46話:誰かの記憶〈2〉
『ふむ、せっかくだ⋯⋯また旅でもしよう』
しかし視界には血とありえない方向へと曲がった四肢の人間が映る。
なら、今回は人間の街へ行ってみよう。
前回は偶然だったからな。
私の愛する黄金の木が並べられている林道を抜けると、あふれる程の骨がそこらじゅうに散らばっている。
⋯⋯確か。
少し考える。
あぁ、だいぶ前に死んだ人間たちの骨か。
はぁ、記憶力が低下しているな。
まぁいいだろう。
***
人間の街についた。
探す必要もなく近くにあったので、私はすぐに入口らしきところに向かい、中へ入ろうとする。
しかし入ろうとする私を、変な格好をした人間の男が私の姿を見る。
すると次は『身分証は』と言ってくる。
『身分証はない』と当たり前に伝えると、男たちは眉をぴくっと上げる。
そして次に発したのは、ならば入れないという言葉だった。
⋯⋯どうしよう。
そう思った時、知らない男たちが私を見るや、いきなり嬉しそうに声色を変えながら何やら男たちに話している。
見たことないはずだが、見覚えがあるような。
あぁ、彼らの顔は見たことがあった。
昔に木が欲しいと言ってきた者たちだ。
随分と体がたるんでいるように思う。
あの木はオドには及ばないが、品質の良い金を生み出したりできる私の力を込めた愛情たっぷりの苗だったから、良い生活ができているのだろう。
そう思って眺めていると、一斉に人間たちが地面に腰を落とし、こちらに向かって平伏の姿勢で⋯⋯『貴方様に対してなんて失礼な言葉遣いを』と必死に言ってきた。
そんなに気にはしていないのだが、入れるならそれで良い。
入れるのかと聞いてみると入れそうだったので、私は人間の街を見てみたいから来たと言うことを伝えた。
どうやら人間の街に入るには、身分証なるものが必要らしい。
なるほど。力がないと警備にも力を入れなければならないということだろう。
私が悪いと言えば悪いのか。
ならば仕方ないのかもしれない。
『おぉ⋯⋯壮観だ』
今まで私は自然の景色しか目にして来なかったが、こうして人間の作った町並みを見るのは10年ぶりだろう。
以前のような薄暗い町並みは卒業し、あちこちに人々の笑みが渦巻いている。
楽しそうな人間の声がオドを通じて私にやってくる。
⋯⋯楽しそうだ。
『神様、何かお口にしたいものでもありますでしょうか?』
そうだな、人間たちが食べているものの代表物でも聞いてみるとしよう。
『人間たちが一番食べている食事を私にも出してくれ』
これくらいなら誰も困りはしないだろう。
私がそう言うと急いで準備をしてくれ、すぐに椅子に座った。
『どうぞ! こちらが私達の街で一番の食事です!』
味付けを施した肉に野菜、そしてしっかりと素材を活かした汁物が並んでいる。
⋯⋯あの時の人間達からすれば、どれほど渇望した物だったのだろうか。
一口味わう。まずは肉から。
私が作った肉よりも遥かに美味い。
身体が喜んでいると錯覚するほどの肉汁と、適度に噛みごたえがあり、丁度よい固さ加減がこの素材の一流さを表現されている。
野菜も新鮮で良い。
特殊なやり方で作成した液体に様々な野菜が合わさった物。
どれも美味で中々に満足だ。
『汁物も美味だ、素晴らしい』
『ほほっ!そうですか! 我が町一番の料理人に作らせた一般食でございますゆえ!』
料理人か⋯⋯中々良いモノだな。
私も今度オドを使った料理人を創ってみよう。
『人間は⋯⋯』
『⋯⋯どうかされましたか?』
『私は、悪魔なのだろうか?』
つい数時間前に怒鳴られた私は若干気にしていた。
何がかは理解できないが、私に悪魔というのだから何か理由があるのだろう。
『そんな事、どこの誰が申したのですか!!』
『数時間前に、女の人間が泣きながらやってきたんだ』
『その不届き者が貴方様を悪魔だと?』
変な理由もあるわけではないから、私はそのまま素直に頷く。
すると、私の住む山に身元確認したいと言うので、勿論許可する。
何かがあったのかもしれない。
人間は感情が発達していて、何か私が嫌な感情を引き立たせたのかもしれないから、謝る訳ではないが理由くらいは聞いてみようと思った。
『そんな神に対してそのような非道な言動、一族諸々処すべきです!』
そこまでする必要はないだろう?
何か私に対して行動を起こす理由があったのかもしれないから。
『問題ない。何か理由があったのだろう。私も、長い間人間社会に馴染んでいなかったから私の行いに非があったのだろう』
『神よ、そのよう事を仰らないでくださいませ! ⋯⋯なりません!』
一人がそう断言する。
『私はただ、人間たちが困っていたから手を差し伸べたのだが、何を理由にそこまでの事を言われるのかが気になっただけ。もしかしたら私が悪魔と言われる理由があるのかも知れない』
すると後ろの方で男に報告をしている兵士がいた。
聞こえないようにしているのだが、私には全て聞こえている。
(実は)
(なんだ?我らが神より大事な事があるのか?)
