21話:偶然と言う名の運命

「ど、どうかされましたか?」


 つい勢い良すぎて前に行き過ぎた。


「ああ、すみません」

「大丈夫ですよ」

「これは出来るだけ内密にしたいんですけど、大丈夫ですかね?」

「内密⋯⋯ですか?」

「ええ、プチ相談なので」


 さて、どう聞くのが一番良いんだろうか。

 

「分かりました、場所を変えましょう」


 三神さんの計らいで別室に案内してくれた。

 場所は初心者受付の奥にあったゲートのある部屋。そして、その裏にあるギルド職員の方たちが待機する部屋(実質三神さん専用らしい)だ。


 部屋は事務用で使っている部屋だからか、机と椅子以外何もない簡素な部屋だ。

 三神さんが用意してくださった椅子に座る。


「それでプチ相談とはなんでしょうか?」

「あ、頂きます」


 淹れてくれたコーヒーを一口頂いてから俺は話を始めた。


「一旦ルートなどは置いて話させていただきます」


 ここで肝心な所は黙りつつ、直球なところはどストレートに行こう。


「金の素材相場を知りたいんです」

「なるほど、黄河さんの言いたいことがわかりました」


 三神さんはそれからカタログのようなものを持ってきて正確に文字に起こす。

 大体4分くらい、三神さんは黙って調べてくれた。

 終わると三神さんはこちらへ向くが、その表情は真剣そのものだ。


「まず、先に言っておかなければならないのですが、ギルド職員としては、Bランク素材以上の売却に関しましては色々お聞きすることが増えます」

「というのは⋯⋯」


 俺の言いたいことが分かったのか、三神さんは頷きながら続ける。


「ルートや発見してたまたま見つけたという場合は、見つけたダンジョンと具体的な場所が必要です」


 ⋯⋯終わった。なら俺にはまずどうしようも出来ない。


「なるほど、それを通過しないとやはりギルドでは厳しいというわけですか」

「そうなりますね。しかし、特殊な場合はまた別です」

「特殊な場合?」

「"スキルでの生産"、またはダンジョン内で"突如発生した異常事態"での入手です」


 その時──三神さんの表情はとんでもなくこちらの出方を伺っているように見えた。

 思わず全身の肌がワッと震え上がったような感覚。


 まさか、バレているのか?

 いや、待て待て。三神さんは最初俺の謎のスキルを見ていなかった。

 ⋯⋯問題ないはずだ。


「正直に話します。先程話したダンジョンで金を見つけました」

「やっぱりそうですか」


 三神さんが溜息混じりに呟いた。

 危ねぇ⋯⋯スキルがバレたのかと思った。

 てことは、俺のスキルがバレたわけではなく、おそらく俺がそのダンジョンについて何か隠していると三神さんは踏んでいるということで間違いなさそうだ。


 ⋯⋯これなら上手く話をそらせるかもしれないが、問題はあの墓場に他の人間が行けてしまった場合⋯⋯俺の嘘が確定になってしまい、今後の身の振り方が地獄になってしまうということだ。

 しかし現状で今の意見以外押し切ることはムズすぎる。


「ユニークダンジョンで何もないなんて嘘だと思っていました。報酬はなんでした?」

「報酬⋯⋯というか、攻略すらしていません」

「あ、キラーラビットの角の依頼で行ったということですもんね。本当に不思議です」


 しかも既存のダンジョンなんだろう? 


 "なんで俺が入った時にそうなったんだ?"


 ええい、もう諦めて行くしかない!


「はい、それでその墓場の近くに小さい金っぽいのがありました」

「なるほど、そういうことですか。ならおそらく問題ないと思います」

「相場とかってどの程度になると思いますか?」

「一応ギルドで提示しているのはコチラですね」


 そう言って三神さんはカタログにある単位辺りの値段を見せてくれた。

 やっぱり質が高ければ高いほど上がっていくのはいいんだが⋯⋯買取屋よりも数倍違うんだけど!?


 え? 3gで五万!? マジなら全然ヤバイんだけど!?


 いや待て、焦るな。

 ギルドで売るのは1回きりにした方がいいだろう。

 確証を得てからじゃないと。


「なるほど、ありがとうございます」

「お売りになりますか? いや、売ってくださいませんか?」

「ど、どうしたんですか?」


 近い近い! 三神さんがこんな必死になってるということは⋯⋯相当金は価値があるということでは?


 まぁ、確かに⋯⋯冒フルでも金貨100枚くらいドカンと入れたら1000万以上振り込まれてたし。

 おそろっし──。


「ご、ごめんなさい。つい動揺して」

「と、とりあえず査定だけでもしてもらえますか?」

「はい!ぜひ!」


 この会話を直後、俺達は一旦ギルドカウンターへと向かって通常の査定と同じ取引の手続きを踏んだ。

 

「では、査定はこちらの⋯⋯」


 三神さんが驚きの表情を隠せずにいる。

 しかし仕事ということもあり、頑張って平静を装いながら金のナイフ二本受け取った。


 あれ金貨だった時よりヤバ──


 ガンッ!! とその時カウンターの上で三神さんが金のナイフを貰ったお椀型の状態でカウンターに沈んだ。


 状況の分からない俺は急いで三神さんに尋ねる。


「どうしました!? 大丈夫ですか?」


 受け取り損ねたとかではない。

 まるで突然重いものでも置かれたように、そのまま垂直落下したみたいにカウンターへと沈んだのだ。


「これ取ってください!」


 俺は慌ててナイフを回収する。

 

「ん?どうしたんで──」


 三神さんが俺を見るその目は、まるで化物を見るかのように怯えた様子すらみせていた。

 俺がドキマギしていると、三神さんが慎重な口調で


「こ、黄河⋯⋯なんで持てるんですか?」

「え? なんの事ですか?」

「重すぎて両手でもギリギリだったのに、そんな平然と片手で⋯⋯」


 ⋯⋯??

 どういう事だ? 全く言ってる事がわからないぞ⋯⋯?


「コレの事ですか?何もないですよ?」


 俺はひらひらとナイフを揺らしてたり手首を動かしたりしてみるが、特に異常はない。


「ちょ、ちょっと待ってください。一旦分かりました」


 そう言って査定の手続きがスタートした。

 色々何かをしている中、俺の肩をポンポンと叩かれ、思わず振り返る。


「ごめん、ちょっといいかな?」


 口調は爽やか。かといって垣間見える高圧的な感じでもない。純粋な話かな?


 それとも、オイゲンの話だと勧誘かな?


「構いませんよ、クランの話ですか?」


 俺は謎のフードを被った男に連れられて、端っこの方にあるベンチに座った。

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