夏野菜のラタトゥイユ


「「いただきます!」」


 俺とアイラは菜園から持ち帰った野菜で料理を作った。

 目の前で湯気を上げる料理は実にうまそうだ。


 皿に盛られた料理は、白身魚に夏野菜のソースがかかっていた。


 ソースは大きく切ったゴロゴロ野菜がたっぷり入っている。

 この野菜のソースだけでも十分食いでがありそうだな。


 ちなみに白身魚は、アイラが俺の横で調理していたものだ。

 彼女は魚の切り身に小麦粉をまぶして、バターで揚げ焼きにしていた。


 料理はバターとトマトの香りが混ざり、とても食欲をそそる。

 シェルターでこんな豪勢なものが作れるなんてなぁ。


「うまそー!」


「ところでこれってなんて料理?」


「知らねー!! ルイもわからないのかー?」


「お、お姉様が作ったのでは」


 サオリは俺の方を疑わしげに見る。


 彼女は体が大きいために、イスなしでテーブルについている。

 そのため、サオリは座っている俺を上から見下ろしていた。


 彼女の表情は、別に怒ってるわけではない。

 でも、上から見られると怒られているように錯覚してしまう。

 俺はつい、恐縮しながら答えてしまった。

 

「だって、アイラの言うとおりにやっただけだし……」


「シュシュ! お姉様はちゃんとしてたでしゅ!」


「そ、そう?」


「リーは潰しちゃうし、わ、私はそもそもキッチンに入れないから

 すごい、その……助かりました」


「それなら良かったんだけど」


 俺がしたのは、野菜切ってフライパンに入れただけだ。

 味付けとか難しいのは全部アイラにお任せした。


「これは『白身魚のラタトゥイユ』でしゅかね?

 このお野菜のソースをラタトゥイユって呼ぶでしゅ」


「へぇ、おしゃれな名前してるなぁ」


「冷める前に食べようぜー!!」


「おっと、そうするか」


 俺は食器を手に取り、ラタ何とかに手を付けることにした。

 しかしまぁ、魚に野菜か。


 野菜を食べるなんて、いつぶりだろう。

 こんな人間味のある食事はひさしく見ていない。


 奪い屋をやってた時の食事は悲惨だったからな。

 コンビニ飯がほとんどで、普段はレトルトばっかり食っていたからな。


「……ッ!」


 ――いや、旨くね?


 料理を口に運んた俺は、味に驚いて目を見開く。


 魚と野菜だけなので、さっぱりした味かと思いきや……。

 違う――むしろその逆!!


 野菜のソースは、力強い味をしていて、どろっと濃厚だ。

 ハンバーグソースのような、油ものとは違う濃厚さを持っている。


 魚がまとったバターの旨味に、トマトの酸味がいいアクセントだ。


 ああ、もっと欲しい。

 口に料理を運ぶ手が止まらない。


 俺はひとつのマシーンと化している。

 魚を切り分け、野菜のソースとからめて口に運ぶ。

 この一連の動作を再現するだけのマシーンだ。


 おお、アイラさん。

 なんというものを食わせてくれたんや!!


 これは野菜と魚の奇跡のアッセンブルやでぇ!!


「ルイねーちゃん、腹減ってたんだなー!!」


 あっ。

 見ると俺の皿だけ、異様に減りが速い。

 は、恥ずかしい……。


 量だけでいえば、リーが一番多くもらっている。

 しかし皿の中身で見ると、俺の分がまっさきに無くなりそうだった。


「オレのぶん、ちょっと分けようかー?」


 そういってリーはスプーンで料理を持ち上げる。


 スプーンは、彼女が使っている皿に見合った大きさだ。

 皿っていうか洗面器だけど。


 スプーン一杯で俺のひと皿くらいあるんじゃないかな。


「ああいや、そんなたくさんは要らないかな」


「ふ、ふふ……尊い」


「ご飯を分けるなんて珍しいでしゅ!」


「そうかー? そうかもー!」


「お、おっきなリーがお姉様を気づかう。

 美女と野獣……フフ」


「ん、いまさらだけど、魚? ここでは魚も飼ってるのか?」


 農園に生けみたいなものはなかったと思う。

 この魚はどこで手に入れたんだ?


「し、下の方で飼ってる。水浴び、お風呂のときも、し、下に行く」


「お風呂? あ、この部屋ってもしかしてお風呂がないのか?」


「しゅしゅ! ありましゅけど……私とサオリには小さすぎるでしゅ」


「あぁ、そういうことか」


 確かに彼女たちの体は、人間に比べるとかなり大きい。

 アイラの上半身は人間サイズだが、下半身のヘビの部分は大きい。

 ヘビの部分だけで浴槽からはみ出るだろう。


 サオリさんもクモの部分が大きいから、風呂には入れそうにない。

 

 この部屋の風呂が使えるのは、比較的大きさが人に近い人だけ。

 つまり、俺とリーだけってことか。


「お風呂はちゃんと使えましゅから、入って大丈夫でしゅよ!」


「ルイのねーちゃん、いっしょに風呂入ろうぜ―!!」


「え、一緒に?!」


「おう、これ食ったらな!!」


 そういってガツガツと食事のペースを上げるリー。

 アイラにたしなめられる彼女を見ながら、俺は内心困惑していた。


 リーと一緒にお風呂だって?

 まさかの展開だ。

 そう来るとは思わなかった。


「しょの……燃料と水は節約するよう、シヴァしゃんに言われてましゅので、

 できれば一緒に入ってくれるとありがたいでしゅ」


「わ、わかりました。そういう事なら仕方ないですね」


 お、女の子とお風呂かぁ……。

 トラだけど。





※作者コメント※

オイオイオイ

この作者「癖」が強いぜ……

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