サッカー部の三馬鹿
「楓おはよ……う」
「おは……徹夜?珍しいねまた」
「徹夜はしてない、が……キリが悪くて。あと、長時間戦闘しっ放し続けたから疲労感が……」
「『ゲーマーたるものゲームを健康的に遊ぶべし』でしょ?彩雫がいつも言ってるのに自分でそれを破るなんてね」
「いやぁ、マジでミスった」
呆れ顔で見ているだろう親友の顔を見ることなく遅い動きで襲いかかってくるゾンビのような動きで自らの席へと向かう。
そのまま精も根も尽き果てたと言わんばかりに重力に身を任せかばんを床にドカッと置きつつ机へと横たわる。
チャイムが鳴ると同時にガラリと横開きのドアが音を立てて開き、騒がしかった教室が静寂を取り戻す。
「おはようみんな、ホームルーム始めるわよ」
特に重要そうな連絡事項はないな。
えっと今日は体育、英語表現Ⅱ、現代文、生物基礎、数学Ⅱ、古典……なるほど出落ち授業の日だったか。俺は楽しみを最後に取っておく方なのだが……まぁ、今日に限っての1限体育は眠気も冷めるしちょうどいい。えっと確か今週はサッカーやるんだったか?
先生の話が終わり教室が朝イチとは思えない喧騒を取り戻し各々が次の体育の準備を始めだす中、楓が近づき話してくる。
「彩雫は寝不足だけでそんなにダウンしないでしょ?何があった?」
「あー、昨日先輩助けるって言ってたじゃん?帰ってから急いで引き返して先輩を助け出したのは良かったんだけどさ、戦闘になるわけで……まぁ要点だけ言うと3時間ぶっ続けで戦った」
「また馬鹿なことやってるね、で?」
「もちろん勝ったぞ、その犠牲が腕の筋肉痛とこの疲労感なわけだが」
「ふーん、話聞いてたらやっぱり俺も買いたくなってきたな。結構値が張るから様子見してたんだけど、どうやら当たりみたいだし」
まぁ1万円もするし楓のようなライトゲーマーにはきついよな。マルチ機能もないから俺に合わせて買うとかもないし。やったらおもしろいしお勧めはするけど。
そんなたわいのない雑談をしながら体育の準備をし、昨日の雨でところどころに水溜りのあるぬかるんだグラウンドへ出る。
「3週間後に球技祭がある!そこで……今日から授業はサッカーをする!!!」
「「「「「うぉおおおおおおおおおおお!」」」」」
2組分の野郎どもの大きな返事が学校中に木霊する。……ほかの授業の邪魔になってないかこれ?ま、気にしてもしかたないか。うぉおおおおおおおおおおお。
「あはは、すごい盛り上がりだね」
「そりゃあサッカーだしテンションも上がるってもんだろ」
体育スポーツ人気度ランキングNo1(多分)だからな。だが元から怪我の多いスポーツだし、この盛り上がり様だ。ちゃんと準備運動しないとな。いっちにーさんしー……
「うっし、準備運動したな!それじゃ早速だが試合するぞ!1クラス15人くらいか、ならチームは……クラスごとでいいな!いい感じにベンチ回しすること!それでは各自作戦会議!」
クラスごとか……、うちのクラスは16人だから5人ベンチだな。
「うちにサッカー部っていたっけ?作戦会議するならそいつらに任せようぜ」
「全く、彩雫それぐらいは覚えておきなよ。田中と鈴木と佐藤の3人がいるでしょ?田中とか部長だし」
……
……
「誰だっけ」
「「「おい!」」」
「いやぁおいといわれましても、お前ら3人常に一緒にいるだろ?んで、お前らみんな同じような髪形と顔のイケメンだろ?イケメン仲良し3人組としか覚えてなかったわ、すまんね」
「「それなら、仕方ないな!」」
「いや、仕方なくねぇぞ?!流されんな鈴木佐藤!おい、三矢同じクラスだろ?せめて名前くらい覚えとけ!」
「田中、うるさいぞー準備できたのか~」
そうでした授業中でしたね。騒いですみません。
「いえ、まだです!ごほんっ、今回の試合俺
