぁ・・・。盗られた僕も迂闊でした」


「贖罪というわけではありませんがこの子を好きにして構いません」


そう言って子供を示す。


力のない子供だ。


こんな子供を罰しても何にもならない。


「この子は処罰は僕に任せてください」


シュバルツは仮面の貴婦人の裏の意味を感じ取っていた。


この子は遅かれ早かれ街の人に捕まって刑を受けるだろう。


ならば、身元を引き取り更生させるのも悪くない。


「えぇ。貴方になら任せられます。この子は女の子ですからくれぐれもご注意を」


そこでシュバルツは固まってしまった。


男の子だと思っていたのだが女の子だったらしい。


なんとか再起動して話しかける。


「何か荷物とかはありますか?」


「いえ、何もありません」


「そうですか・・・。では、行きましょうか」








城への帰り道、ミミとシズノが話しかけてくる。


「この子、どうするの?」


「メイド見習いにでもしますよ。給料は個人的に出してもいいですしね」


「きっと、お館様も事情を言えば受け入れてくれますよ」


フランはオグワールのことを信用しきっている。


公爵家の財政を考えればメイドが1人増えたところで困ることはない。


「君、名前は?」


「アンズです」


「僕はシュバルツ。これからよろしくね」


「はい。旦那様」


「旦那様?」


「私を地獄から救い出してくれた。だから、旦那様です」


「はは・・・。出来れば旦那様はやめてほしいかな」


「では、シュバルツ様で」


「うん。それでいいよ」


アンズの顔はどこか嬉しそうだった。

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