第17話 ある嵐の夜の出来事

 ハンナ・リーはその日、突然入った仕事のために帰宅が大幅に遅れた。

 しかし待てども待てども予約した緊急患者は現れず、結局、ハンナ・リーは深夜に、それもかなり遅くなってから研究室を離れ、大学を後にした。

 その頃、世界中でコロナ・ウイルスが猛威をふるていた。中国で最初に発生して世界中に広まったことから、アメリカでは中国人が人々の恨みを買い、憎しみの対象となり襲われることもあった。

 コロナ禍のアメリカで、アジア系と思われる女性が、深夜に一人で出歩くことは危険極まりないことだったのだが、その日は、用心深いハンナでもどうすることも出来なかった。


 ハンナは後ろから近づく足音に気づき、言い知れぬ恐怖に襲われた。

 ハンナはその恐怖から逃げようとしたが、それは無駄な抵抗だった。

 そしてハンナが最後に見たもの、それは・・・


 その夜、街は今まで出会ったことの無いようなひどい嵐に見舞われた。

 そしてハンナは翌朝、嵐が去り朝の静けさを取り戻した大都市の街中で、雨に濡れた路上に息絶えた姿で発見された。

 あまりに残虐な変わり果てた姿に、駆けつけた警察官も目を背けた。

 しかしその事件はなぜか上からの指示により、コロナ禍のアメリカでアジア系住民が狙われた不幸な事件の一つとして扱われ、そのままきちんとした捜査もされないまま迷宮入りとなった。

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