「まず、ベンチでもいいぞって奴いるか!?」
「俺ベンチでもいいよ」
「お!そうか、助かる月城!」
「サボりたがっただけだろ?」
「いやいや、そんなことないよ。皆がやりたいかなぁって……」
「あと4人……いないな!それじゃあじゃんけんで」
「彩雫もベンチでいいらしいよ」
「おい、俺はそんなこと一言も……」
「そうか、ありがとう!三矢くん!」
「っぐ」
こいつ……名前すら憶えていなかった俺になんて純粋な目で感謝しているんだ。にやにやとこちらを見ているあの腹黒金髪とは違ってもしかすると田中は結構いい奴なのかもしれない。
その後田中の進行でベンチとそれぞれポジションが決まる。
「よっし、皆絶対に1組に勝つぞ!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
「2組ファイトー!!!!!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」」
「なぁ俺が聞くのもなんだけどさ、あいつら何であんなやる気あるの?」
「あーそっか彩雫ああいうのに興味なかったもんね」
「ん?」
「1組には、学校で誰が一番かわいい?って話題で最初に出てくる2人、八重さんと高宮さんがいるからね。球技祭になれば応援される1組男子にちょっとしたヘイトがたまってるみたいで」
聞いたことはある。八重さんは確か何かの家元の出で学年首席にして品行方正。かと言って真面目なだけという訳ではなく誰とでも笑顔で接する美少女。そんな八重さんとよく比較されるのが高宮さん。真面目な八重さんとは対照的に高宮さんは世間一般で言うギャル。だれとでも垣根なく接する性格の良さ。そして豊かな胸。そう豊かな胸を持つギャル。いや、クラスの人が言ってただけだよ?ほんとだよ?
「そうなんだよ!」
「あー、佐藤!」
「鈴木だ!じゃなくて、1組のやつらが自慢しやがるから何があってもあいつらにいい所を用意してやるわけにはいかない!」
「なるほどな、んであわよくば自分のいい所を見せようと……じゃあ球技祭まで適当にやったほうが戦力ばれないしいいんじゃないか?」
「それはそれ、これはこれ!勝負事で普通に負けたくない!」
なるほどこいつとは気が合いそうだ。何事も勝ちたい気持ちが大切だ。
「……それにもしかしたら、ほら体育館を見てみろ」
「あるな、女子達がバスケしてるな。んで?」
「そう!ベンチ休憩している女子がもしかしたらこっちを見ているかもしれない!」
「なるほど、楓。こいつ馬鹿だぞ」
「いやぁ、こいつというか男子という生き物の基本習性じゃないかなぁ。むしろ女子に興味ない彩雫の方こそ異常という視点もあるよ」
「三矢まじかよ、それは異常だわ!」
ジャーマンスープレックス(仮)入りまーす。
「ちょっ、痛っ!おま、これ本当に痛いって」
「彩雫は無駄に運動神経いいからね」
無駄にとか言うなって。確かに部活にも入らずゲーム三昧だけどさ、ゲームで役立ってるんだから無駄ではないだろ。
「そ・れ・に!こういうところでも役に立つから、な!」
「ギブギブ、サッカーできない体になっちゃううう!」
そういやサッカーの授業中だったな。これくらいにしといてやろう。
「てか、田中サッカー部なんだろ?なんでベンチにいんだ?」
「鈴木だ!わざと間違えてるだろ?!じゃなくて、ほら、うちのキーパーを見てみろ」
「あぁ鈴木がいるな」
「佐藤な。鈴木は俺だ。もぉなんなの……じゃなくて!俺もキーパーだからな!じゃんけんで負けた」
まさかのサッカー部3人中2人がキーパーだった件について。
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