16話:え?そんな事あるの?

 それから一日掛けて俺はオイゲンと共にサブ垢のレベリング及び、自分のやりたいことも終えた。

 終わった時刻、約夜の11時半。


"いやー気分が良い"


 そうそう、コレだよこれ。

 この余裕のあるダラダラしながら過ごす生活がしたかったんだよ。


「オイゲン、そういえば冒険者活動は手広くしているの?」

『んー、そう言われると難しい所だが、まぁ最近は手広くしているというのが正しい言い方かなと思う』

「突っ込んでいいのかわからないけど、何がメインなの?商売なのか、攻略なのか」

『最近は後進の育成とか、金勘定を数えたりしてる方が多いかも』

「オイゲンすげぇじゃん、モンクの時は全力突進なのに」


 揶揄うように言うと、うるせぇと恥ずかしそうに返事が返ってくる。


『で? そっちこそ。折角始めたのに、ダンジョン攻略はしないのか? 今一番冒険者としては楽しい時じゃないのか?』

「まぁ、そもそも金稼ぎがいいからってので始めたからさ、冒険とかは命懸けだし、ある程度でいいかなって」

『まぁそれもそうか。激化してるとはいえ、半分以上はそんな感じだよ。間違いではないわな』

「この間だってまたダンジョン内で問題が起きたんでしょ?」

『あぁ』


 ネットニュースでもかなり話題になった話だ。

 ダンジョンの等級は冒険者等級と同じという前提で話を進めるが、その話題となった場所はCランクダンジョンだった。

 そのダンジョンは新発見された新しめのダンジョンで、色んな勢力が同時に突入していた。


 そして、案の定。

 ダンジョンで数人の死体が見つかった。

 素性を調べると対立クランの人間だったということがわかり、今も現場にいた連中はもれなく事情聴取を受けている。


 ダンジョン内ではルールが無い。

 設定してしまえば⋯⋯色々な問題を誘発してしまう可能性があるからだ。


「俺もあの事件を読んでから更に行く気無くなったよ」

『ああ、確か初心者ダンジョンでしかまた行ってなかったんだっけか?』

「うん、他のダンジョンへと行ったほうがいいって言われたのと、注意喚起の連絡が来たんだよ」

『どんな?』

「なんか、俺が無差別にモンスターを倒し過ぎて、他の冒険者たちがクレームを言ったらしい」


 するとその直後、スマホ越しにオイゲンの引き攣ったような声が聞こえた。


『トリトン、お前凄いぞ⋯⋯』

「なんで? どうしたの?」

『そもそもその注意喚起、相当ギルドがトリトンを狙っている可能性高めだぞ』

「どういうことだ?」

『クレームがあったら通常、ただの連絡が送られるんだが、注意喚起という言葉を使ってわざわざ一人に対して送らないんだよ普通。その連絡が来たやつはみんな強い冒険者たちにしか送られない。したがって、トリトンはかなりギルドに監視されている可能性が高いな』


 これは驚いた。あの連絡にはそんな意味もあったのか。

 所謂「唾つけとこ」みたいな感じか。


「それはいい話を聞いたよ、ありがとう」

『後進の育成のせいか、初心者と関わる機会が多くてな。お節介したくなっちまうんだよ』

「いや、普通に俺は有り難いよ」


 それから数個の話題を挟んでから、"その話題"がやってきた。


『そういえばトリトン知ってるか?』

「ん?」

『最近冒フルで大きな動きがあったんだよ』

「冒フル? あぁ、あのフリマサイトのこと?」


 あぁ、そうだ。

 俺は入金してくれた方が色を付けたクサく、ありがたい事に生活費はだいぶ足りたので、ここまで適当な生活を送っているわけだ。

 あれから触ってないから後で見てみよっと。


『ああ、どうやらある一人の冒険者に対して情報を集めている奴がいるんだよ』

「へぇ、冒フルではよくあるのか?」

『まぁあるっちゃあるんだが、相手があの錬金術師のアールらしいんだよ』

「アール? その人は凄い感じの人か?」


『あぁ、初心者だからあんまりだとは思うが、凄腕の錬金術師と言われていて、ダンジョン用の装備を寸分違わず作り、幾度も冒険者たちを救ってきたと言われるアールゴッドハンドとすら呼ばれている。今じゃ一般相手に売ることの方が少なくて、たまに売られる武器や防具は高騰。とにかく企業やクランたちが何としてでも引き入れたい一人なんだが、一向に誰の手も握らず、一匹狼のまま。  

