掌編シナリオ作品2022年度

鶻丸の煮付け

2022-05-11 お題「桜の木の下」

※下記の文章が書き出しとして指定されていました。

 ○桜の木の下(夕)

   一本だけ満開の桜の大木。

   肩を並べて中江涼( )と阿川晶( )

   が来て、散る花びらを見上げる。


「一年の終わり、恋の終わり」


阿川晶……20歳。男子大学生。涼のことが好きだった。

中江涼……21歳。女子大学生。死んだ晶の兄と付き合っていた。


○桜の木の下(夕)

  一本だけ満開の桜の大木。

  肩を並べて中江涼(20)と阿川晶(21)

  が来て、散る花びらを見上げる。

  桜の木の手前で阿川が止まる。涼は桜の

  木を少し通り過ぎて止まる。

  桜の木を挟むように阿川と涼が立つ。阿

  川は涼の方を向き、涼は阿川に背を向け

  ている。阿川が目線を桜から涼に移し、

  小さく息を吸う。

阿川「今日で一年ですね」

涼「そうだね。あっという間の一年だった」

  阿川が拳を力強く握る。拳が震える。

阿川「先輩、俺は先輩が好きです。この一年

 でそれを再認識しました」

  阿川、一歩踏み出す。

涼「だから、聞かせてください。先輩の答

 えを」

  阿川、涼ともに沈黙。強い風が吹き、桜

  の花びらが舞う。

阿川「ごめん。私やっぱりまだ、アイツのこと

 忘れられないや」

  阿川の強く握り締めていた拳から力が抜

  ける。

涼「晶君との一年間は本当に楽しかった。水

 族館も遊園地も、心の底から楽しかった」

  阿川、踏み出していた足を下げる。涼の

  肩が小刻みに震えていることに気付く。

涼「ごめんね、こんな私のために一年間も」

  阿川、寂しそうに微笑む。

阿川「いえ、こちらこそ一年間、ありがとう

 ございました」

  阿川、涼の背中に向かって頭を下げる。

阿川「兄のことを愛してくれて、ありがとう

 ございました」

  阿川、再び涼の背中に頭を下げる。

  阿川が涼に背を向け歩き出す。涼は阿川

  の足音が遠くなるのを確認した後、その

  場にへたりこみ泣く。

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