第17話 私も……リアムのこと、好きかもしれない
「オフェリア、どこに行ってたの」
寮に帰宅早々不機嫌丸出しなリアム。
どうやら魔法薬の効果が切れたおかげで、色々と思い出したらしい。
「別に」
本当は普通に何事もなく出迎えようと思ったが、どうしても先程の光景を思い出してしまい、つれない態度を取ってしまうオフェリア。
リアムに悪気はなかったかもしれないが、それでもすぐに許す気にはなれなくて、オフェリアはそっぽを向いてしまった。
「何で怒ってるの? ……もしかして泣いてた?」
「触らないでっ!」
顔に触れようとしたリアムの手を咄嗟に払いのけてしまってから、「あっ」と自分の行いを悔いるオフェリア。
そんなことするつもりはなかったのに、親衛隊のメンバー達に触れられたと思うと、つい生理的嫌悪で拒絶してしまった。
「オフェリア?」
「ごめん。でも、ちょっと放っておいて」
自分の感情なのに、どうにも抑えられなかった。
感情をコントロールすることはエージェントとして必須要素だ。
それなのに、これではエージェント失格だと思いながらも、今すぐどうこうするのは難しく、だからこそせめて落ち着く時間が欲しかった。
けれど、リアムはそれを許してくれなかった。
「嫌だ」
リアムが距離を詰めてくる。
オフェリアは困惑しながら後退るも、さらに距離を詰められた。
「リアム」
「オフェリアはすぐに抱え込むっていつも言ってるでしょ。もっとちゃんと僕に言ってよ。嫌なことがあったなら、気に食わないことがあるなら、隠さないで飲み込まないで全部言って」
リアムの言葉に黙り込むオフェリア。
勝手に自分で抱え込んで、問題を昇華するまでモヤモヤとしてしまう癖があるのは自覚していたからだ。
「言ったでしょう? 僕はオフェリアがいないとダメだって。お願いだから僕を嫌いにならないで」
縋るように抱きしめられる。
またしても先程の親衛隊の子達のことが過ぎって身体を離そうとするも、それは許さないと言わんばかりに強く抱きしめられた。
「リアム。離して」
「嫌だ」
「子供じゃないんだから」
「だって、離したらオフェリアはどっかに行くでしょう。それは嫌だ」
まるで駄々っ子な子供のような振る舞い。普段は澄まして余裕ぶっているくせに、オフェリアのこととなるとリアムは途端に弱くなる。
そして、オフェリアはオフェリアでそういう振る舞いをされると強く出られないのだった。
「行かないよ。……リアムが、親衛隊の子達とくっついてるのが嫌だっただけ。だから、別にリアムのことが嫌いとかそういうんじゃない」
「ごめん」
「謝らなくていいよ。リアムはリアムで考えがあってのことだってわかってるし」
と言いつつも納得できていないオフェリア。
分別があるようなことを言いながらも、本心では納得していないという天邪鬼な性格に、自身でも辟易していた。
けれど、どうすることもできなかった。
「でも、オフェリアは嫌な気持ちになったんでしょう? だったら、もう少し彼女達との接し方をどうにか考えるよ。オフェリアに嫌われたくないし」
「まぁ、そうしてくれると助かるけど」
リアムの言葉にホッとしながらも、なんて自分は察してちゃんなのだろうかと自己嫌悪する。なんだかんだ言いつつも、リアムに頼ってばかり、甘えてばかりな気がして、自分の至らなさを痛感した。
(もっと素直に言葉にできたらなぁ)
実際、素直に気持ちを吐き出しただけでちょっとだけ心が軽くなった気がする。
今までずっと勝手に溜め込んでモヤモヤして、何でもないフリをして、それで悪化して、と繰り返していた自分がなんだか滑稽に思えてきた。
「それで泣いてたの?」
リアムの指摘に、はたと我に返る。
今のオフェリアの説明ではどう考えてもリアムにくっつく親衛隊に対して嫉妬しているようにしか思えないことに気づいた。
「違っ! 親衛隊の子達に酷い嫌がらせされて、ちょっと感傷的になっちゃったの。別に、リアムが親衛隊の子達とくっついてたからとか泣いたわけじゃなくて」
「ふぅん?」
「あ、こら! だから違うんだって」
「でも、オフェリアがヤキモチ妬いてくれたのは嬉しいな」
「だから、そういうのじゃなくて……その……」
言いながら、じゃあどうだったんだろうと自問する。
リアムに対して親衛隊の子達が仲良くしているのを見ると、無性に苛立って不愉快になるのは事実だった。