 だから⋯⋯なんだよ、その一匹狼が、たった一人の冒険者を探しているという事実が今冒険者界隈を荒らしてるんだ』


 そんな凄い人が探しているんだからさぞ凄い冒険者なんだろうな。

 やっぱりできる奴の周りには、できる奴が集まる。


 世の中そんな言葉を作った人には感謝しかない。

 俺は、この平凡かつありふれた生活でゲーマーとして活動していくさ。


 長く話しているオイゲンだが、まだ更に言葉を続ける。


『そんで探している冒険者なんだが、どうやら強い冒険者じゃないらしいんだよ』

「ん? というと?」

『どうやら、冒フルでは別名で活動しているらしくてさ、その活動中に"凄まじい物を送ってくれた"って言っていて、そのハンドルネームに関する事を金を払ってまで探しているらしいんだよ。1ヶ月前の事なんだってよ』


 背中が痒くなったのはきっと気のせいだろう。

 ⋯⋯まさかな。


「そ、そうなのか。ところでどんな情報を求めてるって言ってるんだ?」

『どうやらダイレクトメッセージを送ったらしいんだけど、一向に既読しなくて困ってるっていうところから始まって、個人番号の調査をさせて欲しいと言い出したり、ギルドに乗り込んで名簿を漁ったりしているらしい』


 俺はどう反応していいかわからず、「へ、へぇ」と遠慮気味に濁す。


『そうそう、そのハンドルネームなんだけど⋯⋯』


 この時、平穏に過ごそうとした俺の人生に要らない変化をもたらしてしまった日となった。


『VergoldeterSchmied、カタカナだとフェアゴルデッテシュミートって言うらしい。どういう意味なんだろうな』



⋯⋯⋯⋯。

 ⋯⋯勘弁してください。

 お願いですから俺の中二病をほじくり返さないでください。

 それ、アタクシの名前なの! ごめんなさい。


 ドイツ語カッコイイなって思ってちょっとハンドルネームくらいだったらいいかな? って思っちゃったのよ!


 あー、もしかして、もうこの名前は日本の冒険者たちに広まってるのかな?勘弁してくれって。

 なに? 原因は、あの金の事? 一体全体、どうなってるんや!?


 まずい、これは非常にまずい!

 早く対策を打たないと!


「そ、それで、その人は正体って明かしてたりしてるの?」

『いや、流石に明かしてない。だって、明かしたら確実にどうなるかが見え見えだから。分かるだろう? ゲームもそうじゃん?』

「まぁまぁそうだよな⋯⋯」


 全然よくない! 

 なんで明かさないの!? 頼むよ!


「マジか、」

『なんでトリトンがそんな焦ってるんだよ、なんかやらかしたのか?』

「そんなわけないだろ」

『あからさまに動揺し過ぎだろ。というより、トリトン冒険者のルールを忘れてないよな?』

「え? 何が?」


 頭を抱えているところへ、オイゲンが更に追撃を始める。


『いや、何って⋯⋯冒険者は二ヶ月に2回、なんでもいいから依頼をこなす必要があるのを忘れたのか?』


 ⋯⋯終わった。

 なんてことだ。


「そうだったー! 確かに書いてあったわ!」


 返ってくる呆れた嘆息と俺渾身の絶叫。

 すっかり忘れてた!

 なんで頭から消してたんだ俺は!


「そうとなれば、すぐに行かないと!」

『おいおい、待てって、レベル5じゃかなり場所は狭いんじゃないのか?』

「前掲示板で教えてくれた人がいてさ! その人が近くのダンジョンのおすすめしてくれたんだよ、ちょっと顔出しに行こうかなって!」

『ほーん、なら間違いなさそうだな。何かあったら連絡してくれよ? 力になるぜ、代わりにゲーム内通貨でお返しを心よりお待ちしておりますがね』


 オイゲンの嫌味ったらしい返しに抜かせと言い放って、俺達は切りのいいタイミングで通話を終える。

 そして、次の日。俺は早速前に教えてもらったダンジョンへと向かうのだった。

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