【二周目】
「それじゃあ、今日はこれで解散にしよう」
気が付くと、目の前には殺されたはずのブルーが笑顔で立っていた。
この光景を覚えている。
一昨日の夜、俺達五人は次に現れる怪人といかに戦うかを基地で話し合っていた。
本当に一昨日の夜にタイムリープしたんだ。
「ブルー、本当にお前なんだな」
俺は思わずブルーを力強く抱きしめた。
するとブルーは困惑した表情で、
「突然どうしたんだよ、何を言っているんだ?さては、相当疲れが溜まっているな」
と俺を心配するように言った。
「ブルー、よかった。また会えてよかったよ」
「イエローまでどうしたんだよ、急に泣き出したりして」
ブルーは俺達の異変に気付いたが、だからといって俺達を無理に詮索するような真似はしなかった。
ブルーはイエローが泣き止むまで彼女の手を黙って握っていた。そして彼女が落ち着きを取り戻すと、
「四人とも、今日はしっかり休んだ方が良い。みんな疲れているみたいだからね。それじゃあ、また明日」
そう言って彼は基地を出て行った。
「どうしてブルーを止めなかったの?このままじゃ、またブルーは殺されちゃうよ」
ブルーが基地から出て行くと、すかさずグリーンが俺に言った。
「よく考えてみろ、『お前は今から何者かに殺される』なんて言ったところで、さすがのブルーも信じないだろ。それに、ブルー自身はこの事実を知らない方が良いと思う。だからブルーに気付かれないように、俺達だけで犯人を捕まえるんだ」
五日前の日曜日に異世界からやって来た『鉄骨怪人ハガネーン』は、既に三日前の火曜日に倒している。
怪人出現のルールが今まで通りであれば、今この地球上には怪人はいないことになる。
つまり、ブルーを殺した犯人は怪人ではない可能性が高い。
万が一にも『人間』がブルーを殺したのだとしたら・・・。
そう考えると、やはりブルーには真実を伝えるべきではないと思った。
俺は他の三人を基地に残し、一人でブルーを尾行することにした。
そして彼を尾行しているうちに、とある事実に気が付いた。
ブルーはあの日の夜とは明らかに異なる道を通って家へと向かっている。
彼は基地から家へ帰る途中に何者かに殺されたのだが、彼が殺された殺害現場はいつも彼が家と基地の往復に使用している道の途中だった。
しかし、この道順だと家まで少しだけ遠回りになり、しかも彼が殺された場所を通ることなく家へと着くことになる。
理由は分からないが、あの日の夜とは確実に状況が異なっていることは確かだった。
本来とは異なる道を通っているということは、つまりブルーが殺されるという事実も無かったことになる。
犯人は分からないままだが、ブルーが無事だという事実さえあれば十分だ。
そう思い安心した俺は、三人が待つ基地へと帰ることにした。
「レッド!どうだった!?」
基地に戻ると、ピンクが一番に尋ねてきた。
「大丈夫、ブルーなら無事に家に帰ったよ」
「犯人は誰だったの?」
「それは分からない。でも、ブルーはあの日とは異なる道を通って家に向かった。つまり彼は、彼が殺された殺害現場を通ることなく家へと帰ったんだ」
「じゃあ、ブルーは本当に無事なのね。でも、どうしてブルーは本来と違う道を通って家に帰ったのかしら?私達が何かをしたわけでもないのに」
「その点も気になるけど、まずはブルーを殺した犯人を見つける方が先だ。もしあれが無差別による殺人で、偶然にもブルーが殺されたのだとしたら、ブルーの代りに誰かが殺される可能性が高い。本来ブルーが殺されるはずだった場所を中心に、皆で手分けして犯人を捜そう」
俺達は手分けして犯人や犯人につながりそうな手掛かりを探した。
そして捜査を始めてから一時間程が経った頃、グリーンから電話が掛かってきた。
「どうしたグリーン、何か分かったのか?」
「・・・レッド、どうしよう。ブルーが、ブルーが・・・」
電話越しでも分かるくらいにグリーンは動揺していた。
「落ち着けグリーン、ブルーがどうかしたのか?」
「・・・ブルーが、遺体で発見された」
急いでグリーンから聞いた住所まで駆け付けると、そこには既に数台の警察車両と警官がいた。
ブルーは本来彼が殺害された場所とは異なる道中で遺体となって発見された。
俺は目の前で慌しく駆け回っている警官達を呆然と見つめながら、自分の考えの甘さを恥じた。
殺害現場を通らなかっただけで、ブルーが殺されないという保証は無い。どうしてそんな当たり前のことに気が付かなかったのだろうか。
自身の考えの甘さを恥じる一方で、俺は一つの確信を得た。
これは無差別による殺人ではなく、犯人は最初からブルーだけを殺すつもりだったのだ。
でも、なぜ犯人は本来とは異なる道順で家へと向かったブルーを殺すことが出来たのか?
