泡沫の夢

松雪 誠

【 0 】

「さぁ少年、刮目せよ! これが世界の終わる瞬間だ!」


 そう言って、僕に背を向けていた彼女は空を指差す。

 言われるままに空を見上げると、黒く塗り潰された円が存在していた。

 黒い円は瞬く間に広がっていき、全てを黒に塗り潰していく。

 夕暮れの空は勿論、雲も、太陽さえも飲み込んで、黒は徐々に範囲を広げている。

 世界の終わり。

 その瞬間に立ち会った僕は、ただただ圧倒されていた。

 当然だ。

 僕は特別な存在じゃない。

 こんな超常的な出来事を前にしても、見ている事しか出来ない。


「少年よ。あの時の質問の答えを、改めて聞かせてくれるか?」


 僕は視線を下ろして彼女を見つめた。

 艶のある長い黒髪と白衣をなびかせながら、彼女は僕の方を向く。

 彼女は静かに僕を見つめ返していた。

 その一切の曇りもない瞳に僕を映しながら、彼女は待っている。

 僕の決断を。

 彼女と出会ってから、ずっと考えさせられてきた。

 その集大成を。

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