白銀のメタリアル 〜荒廃した世界で心を探す〜

まめつぶいちご

プロローグ

『博士 ボクに心ハ アリますカ?』


「そんなもの。ロボットのお前に必要ない」


 博士はボクの質問にそれだけ答えると、また作業に戻った。ボクは、いま博士に作られている途中の家庭用ロボット。


 人間に良い生活を、快適な生活を送ってもらうために作られている。博士からは「お前は世界の救世主になる」なんて言われるけど、大袈裟すぎると思う。


『博士 1900年代ノ インプット終ワリまシタ』


「そうか、なら2000年代の資料を持ってくるか。それにしても、もう少し流暢に人間らしく喋れると良いんだがな……。まだまだ調整が必要か」


 ボクはまだ上半身しかまだ作られていなくて動けないから、作業台の上で人間の生活や文化などあらゆるデータをインプットする作業を行なっていた。


 どれもこれもお手伝いロボットとして配属されたら必要な知識だ。マナーや文化、育児に料理など覚える事はたくさんある。


「どこやったかな。ちょっとこれでも読んでろ」


 そう言って博士に渡されたのは、一冊の本だった。


『カシコまり マシタ』


 博士から受け取った本の表紙は『戦争の歴史』という本だったが、だけど開いてみるとカバーと中身が違っていた。中身の本のタイトルは『私の心』という本だった。


 その本には、一人の女の子マリンが心ってなんだろう?という疑問を胸に、心を探す旅に出るという話だった。


「あったぞ。……ん? なんだその本は、わしの渡した本はどうした」


『カバーと中身ガ 違っタようデス』


「勝手に情報を入れるな!ったく。ほら2000年代のデータだ」


 博士から渡されたデータメモリを受け取ると、胸部にあるスロットへ差し込んだ。




――ピッ……ピピピピ


 いつの間にか、ボクは電源が落ちていたらしい。


 体内に響く電子音で目が覚めると、内部で様々な機能が稼働していくのを感じる。体内のエラーを確認するため1番最初に人工脳が稼働すると、あちこちの体内データが集まってきた。


・外装:no erra

・内装:no erra

・基本機能:no erra

・エネルギー:warning


 詳細表示に切り替える事も出来るけど、問題なさそうだ。エネルギーが少ないみたいだけど、ボクは太陽光からも充電出来るから問題ない。


 頭の上から徐々に機能が復活していくと、最初に視界が戻ってきた。


『これは……いったい?』


 視界に映し出されたのは、廃墟と化した研究所だった。さっきまで博士とデータのインプット作業をしていたはずなのに……。


『博士どこですか? 《機能act》生体サーチ』


 とりあえず建物の内部とその周辺に生物がいないか調べたけど、博士は愚か小動物すらいないようだ。


 それにしても埃まみれの研究所は、まるで何百年も経ったかのような状態になっている。GPSを使って緯度と経度を調べたかったけど、何故か機能が削除されている。


 でも、ここがボクのいた研究所であることは間違いと思う。


『屋根が崩れたのか……』


 見上げると天井の一部が崩落して、ボクに太陽光が降り注いでいる。


『太陽光を浴びたから電源が入ったんだ……。あれ? なんかボク、流暢に喋れてる?』


 ボクの記憶では、まだややカタコトだったのに、まるで人間みたいに流暢に喋れることに驚いた。


『それに、よくみると外装も違う……』


 腕の機能が戻ってきたので視線にかざしてみると、角張った形状だった腕が、丸みを帯びた洗礼されたフォルムになっていた。


『なんの素材だろう? 《機能act》アナライズ』


 瞳に埋め込まれた解析機能で、自分の腕の材質を調べてみた。


――《解析結果》――――――

・カーボンメタリウム75%

・クロムヘラライト20%

・レジストリウム15%


 自分の装備なのに、見たことのない物質だった。ボクの膨大な知識の中にも存在しない物質だ。


 そしてボクの中に当然湧いてくる疑問。今は何年なんだ? ボクの最後の記憶は2250年だけど……。


 調べてみようとしたけど、困った事に何故かネットに繋がらない。GPS同様に機能自体が排除されていた。外部との接続機能はことごとく取り外されてる。


 仕方ないので体内時計を確認すると、そこには3580年4月12日と記載されていた。


『へ? さ、3580年? 1330年後?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る