リアムは確かに自分に好意や愛情を向けてくれているのはわかる。日頃の行動から見ても、浮気の心配もないだろう。
それでも、リアムが他の女の子と一緒にいるのは嫌だった。
「僕はオフェリアのことが好きだよ」
追撃するように耳元で囁かれる。
ガバッと顔を上げると、整った顔でニコッと微笑まれた。
(ズルい)
不意打ちにドキドキする。
オフェリアの反応に満足そうに微笑みながら、リアムは意地悪い笑みを浮かべるでもなく「可愛い」「大好き」とどんどんと言葉責めしてきた。
「リアム」
「照れてるオフェリアも可愛い。嫉妬してるオフェリアも、誰かのために頑張ってるオフェリアも、全部好きだよ」
「〜〜〜〜っ」
これでもかというくらいの追い討ちに、自分の強みと相手の弱みをわかっていての確信犯だとわかる。
それでも、オフェリアは抗えなかった。
__相手にドキドキしたらそれは好きの合図です。あと、その相手と他の異性が交流してるのを見てイライラしてるのも好きなサインとも言えるでしょう。
以前ジャスパーに言われたことを思い出す。
相手の行動にドキドキして、他の異性との接触にイライラするのは……。
(好きなサイン)
自然と湧き出る感情。
好意を向けられて、愛を囁かれて、大事にされて。それで好きになるなというほうが無理だと気づいた。
(あぁ、なんだ、私。……もうとっくにリアムのことが好きなんだ)
言葉にすると、ストンと胸に落ちる。
ずっと燻っていた想いは、言葉にしただけで簡単に昇華できた気がした。
ずっとぐちゃぐちゃに考えて好きになろうと努力して。
あぁでもない、こうでもない、とごちゃごちゃ自分に言い訳して。
でも、本当はとっくにリアムのことが好きだったのだ。
「私も……リアムのこと、好きかもしれない」
ポツリ、とオフェリアが呟くと、「え!?」という言葉と共にさらにキツく抱きしめられる。オフェリアが顔を上げると、耳まで真っ赤に染まったリアムがいた。
「リアム、顔真っ赤」
「だって……っ! え、今オフェリア僕のこと好きって言った?」
「言ったよ。リアムのことが好きだって」
仕返しとばかりにオフェリアもリアムへの好意を言葉にする。あれほど云々と好きについて悩んでたはずなのに、一度言ってしまえばあっけなく口にできた。
「リアムが好き」
「オフェリアが、僕を好き……あ、今更冗談とか言うのはナシだよ? 言質取ったからね」
「信用ないなぁ」
念押ししてくるリアムに思わず苦笑する。
すると、リアムは焦ったように弁解した。
「そういうわけじゃなくて。僕なりに頑張ってたつもりだけど、オフェリアにはあんまり刺さってないというか僕だけ空回りしてるというか」
「それは、なんかごめん」
「でも、すごく嬉しい。いや、すごくどころじゃないくらい嬉しい」
「そんなに?」
リアムはもっと淡白に「やっとか」くらいの反応かと思ってたのに、想像以上に喜んでくれてなんだか逆に申し訳なくなってくる。
これならもっと早く言葉にしておけばよかったと今更ながら思った。
(そういえば、リアムも言葉にしないと意味がないって言ってたしな)
変なプライドやしょうもないことを考えてないで、素直に気持ちを伝えていれば勝手にヤキモキしなくて済んだのかもしれない。
けれど、一度口にするだけでこんなにハードルが下がるだなんて、オフェリアは思ってもみなかったのだ。
「もう離さないし、離れないからね」
「それは今までと一緒でしょ」
「そうかもしれないけど、違うんだよ」
リアムが不貞腐れたように言う。
そんなリアムが愛しくて、ギュッとオフェリア自ら抱きつくと、リアムが身体を硬直させた。
「オフェリアが積極的すぎてどうしよう。心臓もたないかも」
「何言ってるの。今までももっとくっついてたでしょ」
「そうなんだけど……っ! それくらい僕にとっては嬉しくて」
確かに、リアムの鼓動は今までにないほど早鐘を打っていた。
「落ち着くために離れる?」
「それは嫌だ」
「ワガママだなぁ」
「オフェリアの前だけだよ。いいところも悪いところも全部見せられるのはオフェリアの前でだけ」
目が合うと自然と引き寄せられて唇が触れる。以前とのキスとは違って、甘くて熱くて蕩けてしまいそうなほどのキスにオフェリアは酔いしれるのだった。
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