6
なつめは抵抗しなかった。ただじっと、俺が唇を離すまで動かなかった。
いちにいさん、と数えて三秒。俺がなつめを離すと、またなつめは漫画の世界に戻って行った。
俺はそんなにいつもの通りではいられなかった。そわそわして、じっとしていられない。漫画本を閉じたり、開いたり、腰を上げたり、下したり、髪を搔いてみたり、なつめの顔を横目で見てみたり。
しばらくすると、なつめが面倒臭そうに眉を寄せて漫画本を閉じた。
「なに、お前。」
「なにって……、」
「集中できない。帰れよ。」
「……。」
「なんなんだよ。」
「……怒って、ないのか?」
「なにに?」
呆れたようななつめの短い台詞。
俺はなんと言っていいのか分からず、ただなつめの顔を見ていた。滑らかな曲線で構成された、お母さんによく似たなつめの顔を。
するとなつめは、なにかを諦めたように長い息を吐いた。
「なかったことにしようとしてるんだけど。分からない?」
これまで俺が訊いたことのあるなつめの声で、最も冷たいそれだった。
俺は言葉が出てこなくて、酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせた。
そんな俺を、なつめはしばらく無表情で眺めていた。なんとも言えない、重苦しい時間が流れた。
それを破ったのは、なつめの軽い笑い声だった。
「言葉出なくなると、いつもそれやるよな。」
笑われた俺は、ぱくぱくしていた口をぎゅっと一文字に結んだ。するとなつめは、ますます笑った。
そして、笑ったままの唇で言ったのだ。
「明日、お前んち行くよ。ゲームしようぜ。」
うん、と頷いた俺は、なつめの隣で漫画を読んだ。会話はなかったけれど、それはいつものことだった。
翌日、なつめは本当に俺の家にやってきた。いつものように昼飯を食い終わった時間に、ふらりと。
「よう。」
軽く片手を上げたなつめに、俺も同じ言葉を返した。そして階段を上がり、いつものように俺の部屋に入った。それから、いつもならテレビの前に座り込んでゲームを始めるところなのだけれど、俺たちはそうしなかった。
俺たちは、並んでベッドに腰掛けた。そして、なつめが黙ったままシャツを脱いだ。
俺はなつめの真意が分からず、その目を覗き込んだ。
なつめはふっと笑い、俺の目を見返した。目と目を合わせてみても、俺にはなつめがなにを考えているのか、全然分からなかった。
分からなくて、分からないまま、俺はなつめをベッドに押し倒した。
なつめは倒されるがままに倒され、俺の首に腕を回すと、キスをした。昨日のキスとは、違う味がした気がした。
そのまま俺となつめはセックスをした。それも、その日だけにとどまらず、夏休みの間、毎日のように。
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