data014...白衣の女の子

「こっちです」


 ボクは気を失ったマリンを抱き抱えながら、白衣の女の子と共に廃墟ビルの中を歩いていた。


「ところで、貴方いったい何者なのですか? メタリアルなのに、ゼクトネットワークの影響を受けてないみたいですけど……」


『えっと、ボクにはネットワーク機能やGPS機能が無いみたいなんです。最後に記憶しているのは2000年代初頭でして、気付いたらこの時代に……』


「2000年? でもその装備を見る限り、ナナロクより後の時代に作られたと思いますけど……」


 ナナロクって名前は聞いたことがある。マリンがボクの名前を決めてくれた時に出てきた名前だ。

 それにしても、ボクは1000年も前の機体なのに、ナナロクっていうロボットより後に作られた? そんなことあるのだろうか。


【 帰還でござる 】


 ボクらが廃墟ビルの中へ入るのと同時に、ムサシが戻ってきた。


『大丈夫だった?』


【 敵性対象は真逆の方向に誘導したでござる 】


『そっか、ありがと』


 特に破損ししもしてないみたいだ。

 一度ボクの中に戻しておこうかな。

 

「あの、すみません。これ、開けられますか?」


 ムサシをボクの身体の中に戻していると、女の子が話しかけてきた。女の子が屈んでいる地面をよく見ると、砂と埃の中に黒と黄色で塗られたマンホールの蓋が見えた。


『任せて』


 ボクはマリンを片手で抱えると、扉の取っ手を掴んでフルパワーで引っ張り上げた。

 ガコン! という大きな音と共に砂煙が上がり扉が開かれると、マンホールの中には螺旋階段が続いていた。


「確かこの辺に……。あった」


 ウィィィンという重低音が鳴ると、螺旋階段に電気が灯って明るくなった。


「よかった機能は生きてそうですね。入りましょうか」


 避難場所っていうから、第七セクターから逃げた人が集まってる大きな施設を想像してたけど、ここはどうやらシェルターのようだ。


 カツンカツンと、階段を降りるボクの足音が反響する。


『ここは、なんですか?』


「シェルプラグですけど……。あー、2000年代のデータしかないんでしたね。えっと、簡単に言うと緊急用のシェルターです。天災などの時を想定して作られたものです」


 2000年代でも異常気象などは社会問題になっていたが、それ以降は悪化の一途を辿り、地震や竜巻など天変地異が多く、このような施設があちこちに作られてるらしい。


『なるほど……。あの、お名前を聞いてもいいですか?』


「言ってなかったですね。私はアイナと言います。第七セクターの研究員で、主にジェネティックノイドの研究を行っていました」


『その歳で……ですか?』


 アイナと名乗った女の子は、どう見ても十二〜十四歳くらいにしか見えない。それはボクがアイナの音声や肌年齢から取ったデータでも、そのように出ている。


「私たちは、ゲノム編集されて産まれてんです。だから昔の人間よりも平均寿命は長いし、病気にもなりにくい特徴があります」


 2000年代でもゲノム編集技術はあった。成長の早い木を作ったり、病気に強い野菜を作ったり、中にはクマムシから切り取ったDNAを人間に移植して放射能に強くしたりと、その成果は多岐にわたっていた。


『実年齢は何歳なのでしょか?』


「う、女性にそれ聞きます?」


『すみません……』


「驚かないでくださいね? 今年で四十歳です」


 ボクの予測データより倍以上の歳だ……。見た目からはまったくわからないなんて、すごい。


「あ、ババアって思いました? 酷いです……」


『そ、そんなこと思っていませんよ?!』


「ならいいですけど……」


 アイナさんと話していると、シェルプラグの最下層に到達。そこには所狭しと荷物が積まれていた。


 広さ的には四メートル四方の狭い空間。壁にはコンテナがたくさん配置されており、それぞれに「薬」「水」など刻印が彫られていた。


 ボクはマリンをそっと寝かせてると、首に触れて状態を確認する。


『《機能act》アナライズ』


――《解析結果》――――――

・体温:37.5度(微熱)

・心拍数:120(危険域)

・呼吸:正常

・怪我:なし

・酸素濃度:88%


 心拍数が120?! 普通の人で60-80なのに……。それ以外は少し微熱があるけど問題はなさそうかな。


『あの、マリンの心拍数が120もあるんですけど、大丈夫でしょうか?』


「ジェネティックノイドは元々心拍数が高いのです。その分、短命なんですけど……。あ、ありました。これをっと」


 アイナはコンテナの一つから、注射器のようものを取り出すと、荷物から取り出した薬品を注射器にセットしてマリンの首へ当てがった。


「よし、これで落ち着くと思います」


 そういってヘルメットを脱いだアイナさんは、背中まである長い綺麗な黒髪を垂らした。


『あのマリンは、どんな症状なんですか?』


「んー、簡単に言うと脳のオーバーヒートです。連続した超能力の使用は脳に負荷が大きすぎて、処理が間に合わなくなることがあるんです」


 確かにマリンはジュドーを助ける時、それからエアバイクに乗り込む時と、ゴリラ型メタリアルから逃す時に超能力を使っている。


『放っておくとどうなるんですか?』


「脳が焼き切れて、植物人間になってしまいますね」


 恐ろしい……。便利な能力だけど、使い方を誤ると死に直結してしまうのか……。寝ているマリンの顔は、さっきより穏やかになった気がした。


「うう……」


『マリン! 大丈夫?!』


「ここは……?」


 ゆっくりと目を開けたマリンは、目を細めながら周囲を探ると、アイナさんの前で視線が止まった。


「アイナ? 貴女、無事だったの?!」


「貴女こそ……。心配したんだから……ぐす」


 それだけ交わすとアイナさんは、マリンを強く抱きしめた。

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