俺はずっとブルーを尾行していたが、怪しい人影は無かったはずだ。
つまり犯人はブルーが来るのをずっと待ち伏せしていた可能性が高い。
なぜ犯人は本来とは異なる道を通って帰っていたブルーを待ち伏せすることが出来たのか?
ブルーがいつもとは異なる道順で家へ帰ることを、犯人はどこで知ったのだろうか?
俺達は必死で犯人を捕まえようとしたが、謎は謎のまま日曜の朝を迎えてしまった。
「またタイムラーに時間を戻してもらうつもり?」
一人で基地を出て行こうとする俺にイエローが言った。
「それしか方法はないだろ」
「それはそうだけど・・・。でも、また過去に戻ったとしても、犯人を捕まえなきゃ結局ブルーは殺されちゃうじゃない」
「そんなことは分かってる。俺にだってちゃんと考えはあるよ」
「考えって?」
「それは・・・、今は言えない。悪いが、今回は俺一人に任せてくれないか」
俺はグリーンとイエローとピンクの三人を基地に残し、一人でタイムラーが異世界からやって来るのを待った。
「結局、お仲間は救えなかったようだね」
「ああ、救うどころか犯人すら分からないままだ」
「それで、今度はどうするつもりだい?」
「もう一度、一昨日の夜に戻してくれないか」
「私のこの力があれば、地球を征服することなんて容易いもんさ。君達の茶番に付き合うのも、私にとってはただの暇つぶしにすぎない。君達をまた一昨日の夜に送ることは造作も無いことだが、君達を一昨日の夜に送ったところで、どうせ結末は変わらないんじゃないか?」
「いや、変えてみせる。必ずブルーを救ってみせる。それに今回は、俺だけを過去に送って欲しいんだ」
「君だけを?」
「ああ、そうだ。俺達は過去に戻ったが、結局ブルーは殺された。だがあの日、ブルーは本来とは異なる道を通って家に帰ろうとしたんだ。俺はずっとブルーを尾行していたから、彼の周りに不審な人物がいなかったことは確かだ。つまり犯人は、最初からブルーが異なる道を通って帰ることを知っていた可能性が高い。そのうえで犯人はブルーを待ち伏せして殺した。つまり犯人は、俺達がタイムリープをした結果、何かしらの影響で過去が変わることを事前に知っていた可能性が高い」
「それはつまり、君の仲間の誰かが犯人にタイムリープのことを教えた。もしくは君の仲間の誰かがブルーを殺した張本人だと、君はそう考えているということかい?正義のヒーローともあろう君が、仲間のことを信用していないとは滑稽だな」
「俺は仲間を信じている。だからこそ、グリーンとイエローとピンクがブルーの殺害と関係無いことを証明する必要があるんだ」
「なんと言おうと、君が仲間を少なからず疑っていることは事実だろう?面白い、君達の茶番にもう少しだけ付き合ってあげよう」
そう言うと、タイムラーは呪文を唱えた。
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