第12話 戸田ですわ!
お嬢様部の部室、本日も放課後に部活動であるお茶会をしていると、エリカお嬢様に手招きで呼ばれる。
何事かしらと顔を近づけると耳元で小さく呟かれた。
「ねえ、
「……」(あ、察し!)
「今、セブンイレブンでななチキを2個買うと100円も値引きしてくださるそうよ、これは買うしかないですわ」
「エリカお嬢様、今お飲みになっておられる紅茶、原価は1杯1,000円以上はいたしますが」
「えっ!やけに美味しいと思ったらハロッズのダージリンのファーストフラッシュですの!!セカンドじゃなくて!」
流石お嬢様、味の違いがお分かりになる。
戸田がティーポットから空になったカップにお代わりを注ぐと呆れたように口を開く。
「はっきり言ってエリカお嬢様のような方が、コンビニで安っぽい唐揚げを喜んでお買いになる気持ちが私にはわからないのですが」
「戸田、それはそれ、これはこれですわ」
「はぁ、わかりました。私が帰りに寄って買ってまいります」
「あ、それでしたらデザートにアイスクリンといちごがおいしい白くま君アイスも一緒にお願いしますわ」
「何でそんなに詳しいんですか!」
あら、西園寺家の侍女ともあろうものが思わずツッコミを、はしたないですわホホホ。
「それでは皆様ごきげんよう」
バタム
帰りのリムジンの中でつい心の声が漏れる、疲れが溜まってるのかもしれない。
「せめてハーゲンダッツぐらい仰ってくれるならまだお洒落なんですがね」
「戸田、ハーゲンダッツってとてもお高いんですのよ?」
「知ってますよ!庶民ですから!!」
エリカ様のお嬢様イヤーは地獄耳だ。
私が仕えているお嬢様は、西園寺財閥の御令嬢、西園寺エリカ様だ。その容姿はもはやトレードマークとも言える縦ドリルの髪型に整いすぎたお顔、形の良い82のバストにくびれた腰、スラリと長いおみ足と完璧だ、もちろん学校の成績も常に10位以内、まさに才色兼備のお手本のような方だ。
ちなみに中学ではテニスの全国大会で準優勝の成績を収めている、その時対戦相手の岡選手にお蝶夫人と呼ばれたのがとても嫌だったのかそれ以来スポーツはしておられない。
一見完璧なお嬢様なのだが、このエリカお嬢様はとにかく食に対するこだわりが半端ないのだ、美食だけならば令嬢として問題ないが、この無駄に行動力の塊であるお嬢様は下町の小汚いラーメン屋やら牛丼屋、この前なんかホルモン焼きにまで護衛も付けずにを足を伸ばしていた。
それにしても、あれだけ食べても体型がまるで変わらないのは同じ女として許せないものがありますが。
奥方様は結構注意してくださるのだが旦那様はエリカお嬢様にダダ甘なので誰もお嬢様を止めれない、最近では旦那様に
庶民の私としても多少は共感出来るのだが、紅ショウガ山盛りの牛丼を女子高生が一人で食べに行くのは一般的にもどうかとも思うのだ。
お嬢様と同年代の侍女を探していた西園寺家に雇っていただいた私、現在はお屋敷に自室を頂戴して快適な生活を過ごしている、正直実家に居る時より贅沢な暮らしと言える。
奥様になぜかお嬢様のフォローを泣きながら懇願され、お給金も大卒の会社員ほどいただいているので、親へ仕送り出来るのも嬉しい。
それにエリカお嬢様ならいずれ、系列グループの社長、いや、旦那様の後を継いで西園寺家総帥になる可能性も高い、そうなれば私の将来もますます安泰だ。
その日の夜中、屋敷の者が寝静まった頃。勉強の休憩に部屋を出るとエリカお嬢様が厨房に入っていくのを見かけた。
「またか」
ガサゴソ
「え~と、たしかこの棚の奥に料理長の隠してる……ありましたわ!」
チャッチャラリーン
「やはり夜に食べるならカロリーの低いサッポロ一番の塩ラーメンですわ!」
お嬢様がインスタントラーメンの袋を嬉しそうに掲げる。やれやれ、今日はラーメンですか。
夕食もちゃんと完食してましたよね。
「エリカお嬢様」
ガタッ!ゴン、アウチ!
「と、戸田、ど、どどどうなさったのこんな深夜にィ、な、なんでもございませんわ!お気になさらず!」
私が声をかけると、慌ててサッポロ一番の袋を後ろ手に後ずさるエリカお嬢様、一応良くない事だとは認識してらっしゃるようで少し安心いたしました。
「で、エリカお嬢様、その後ろにお持ちの袋麺は?」
エリカお嬢様は右拳を握りしめ、呟く。あら、可愛い。
「……深夜のラーメンは私の魂に語りかけてくるんですわ」
「それは幻聴ですね、病院を予約しておきますか」
「……確かに慢性化はよくないですわ」
「何が!もう、私がお作りしますからエリカお嬢様は座って待っていてください」
「あっ、牛乳で煮ると美味しいらしいですわ」
「さっき、カロリーがどうこう言ってませんでしたか」
まったく良家のお嬢様がどこでそんな知識を仕入れてくるのやら。
ズルルルルゥ~ッ
「やっぱり、牛乳で煮るとクリーミーでとっても美味しいですわ!」
「……結局自分の分も作ってしまった」
ズルル
「くっ、美味しい」
はぁ~、何で私はお嬢様と仲良く深夜ラーメンを食べてるのかしら?背徳感からか無駄に美味しく感じるのが悔しいわね。
ズルル
にしても明日のジョキングは距離を増やさないといけないわね。キリッ
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