第5話リュミエール救済院

「選びなさい。ここにずっといるか。私の専属騎士となり忠誠を誓うか」




「お父様。お母様。今日から四日間リュミエール救済院のところに行こうと思います」


リュミエール救済院。


ブローディア家の前当主の妻が貧民を救済する為に建てた。


そのため、ブローディア家の人間はリュミエール救済院を訪ね問題ないか確認しに行く。


都会ではなく田舎に救済院があるのでで空気が良い。


「そうか。気をつけて行くんだぞ。本当は一緒に行きたいんだが……」


「大丈夫です、お父様。わかっております。リュミエール救済院は私にお任せください」


サルビアは当主の仕事に専念して大丈夫だと。


「そうか。では、任せるぞ」


「はい」


「マーガレット。気をつけて行ってくるのよ」


「はい。お母様。では、行って参ります」


マーガレットは馬車に乗り数人の使用人と護衛を連れて救済院に向かう。


二度の人生でマーガレットはこの時期に救済院を訪ねたことはない。


それ以降もなかった。


行きたくてもアネモネ達の策略のせいでそれどころではなかったからだ。


だから、今の内に行って問題がないか確認しておこうと。


領主からの報告では今年も何事も問題なく皆平和に暮らしていると書かれていた。


問題はないと確認がとれたら復讐を本格的に実行に移す。


もしかしたら、復讐を終えるまで来れないかもしれないから。


せめて一度は訪れないと。





「(これは一体どういうこと)」


報告とは違う町の有様に何も言葉がでてこない。


マーガレットが前回きたのは一年も前。


その時は緑に囲まれた町で人々に癒しを与える町として有名だった。


春になるとネモフィラが咲き乱れ、一目見ようと大勢の人が訪れる。


都会とは違った良さがこの町にはあり旅行に訪れる人は季節問わず結構いた。


それが今はどうだ。


緑に囲まれた町はその面影すらなく、土は乾き木は枯れ果てている。


色鮮やかだった町が茶色一色に変わっている。


活気に溢れていた人達は痩せこけ正気のない顔をしている。


「たった一年で何があったらこうなるの」


二度の人生ではこんなことなかった。


まさかアネモネも回帰しているの。


何故かこれにアネモネが関わっている気がした。


「領主のところに行くわ」


どういうことなのか説明してもらわなければならない。


町の状態は月一の報告では「何も問題はない」と書かれていた。


これのどこが「問題はない」のだろうか。


領主に直接問わなければ気が済まない。


本当なら今頃リュミエール救済院にいたはずなのに。


「二人は私と一緒に来なさい。残りの者は情報収集と町の人達の手当てをしなさい」


マーガレットの命令に指名された二人以外の何人かが一瞬嫌そうな顔をするもすぐに「かしこまりました。お嬢様」と言って動きだす。


使用人達の気持ちがわからなくないわけではない。


どうしてこんなことになっているのか理由がわからないのに、無闇やたらに町の人達の手当てをしたら病気をもらうかもしれない。


もしかしたら、死ぬかもしれない。


感染するのかしないのか、わからない状況のなか動くのは怖い。


だか、誰かがやらなければならない。


彼らを見捨てるわけにはいかない。


「行きましょう」




「領主、これは一体どういうこと説明してください」


領主の元に一緒に来た護衛二人はマーガレットの後ろに待機させる。


怒りをなんとか抑えながら尋ねるも、領主もまた町の人達同様痩せこけボロボロの服を着ている。


「今更来たと思えばそんなことをおっしゃるのですね」


領主は嫌味ったらしく言う。


「それはどういう意味ですか。遠回しに言うのではなくはっきりと言ってください」


「わかりました。そうさせていただきます。何故今更こちらにいらしたのですか。こちらがどれだけ助けて欲しいと頼んだときには返事の一つもよこさなかったくせに」


今にもマーガレットに食ってかかりそうな勢いで叫ぶ。


騎士達はそんな領主を鬼のような目で睨みつけるも、同じような目で領主も睨み返してくる。


「何か勘違いしてませんか。こちらは毎回返事を書きました。それに月一の報告では何か困ったことはないかの問いに、何も問題はないと書かれていたではありませんか」


「そんなことは一言も書いておりません。この町に異変が起きたとき、毎日手紙を書き助けて欲しいと懇願しました」


二人はお互いの主張が明らかに異なっていることに不審を持ち、そこで初めて何かがおかしいと気づく。


「アスターさん。私はブローディア家の名に誓って嘘は言っていません。アスターさんから送られたきた手紙は全て保管してあります。今手元にはないので見せることはできませんが、それを見れば私が嘘をついていないとわかるはずです。もし、本当に助けを求められていたら必ず私達は助けにきます」


「嘘ではありません。本当に毎日助けを求める手紙を書きました。ここ一か月は見捨てられたと思い書いていませんでしたが、本当です」


マーガレットはアスターが嘘を言っているようには見えない。


では、何故こんなことが起きたのか。


考えられるのは一つだけ。


「誰かが私達に嘘の手紙を渡し、貴方達には私達の手紙を渡さなかったのでしょう」


「一体誰がそんなことを……」


「そんなことができる可能性が一番あるのはそれを配達するものでしょう」


「……そんな……うそだ……あいつがそんなことを」


バタン。


領主は顔を真っ青にして椅子から崩れ落ちる。


当然だろう。


希望を託してその者に手紙を預けたのに裏切られていたなんて信じたくはないだろう。


「アスターさん。今すぐその者をここに連れて来てください。その者が本当にそんなことをしたのか話を聞かなくてはなりません。それに、もしかしたら違うかもしれません」


「は、はい」


領主は急いで部屋から出ていき自分の部下に配達人を連れてくるよう命じた。


だが、マーガレットはその者がここにくることないとわかっていた。


マーガレット達がこの町にきたときに遅かれ早かれ手紙の内容か書き換えられていることに気づき、自分に疑いの目が向けられことには気付いた筈だ。


犯人なら気づかれる前にここから逃げだす。


相当口に自信がなければそうするだろう。




「マーガレット様。本当に申し訳ありません。私の不手際でこのようなことになり、挙句の果てにはシャガを捕まえることができませんでした。全ては私が至らないのに、ブローディア家の恩を仇で返したばかりか見捨てられたと勝手に勘違いをし憎んでおりました。この罪は必ず受け入れます。ですが、どうか、どうかこの町を救うのに力を貸してはいただけないでしょか」


アスターは部屋に戻ってくると床に頭をつけ土下座して町を助けてくれと頼む。


「アスターさん。頭を上げてください」


マーガレットの言葉でゆっくりと顔をあげる。


「確かに今回の件は少なからず貴方にも責任はあります。そして、それは私達ブローディア家にも言えることです。何故このようなことになったのか必ず突き止めなければなりません。そして、こんなことをした愚かな者達に厳しい処罰をしなければなりません。ですが、その前にこの町を共に救いましょう」


「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


アスターはマーガレットに泣きながら何度も頭を下げ感謝を述べる。


とりあえず、今からやるべきことを二手にわけてやるが一旦マーガレットは屋敷に戻ってサルビアにことの詳細を報告しに行くことにした。


これはマーガレットが直接報告しなければならない。


アスターも同じ考えだった。


手紙の内容を変えるには配達人だけでは無理だ。


間違いなく公爵家の中にわざと手紙を送らなかった者がいる。


今頃、公爵家では誰かが辞めたか姿を消した者がいるだろう。


必ず見つけなくてはならない。


これは時間との勝負になる。


マーガレットは護衛を一人とアスターの部下を一人引き連れ屋敷へと急いで戻る。

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