(身元が割れました。相手は隣国のアヘトのようです)
(ふん、アヘトの奴らめ、我が国を恨んでいるのか? しかも武神に向かわせたはずだが、残党を残したのか?)
(⋯⋯そのようです)
隣の国の人間なのか。
そして恨んでいるという発言から、この国は発展して戦争でもしていたのだろうか。
武神と呼ばれる男がアヘトへと向かい、相手を殲滅したと。
ほう、武神が現れたなんて⋯⋯この国は随分良き発展をしたのだな。
『神よ、失礼ながらお聞きしたいのですが』
『どうかしたのか?』
『神にお名前はあったりしないのでしょうか? 石碑や像に神の名前がないと、皆も困ってしまっているのです』
『神とはなんだ?』
『か、神は全知全能の存在でございます』
確かに近くはあるが、私はその観点で言うと神ではない。
『私に名前がない。それに、私はその話で言うと神ではないのだが』
『何をおっしゃいますか!神よ! 我が一族をお救いになられたのが、貴方様でございます。ここで我らが神を崇めるために土地を広げ、やっとこの国も安定し始めました! 貴方様が分けてくださった木も──ご覧ください!』
男の言う通りその方向へと目を向けると、巨大な黄金の木が粒子を撒き散らしながらそびえ立っている。
あの苗がここまで巨大になるなんて、チレンくらいはあるな。
※(50mは超えている)
『貴方様のお陰で、ここまで私達が進化することができたのです!』
『そうなのか、それはよかった』
──ジジ。
──ジジ。
ノイズが脳内を走り回る。
『コウセイ!!』
⋯⋯??
あれ? 今まで何してたんだ?
「あれ? アルカ」
『大丈夫だったか? 凄まじいオドの吸収率じゃった!人間ではありえない量だったが、大丈夫か? 本当に?』
アルカが心配の表情をしながらこちらに声をかけてくれているのだろうが、俺の頭はそれどころではなかった。
あの記憶の人たちは誰だったのか、そして、顔も何も分からない自分の視点だった神と言われた男は何者だったのかが頭の中をかけ巡った。
にしても一番良いところで終わってしまったけど、結局あの続きが気になってしまう。
『だからコウセイ──』
「ごめんアルカ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『どうしたきぃ?』
「アビロニアって知ってる?」
『⋯⋯当たり前きぃ? ここはアビロニアだった場所なんだから』
⋯⋯え?
「ここがアビロニアだって?」
『何を言ってるんだきぃ? コウセイ、コウセイはこの辺の人間じゃないのかもしれないきぃな⋯⋯アヘトか、コリンくらい遠い場所かもしれない』
アヘトって、確か⋯⋯。
「ねぇ、神って言われた存在は⋯⋯いる?」
もし、本当なら⋯⋯。
『んん? いたきぃよ。もうこの国にはいないきぃらしいが』
「何処に行ったの?」
『この星から消えてしまったと伝えられているきぃ遥か数万年前の話きぃだけど』
「歴史書とかあったりする? それか言い伝えられている話でもいい!」
『やけに必死きぃな、どうかしたのきぃ?』
馬鹿正直に神だと言われた男の記憶が自分の今までの時間で途中まで見たと喋った。
アルカは俄に信じがたい話ではあるが、喋った内容はほとんど事実らしく、俺が見た記憶が嘘ではないことが判明した。
『そうか、やはり実在したきぃな』
「それから、どうなったんだ?」
『実は、アビロニアにかつてあったという黄金の木は、黄金を無限に生み出すという特別な木であり、そして話したその力は今、お主に継承最中の武神が残したオドの心法で、陶芸品と言われたものは、様々なゴーレムなんかの産物を無限に作る事ができる特別な神物だったきぃ』
「そ、それで?」
『武神と言われる男──その名をオルビスという。存在していたオルビスは力を得た後、恨みを買った者たちに家族を奪われ、怒りに任せて一つの村を破壊し、別人のように生まれ変わって軍を作ったと言われているきぃ。
世界中がその産物を欲しがったが、神の恵みが宿る力には勝てず、全ての憎しみがこの国に矛先が向いて、大戦争が起こった。結果、大陸には神が住んでいたという場所以外全てが荒れ果て、生命体は全てその神によって殺戮の限り尽くされた。怒りを買ったということできぃな』
⋯⋯ただのダンジョンじゃない。
なんなんだここは。
確かユニークダンジョンの時、騎士オルビスって⋯⋯
『今日の所は一旦止めにしようきぃ』
「そうだね、ちょっと色々整理もしたいし⋯⋯」
それから村に戻るのだが、アルカの視線が妙に尊敬の念が入っているのはあえて口に出さなかった。
*
コウセイ、先程の言葉から、身体中にオドが吸収の限りを始めているきぃ。
こんな事、何千年生きている儂ですら見たことがない程の量きぃ。
もしかしたら⋯⋯目の前の人間は、神の生まれ変わりなのかも知れない。
アルカは煌星を横目に村へと向かった。
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